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1回の放送で数億元を売り上げるスターも……中国市場で目下大ブレイク中の生放送通販「ライブコマース」とは何か

「ピアーヴェ37」のライブ配信の現場。九堡ではこうした光景があちこちで見られる(筆者撮影)
「ピアーヴェ37」のライブ配信の現場。九堡ではこうした光景があちこちで見られる(筆者撮影)

「これは海外の著名デザイナーとのコラボ商品なの。メンズだけど女の子も似合うわ」。平日の朝8時半、100平方メートルほどのスタジオで、商品のトレーナーを着た若い女性MC(語り手)がハイテンションでしゃべり始めた。浙江省杭州市郊外の九堡では、こうした動画生配信のネット通販「ライブコマース」の中継が、朝から深夜まであちこちで行われている。

 農村だった九堡はこの3、4年で、中国で最もライブコマース産業が集まるエリアになった。高層ビルが立ち並び、文字通りの不夜城になっている。「MCN(マルチチャンネルネットワーク)機構」と呼ばれるライブコマースのマネジメント会社を目指し、MCやその希望者の若者が続々とやってくる。

 きっかけは、杭州に本社を置くネット通販最大手のアリババ集団が2016年、ネット通販サイト「淘宝(タオバオ)」の新機能としてライブコマースを始めたことだ。九堡の周辺には、アパレルなどの工場が多く、商品の仕入れに便利なためMCN大手の拠点などが集まった。

 19年は中国の「ライブコマース元年」。1回の中継で数億元を売り上げる薇婭や李佳琦といった超人気MCが登場、ビジネス界の著名人や芸能人もこぞって出演し、関心を集めた。今年は、新型コロナウイルス流行後の“巣ごもり消費”が追い風となり、成長がさらに加速している。19年の市場規模は前年比225%増の約4000億元(約6兆円)だったが、今年は1兆元(約15兆円)を超えそうだ。

 これまではMCが工場から製品を仕入れ、自分のフォロワーに販売するケースが多かった。だがコロナ後は、ブランド自らがライブコマースを通じた販売に乗り出した。

毎回750万円

 19年設立の雲宝貝倉〈杭州〉文化伝媒は、こうした流れに商機を見いだす。九堡にある雑居ビルの一角をスタジオに改造。アパレルや健康食品などのブランドと契約し、各ブランドに合ったフォロワーを持つMCとのマッチングから、ライブコマースの運営代行までを手掛けている。

 高級ストリートファッションブランド「ピアーヴェ37」を中国全土で約40店運営する仕庫〈上海〉商貿発展は、同社と組み、7月からライブコマースを始めた。楊国聪総経理は「今後、重要な販路に化ける可能性が大きい」と話す。これまで20万~30万人のフォロワーを持つ複数のMCを迎え、6回ほど中継。毎回40万~50万元(約600万~750万円)を売り上げるが「ネット通販が未経験の我々には苦労が多かった」と振り返る。

 特に難しかったのが、価格の引き下げと在庫調整だ。雲宝貝倉〈杭州〉文化伝媒の端木雪熊COOは「ユーザーは若年層が中心のため、価格は抑えるべき。機会損失を避けるため、十分な在庫も必要」と説明する。

 ライブコマースは現状、工場直販の価格訴求品や在庫品の販売が中心で、高級品などの正価品を売るケースはまれだ。ただコロナ禍を経て、ブランド各社は実店舗とネット通販を融合した新戦略を加速。口コミ重視の中国の消費者とも親和性が高いライブコマースが定着する可能性がある。

(岩下祐一・「繊維ニュース」上海支局長)

(本誌初出 農村が「不夜城」に一変 ライブコマースの中心地=岩下祐一 20200915)

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