経済・企業「安倍から菅へ」

アベノミクスは「財政ファイナンス」で将来にツケを回し「生産性向上」を怠ってきた……次期政権に降りかかる日本経済の「3つの課題」とは何か(木内登英)

    東京一極集中の是正も新政権の課題だ
    東京一極集中の是正も新政権の課題だ

     安倍晋三政権下で実現された雇用拡大などの比較的良好な経済環境は、国内政策の効果というよりは世界経済の長期回復の追い風による部分が大きかった、と筆者は考えている。

     その追い風がいずれ逆風へと転じることに備えて、財政の健全化や金融緩和の正常化を進めておくべきではなかったか。そうしていれば、現在の空前の経済の悪化のもとでも、政策の対応余地はもっと残されたはずだ。

    構造改革は成果なし

     安倍政権の経済政策は、「デフレ克服」を最大の目標に掲げ、それを実現するため、空前の規模の金融緩和と財政出動を柱として需要創出に注力した点に大きな問題がある。それらは日本経済、そして国民に大きな「負の遺産」を残してしまったと言える。

    「異次元緩和」と呼ばれた日本銀行による異例の金融緩和策は、当初期待されたような効果を発揮することはなかった一方、大きな副作用、潜在的なリスクを累積させることになった。

     具体的には、金融機関の収益環境悪化、金融市場の機能低下、財政規律の緩みの助長、日銀の財務悪化を通じた独立性低下のリスクなどである。肥大化した日銀のバランスシートを正常化し、こうした副作用を取り除くには膨大な時間を要するだろう。

     日銀が国債を大量に買い入れ、そのもとで政府が金利上昇リスクを強く警戒せずに「デフレ克服」のために国債発行で賄う形での財政拡張策を断行していく、という「財政ファイナンス」が実質的に進められてきた。それは将来の需要を前借りし、また将来世代に負担を回すことになる。そして企業は、中長期的な成長期待を低下させ、設備投資の拡大、雇用増加や賃金の引き上げにもより慎重になる。こうして、日本経済の潜在力は一段と低下してしまうのである。

     日本の経済政策の中で最も優先順位が高いのは、需要創出策ではなく、潜在成長率を高め、生産性上昇率を高める供給サイドの政策だ。生産性上昇率の向上は実質賃金上昇率の向上をもたらし、広く国民が自らの将来の生活に明るい展望を持てるようになることにもつながるだろう。

     安倍政権下でも地方創生、働き方改革、教育改革など、供給サイドに働きかける構造改革は何度も試みられてきたが、その成果は明確に見られていない。イノベーションなどを反映するTFP(全要素生産性)上昇率の潜在成長率への寄与度は政権発足時から一貫して下落傾向をたどり、足元ではほぼゼロという異例の低水準にまで達している(図1)。構造改革の実効性を高めるには、常に新しいテーマを追いかけるのではなく、一つの政策をもっとじっくりと掘り下げるべきではなかったか。

     首相交代をきっかけに、供給サイドの政策に、経済政策の比重を一気に移すべきだ。コロナショックという逆風を逆手に取って、経済の効率を高め、国民生活をより豊かにすることは可能である。

    新政権「三つの課題」

     安倍政権を引き継ぐ政権の課題は、以下の三つになる。

     第一はデジタル化である。政府が最優先課題として位置付ける行政手続きのデジタル化、「デジタル・ガバメント」の構築は急務だ。また感染リスクへの警戒は、キャッシュレス化を前進させるきっかけとなる。それを促すため、信用力の高い中銀デジタル通貨の発行も前向きに検討すべきだろう。

     第二は、東京一極集中の是正である。感染への警戒、リモートワークの進展で、長年問題とされてきた東京一極集中に変化の兆しも見られ始めた機会を逃さず、政策面から後押しすることは、地方に埋もれた資源の活用を通じて、地方経済の活性化にも貢献しよう。

     第三は、サービス業の生産性向上である。コロナショックで最も深刻な打撃を受けている小売り、飲食・宿泊、アミューズメント関連などのサービス業は、国際比較で日本の生産性が著しく低い、と長らく指摘されてきた代表的業種と重なる(図2)。

     消費行動の変容を背景とする産業構造の変化を先取りする形で、こうした業種での企業の業種転換、労働者の転職を促す政策を進めていくことが重要だ。卸売り・小売り、飲食・宿泊の4業種での生産性水準は、米国が日本を大幅に上回るが、政策の取り組みや企業の自助努力などを通じて、米国の水準との格差を半分縮小することができれば、日本の生産性全体は4・9%も上昇する計算となる。

     新政権は、安倍政権の経済政策の効果と副作用を十分に検証した上で、デフレ克服を目標にした需要創出策から日本経済の生産性を高める政策へとかじを切るべきだ。

    (木内登英、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)

    (本誌初出 負の遺産 潜在成長率を低下させた異次元緩和と財政拡大=木内登英 20200915)

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