国際・政治東奔政走

「GoToトラベル」成果なし、感染拡大助長の批判にも強気の菅氏 透けて見える「ポスト安倍最有力候補の自信」

    菅義偉官房長官の言動に自信が戻った?(首相官邸で7月9日)
    菅義偉官房長官の言動に自信が戻った?(首相官邸で7月9日)

     永田町の人物評価は目まぐるしく変化する。自民党の岸田文雄政調会長は「ポスト安倍」で本命視されてきたが、このところの下馬評は芳しくない。その裏で存在感を増しているのが菅義偉官房長官だ。

     安倍晋三首相は後継候補を要職に就けて競わせてきた。岸田氏は外相と政調会長、茂木敏充外相は経済産業相や経済再生担当相などを歴任してきた。河野太郎防衛相も前職は外相。西村康稔経済再生担当相は新型コロナウイルス対策の担当を兼務している。

    岸田氏「見放した」?

     その中でも岸田氏はポスト安倍の最有力候補とされてきた。だが、「首相は岸田氏を見放した」との臆測が、このところ永田町をにぎわせているのだ。

     新型コロナ対応で岸田氏は精彩を欠いた。当初、一律10万円の定額給付の創設を目指したが、麻生太郎副総理兼財務相らの強い反対にあうと、所得制限などがついた1世帯30万円に変更を余儀なくされた。

     その後の経緯は知られている通りで、公明党が政権離脱もちらつかせながら10万円を強く求めたことから、最終的に安倍首相が10万円を決断した。岸田氏ははしごを外された形となった。

     自民党議員は「岸田さんが10万円でもっと頑張っていれば、あの迷走はなかった。首相はがっかりしたのではないか」と語る。

     岸田派名誉会長の古賀誠元幹事長も首相の変心を感じたらしく、同派議員に「岸田さんは大丈夫なのか」と懸念を口にしたという。自民党の閣僚経験者は「後継の本命がいなくなっちゃった」とつぶやく。

     国民的人気で言えば、石破茂元幹事長が最有力なのだろうが、首相は「石破さんだけはダメだ」と言ってはばからない。

     本命不在の中で、じわりと復権しつつあるのが菅氏だ。

     菅氏は2019年4月、新元号「令和」を発表し、「令和おじさん」としてポスト安倍に急浮上した。だが、半年後には、菅氏に近い菅原一秀経済産業相、河井克行法相(いずれも当時)が公職選挙法違反の問題で相次いで辞任。側近で省庁への根回しを担ってきた和泉洋人首相補佐官のスキャンダル報道などもあり、菅氏は後継レースから外れたとみられてきた。

     新型コロナ対応では、2月末に首相は全国一斉休校を要請したが、菅氏はこの意思決定に関わっていなかった。「菅外し」「首相との不仲」説が流れた。

    首相との関係修復

     潮目が変わったのは、「首相は岸田氏を見放した」との説が出始めた6月ごろだろう。首相が6月19日に新型コロナの影響で自粛していた夜の会合を約3カ月ぶりに再開した際に、相手に選んだのは菅氏、麻生氏、甘利明税調会長の3人。12年の第2次安倍内閣発足以降、「政権の骨格」として重用してきたメンバーだった。

     首相は7月21日発売の月刊誌『Hanada』のインタビューでは、菅氏をポスト安倍の「有力な候補の一人」と持ち上げた。

     菅氏はポスト安倍に関して「全く考えていない」と言うが、言動には自信が戻ってきているように映る。

     いい例が、政府の旅行需要喚起策「GoToトラベル」事業だ。自ら主導し、東京を除外するなどの変更はしたものの延期をする気配はない。

     政局に関しても、同31日放送のTBS番組で、「(今秋の衆院解散・総選挙は)なかなか難しいのではないか」と否定的な見方を示した。「(解散は)首相の専権事項」と前置きはしたものの踏み込んだ発言で、首相との関係修復で自信が戻ってきている様子がうかがえる。

     新型コロナ対応を巡っては、菅氏と東京都の小池百合子知事との舌戦が続く。菅氏は7月11日に北海道千歳市で講演した際、東京での感染拡大を「東京問題」と切って捨てた。菅氏には、東京都が感染状況を迅速・的確に把握できていないことや、軽症者が療養するホテルの室数が足りていないことなどへの不満が鬱積していた。

     小池氏のパフォーマンス先行も許せなかったのだろう。政府関係者は「小池さんは都民や飲食業者に自粛を要請するだけ。それ以外に仕事をしていないでしょう。ホテルだって契約が切れる前にちゃんと確保しておけという話だ」と強く批判する。

     対する小池氏は感染防止策を「冷房」、GoTo事業を「暖房」に例え「冷房と暖房の両方をかけることについて、どう対応していくのかというのは、むしろ国の問題だと思います」と反撃。東京を除外したことについては「それは国が『よーく』ご判断されたことなんだろうと思います」と皮肉を込めて論評したが、菅氏はまったく意に介していない。

     首相は6月の国会閉会時に記者会見をして以降、7月に感染が急拡大したにもかかわらず会見を行っていない。野党が求める国会召集も応じない気配だ。首相が表舞台に出てこない以上、スポークスマンとしての菅氏の役割が増していく。

    「新型コロナ対応が重要な局面で、政局の時期ではない」と語る菅氏だが、コロナ対応も政局もキーマンとして復活したことは間違いない。

    (高塚保・毎日新聞政治部長)

    (本誌初出 本命不在になった「ポスト安倍」 キーマンに再浮上した菅氏=高塚保 20200825)

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    12月15日号

    税務調査 コロナでも容赦なし!16 コロナ「中断」から再開 効率化で申告漏れ次々指摘 ■種市 房子19 元国税局芸人に聞く! さんきゅう倉田「手ぶらでは調査から帰らない」23 国税の「最強部隊」 「資料調査課」の実態に迫る ■佐藤 弘幸24 「やりすぎ」注意! 死亡直前の相続税対策に相次ぎ「待った」 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事