一律10万円給付の効果は絶大だった……コロナショックによる大恐慌到来の悪夢から日本経済は徐々に抜け出してきている
新型コロナウイルスの感染第1波が終わり、企業の生産活動が徐々に再開された後も、一つの懸念が残っていた。それは雇用関連統計の回復である。
もしコロナウイルスが長期間居座ることになった場合、以前ほどの人員は必要ないことになる。経営者がそう判断してしまえば、それまで控えてきた人減らしが遅行して発生したり、賃金カットで雇用者の所得が減ったりして、いわゆる不況(悪循環)が発生してしまう。ちょっとした生産回復では、この圧力に立ち向かえないのではないか、という危惧が、筆者には残っていた。
ただ、その後の経済統計を見ていると、悪循環は発生しなかったように見える。まずは、特別定額給付金などによる大きな止血効果が働いたのだろう。
雇用・賃金統計も反発
図1は家計の実質消費支出を示す代表的な指数だが、6月にかけて大きく反発し、比較的短期間にコロナ以前の水準を回復させることに成功した。給付金は日本だけの施策ではないが、導入には意味があったようである。
むろんそれだけでは一過性に終わってしまうが、雇用者数や賃金統計(図2)にも6月にはささやかながら反発が表れた。つまり経営者が絶望して雇用面での大調整が始まるというコロナ不況シナリオは、とりあえずは回避されたと言っていい。
国民の自発的な自粛が広がったことによって、コロナウイルス感染第2波もそのピークを越えた。経済統計には発表までのタイムラグがあるので、渦中だった7~8月の状況はまだ確認できないが、たとえば都営地下鉄の通勤時間帯乗車率は、7月8日の週がマイナス31・8%(1月対比)だったのに対し、8月19日の週はマイナス41・3%と再び大きく下落している。このような再自粛分は再び経済統計を押し下げることになるだろうが、4月ごろにはマイナス7割だったことを考慮すれば今回の自粛幅は小さいので、悪循環を心配する必要はないと考えられる。
しかし、「国民に警戒を呼びかけるだけで済むなら、第3波も第4波も安心だ」「自宅療養を増やし、入院期間を短くすれば医療崩壊もない」などと政府やメディアに油断されても困る。
国民や企業が納得し、安心できる検査防疫体制を築くことができた国だけが、経済のスピードを上げていけるのは、先月も示したとおりである。コロナ不況は避けられたとしても、コロナ不信が居残ると厄介なことになる。底入れ後の回復速度の優劣が、今後の日本企業の市場支配力を左右することを忘れてはならない。
(藻谷俊介、スフィンクス・インベストメント・リサーチ代表取締役)
(本誌初出 免れたコロナ不況の最悪シナリオ=藻谷俊介 20200915)