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経済・企業 中国

ファーウェイ、ホンハイらが参入する一方、倒産寸前のゾンビ企業も多数……3年連続マイナス成長となる中国自動車市場の真の実力

不動産業の恒大集団は6車種を同時に発表した 筆者撮影
不動産業の恒大集団は6車種を同時に発表した 筆者撮影

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で20年1〜6月の中国新車販売は前年同期比16・9%減少した。4月からは販売台数が増加傾向にあるものの、本格的な需要回復には至っていない。

 そうした中、2020年7月24日に開かれた中国・成都国際モーターショーは、アフターコロナとしては最大規模の自動車イベントになった。地場大手自動車メーカー長城汽車が自社高級車ブランド「WEY」の新型オフロード多目的スポーツ車(SUV)「Tank300」を初公開し、外資系ブランドが寡占する20万元(約300万円)の中・高級車クラス車市場に参入した。

不動産、電子業界から参入

 これら既存のメーカー以上に勢いがあるのが、異業種からの参入組だ。8月3日、不動産開発中国2位の恒大集団(エバーグランデ・グループ)は欧州高級車メーカー複数社のデザイナーが手掛ける高級電気自動車(EV)ブランド「恒馳」シリーズを上海で発表し、次世代自動車づくりの新たなビジネスモデルを見せていた。わずか1年間で、セダン、SUVをカバーする量産モデルを6車種一斉に公開できた同社は、自動車業界の一番の話題だ。同社社長の許家印氏は「今後14車種のEVを22年めどに一気に量産し、テスラを超える業界のリーディングカンパニーになる」と強気の姿勢を見せた。

 恒大のような中国大手複合企業(コングロマリット)は、資金力と社会影響力で次々と経営不振の自動車関連企業の買収を行っている。恒大は19年に約5兆円を投資し、3〜5年で世界最大のEVメーカーとなる目標を掲げた。自動車事業の後発組である同社が、深圳で恒大汽車を立ち上げ、EVメーカーや電池メーカー、モーターメーカー計9社を買収し、グローバルで企業提携やサプライチェーン全般の構築などを示した。

中国大手、長城汽車は新型SUVを投入 筆者撮影
中国大手、長城汽車は新型SUVを投入 筆者撮影

 不動産開発や物流、金融事業を展開するコングロマリットの宝能投資集団は、地場メーカー奇瑞汽車(チェリー)から同社傘下の観致汽車(クオロス)の51%の株式を17年に取得し、買収後の初のモデル「観致7」(中・高級SUV)を20年7月に発表した。また、宝能が出資する中国大手の長安汽車と長安PSAの工場にグローバル本部を設立。自動車年産能力85万台、エンジン年産能力50万台とする計画を打ち出した。

 電子機器受託製造世界最大手の鴻海(ホンハイ)精密工業も20年に台湾自動車大手の裕隆汽車製造と合弁会社を設立し、米伊フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と中国で合弁EVメーカーを設立する計画だ。

 中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)は20年4月、車載カメラとスマホが連動する機能を備え「ファーウェイHiCar(ハイカー)」システムを発表し、自動車事業に力を入れている。自動車生産をしないと繰り返し強調してきた同社は、独自のエコシステム構築でスマートカー分野の覇権を握ろうとしている。

 中国の新車販売は17年に2887万台を記録した後、調整期に入り、今年には3年連続でのマイナス成長となる見通しだ。クルマを作れば売れる時代において、地場メーカーは生産能力の拡張や低価格車を素早く市場に投入することを優先してきた。そうした既存の路線が大きな変更を迫られている。

高級車志向へ

 低価格車市場の行き過ぎた価格競争から脱出しようとするメーカーや、モビリティー需要の拡大を見据えて異業種から参入したメーカーの動きには、アフターコロナの中国自動車市場の実態が反映されている。

 消費者志向の変化により、自動車市場の競争が一層激しくなり、経営危機に陥る自動車メーカーも増えてきている。また、中国自動車業界の外資出資規制が22年までに撤廃されることに加え、大手国有自動車メーカーの統合を含む中国自動車業界の再編が一段と加速する可能性が高い。

 まず、消費者志向は、予算に合わせてブランド・機能・口コミなどで購入車種を真剣に検討する傾向が強まっている。さらに、中間所得層の増加に伴い、クルマ選びは安全性や信頼性を重視する傾向にあり、新車需要も廉価車から中・高級車へシフトしつつある。

 16年から20年1〜6月の間に、乗用車市場における120万円以下車種の割合は31%から16%へと大きく減少した(図1)。一方、200万円以上車種の割合は16ポイント増の48%に達した。また、新車販売全体が低迷している中、唯一好調を維持してきたのは高級車である。高級車市場は19年に、前年同期比10%増の310万台、乗用車市場全体の14%を占めるようになった。

 こうした中、外資系メーカーのなかでも明暗が分かれてきている。ブランド力が低下する韓国系・仏系メーカーに対し、技術・製品力が評価される日系・独系メーカーは、市場シェア拡大を果たした(図2)。

 現在、中国では買い替え需要と2台目需要がそれぞれ新車販売の40%、10%を占めている。こうした消費者が主に中間所得層や富裕層であり、クルマの機能・ブランドを求める傾向もある。独系・日系車はミドル・ハイエンド車(販売価格200万円以上)に集中し、買い替えニーズに対応している。一方で、地場系車は、ローエンド車(販売価格200万円以下)が多く、ファーストカー購入者をターゲットとしている。

厳しさ増す民間企業

 再編の機運の高まりについては、中国自動車業界では以前からメーカー乱立が問題になっており、中国政府が自動車業界の「ゾンビ企業」を取り上げ、企業の統廃合を進めている。

 それにもかかわらず、19年末時点で乗用車メーカー128社のうち、36社は生産停止の状態で、67社の稼働率は60%以下とされる。業界全体の乗用車生産能力は約4000万台となり、19年比で需要は4割程度の過剰と推算される。また中国の乗用車輸出台数は19年に72・5万台にとどまり、輸出で生産能力の過剰を解消するのも難しい(中国海関統計)。

 ブランド力と製品力のもろさをいち早く露呈したのは民間の中堅メーカーだ。経営危機に陥る華泰汽車は、大手デベロッパーの広州富力集団と資本提携、衆泰汽車は資金繰りに苦しみ、子会社の君馬汽車がすでに生産停止の状態となっている。上記自動車メーカー2社に対し、中国大手電池メーカーの比克動力電池は売掛金回収遅延を理由に訴訟を起こした。

 自社工場を売却した力帆汽車は19年に49・8億元(約752億円)の赤字を出した。20年1〜6月の新車販売台数は前年同期比69%減の1527台にとどまっていることから、同社は破産の一歩手前の状況となっている。

 また、不動産事業を売却した海馬汽車は依然、上場廃止のリスクを抱えているほか、青年蓮花汽車は業績悪化により破産した。

 民間メーカーの轍(てつ)を踏まないよう、地方政府傘下の国有企業は合従連衡を進めており、転換期の自動車市場において足場を固めようとしている。

 昨年12月には、中国自動車最大手の上海汽車(上海市管轄)と5位の広州汽車(広州市管轄)は技術開発、市場開拓などの分野での事業提携を結び、開発・運営のコストダウンを図ろうとしている。

 奇瑞汽車は青島五道口(青島市政府系ファンド)の出資を迎え入れ、長安汽車(中央政府管轄)の子会社である長安新能源は地方政府系ファンド4社による出資の受け入れを発表した。

 一汽、東風、長安の3社は、統合の実現に向けたトップの入れ替えや事業提携を行っており、19年3月にアリババ、テンセント、蘇寧などIT企業11社と南京でモビリティープラットフォーム「T3出行」を立ち上げ、大手IT企業・小売企業のネットワークやビッグデータを活用するサービスを全国で展開し、25年には運営車両100万台の投入を目指す。

 3社は国有資本が主導するかたちで幅広い民間資本を受け入れながら、中国のモビリティー社会の到来を見据えて新たな事業に参入した。それはスケールメリットを極大化させるだけではなく、国内の資本と資源を1社に集中させ、モビリティーサービスを提供する巨大企業への変身を目指す。

規制で再編促す

 中国政府は18年に大胆な市場開放政策を打ち出し、新エネルギー車(NEV)市場(18年)と商用車市場(20年)の開放に続き、乗用車市場における外資出資制限及び合弁相手を2社までとする縛りを22年までに撤廃する。これにより2年後の中国自動車市場は、全面的に外資に開放されることになり、地場国有自動車メーカーの再編・統合も加速すると予測される。また、ガソリン車についても、企業買収による新規参入は規制対象外であることから、過剰生産能力の活用を目指し、業界再編を推進する政府の意向がうかがえる。

 中国自動車業界の再編・統合はサプライチェーンに変化をもたらし、日系を含むサプライヤーの戦略転換も迫られる。

(湯進・みずほ銀行法人推進部主任研究員)

(本誌初出 ファーウェイ、ホンハイも自動車に参戦!中国の自動車は大再編時代へ、異業種と消費志向で淘汰が加速=湯進 20200908)

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