「大東亜戦争」時の日本人は「自粛」しなかった=小林よしのり(漫画家)
新型コロナ禍を戦争に例える者がよくいるが、いつも、必ず例え方が間違っている。何よりこれが戦争だったら、自粛を徹底して経済を止めてしまうというのは全くおかしい。
「大東亜戦争」の最中、国民は空襲警報が出れば防空壕(ごう)に避難していたが、それ以外の時は普段どおりに暮らし、経済活動を続けていた。学校も休校になっていないし、寄席も毎日開いていて、戦争で息の詰まる気分を晴らそうとして客が来ていた。戦時中も国民総生産は右肩上がりで、ピークは昭和18(1943)年。米軍の攻撃が厳しくなった昭和19年に減少に転じるが、まだ微減程度で、経済が壊滅したのは敗戦の年、昭和20年だった。
大東亜戦争では310万人もの国民が死亡した。うち軍人軍族は230万人で、民間人の犠牲も甚大なものとなり、その被害は最後の1年間に集中している。だがそんな戦況の悪化した時でも、国民は連日防空壕に閉じこもって自粛していたわけではない。それは当たり前で、国民が生産を止めてしまって戦争に勝てるわけがないのだ。
戦中の日本人は310万人死んでも経済を止めなかったが、現代の日本人は42万人死ぬぞと脅されただけで(わしはそんなに死ぬとは全く思っていないが)、怯(おび)えて自粛して経済を止めてしまった。
戦後ニッポン人は小児病で甘ちゃんだらけと批判していたはずの自称保守派も、コロナの侵略には緊急事態宣言が遅すぎるとか、自粛しない奴は非国民だと怯懦(きょうだ)するばかり。生命至上主義の左翼と同じノミの心臓に堕してしまった。右派も左派も、今後はノミ族と呼んであげよう。
今は戦中の国民に倣って、粛々と経済を回すべきである。自粛したってウイルスは根絶できない。コロナとは共生するしかないのだ。
(小林よしのり・漫画家)
本欄は、池谷裕二(脳研究者)、片山杜秀(評論家)、小林よしのり(漫画家)、古賀茂明(元経済産業省官僚)の4氏が交代で執筆します。