資源・エネルギー沸騰! 脱炭素マネー

「脱炭素」に向け世界中で大変動が起きている…… ENEOS杉森務会長が「あと20年で石油の需要が半減する」と予想する理由とは

「石油需要は20年で半分に 脱炭素投資は世界の潮流」

 世界的な脱炭素のうねりに日本の財界はどう向き合うか。経団連副会長で、石油元売り最大手のトップに聞いた。

(聞き手=岡田英/稲留正英・編集部)

── 欧州連合(EU)は、脱炭素化を成長戦略に掲げ、関連市場の主導権を握ろうという野心も垣間見える。財界として危機感は。

■環境対策は、世界的な主導権争いの様相だ。脱炭素社会の実現には技術革新(イノベーション)が必須で、競争になるだろう。莫大(ばくだい)な投資が必要で、官民の資金を呼び込まねばならない。経団連は6月、脱炭素社会の早期実現に向けた企業の具体的な取り組みを集める「チャレンジ・ゼロ」を始めた。当初の参加企業・団体は137だったが、直近では153(8月末時点)に拡大。政府とも連携して投資を呼び込み、イノベーションを促して環境と成長の好循環につなげることが重要だ。

── 日本の脱炭素化への取り組みは遅いのでは。

■2010~19年の再生可能エネルギー分野への投資額を見ると、日本は中国、米国に次いで世界3位。遅れている印象はあるかもしれないが、投資はしっかりやっている。特に、省エネ技術や、二酸化炭素(CO2)を回収して地中に貯蔵・活用する技術(CCUS)といった日本の強みがある分野には投資がされている。分野によって差はあっても、トータルで遅れている認識はない。

── 英石油大手BPが30年までに石油・ガスの生産量を4割減らし、化石燃料から再エネにシフトする方針を打ち出した。

■BPの急旋回は画期的だ。欧州では、投資家や市民が気候変動対策を強く求める傾向があり、投資を呼び込むには脱炭素化に向けた姿勢をより強くアピールする必要があったのだろう。方向性は日本でも同じだ。ENEOS(エネオス)は日本国内の石油販売のシェア5割を占める会社だが、長期戦略の中で石油の需要は40年に半分になると見込む。自社排出のCO2を減らし、技術革新で低コスト化した再エネやCCUSの推進などで40年のカーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ)を打ち出している。脱炭素化への投資を増やす方向性は世界のエネルギー企業の潮流だ。

投資家の意識変化

── 機関投資家が企業の環境への取り組みを重視する傾向は強まっていると感じるか。

■一番怖いのはやはり、ダイベストメント(投資撤退)。こうした動きは欧州が中心だったが、世界的な流れになりつつあり、日本の金融機関も大きく変わろうとしている。これまでは、ESG(環境・社会・企業統治)の取り組みを投資家に説明しても質問を受けなかったが、昨年あたりから大きく変わり、意見や要望が強くなっていると肌で感じる。

── 何が脱炭素化の軸になるか。

■まだ一つの分野に絞らず、幅広く取り組むべきだ。水素は有力ではあるが、製造過程でCO2を排出しない水素を技術革新でいかに大量に安くするかがポイント。また、こうした温室効果ガスを排出しない「ゼロエミッション」の技術が普及するまでは、化石燃料をいかに高効率に利用するかも重要なイノベーションだ。

── CO2排出量に応じて課税する炭素税など、カーボンプライシングの導入は。

■イノベーションを生むには、活力ある経済があり、技術開発する投資余力がないといけないのに、その原資を奪いかねない。ただでさえ高い日本のエネルギーコストがさらに高くなれば、産業競争力も失われる。強制的手法でなく、環境整備によるイノベーション促進が重要だ。

(本誌初出 インタビュー 杉森務 日本経済団体連合会副会長(ENEOSホールディングス会長) 20200915)


 ■人物略歴

すぎもり・つとむ

 1955年石川県出身。79年一橋大学商学部卒業、日本石油入社。2018年JXTGホールディングス社長、経団連副会長。20年6月よりENEOSホールディングス会長。

インタビュー

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