経済・企業2020年後半 日本・世界経済大展望

トヨタ、日産、ホンダ……自動車産業の「コロナ破綻」は避けられないのか 部品メーカーの現場で見た「惨憺たる状況」の真実

    「アミイダ」の工場内には機械音が少しづつ戻ってきたが、通常時には程遠い(群馬県太田市で2020年7月16日)
    「アミイダ」の工場内には機械音が少しづつ戻ってきたが、通常時には程遠い(群馬県太田市で2020年7月16日)

    「暗いトンネルに入ってしまった。遠い先に明かりは、全く、見えない」──。SUBARU(スバル)の城下町である群馬県太田市で、エンジンや変速機部品の研削を担う2次下請けの金属加工会社「アミイダ」の阿久戸洋希社長(47)は落胆を隠せない。

     新型コロナウイルスは、まずは、外食や小売り、輸送などのサービス産業に大きな打撃を与えたが、その魔手は、いよいよ、日本のものづくりの「心臓部」である自動車産業を侵し始めた。(2020年後半 経済大展望)

     アミイダの受注は、スバルの群馬製作所本工場(同市)などが操業を停止した4月以降、急減した。阿久戸社長は「5〜6月の売り上げは前年比で半分以下。一方で、人件費や電気代など毎月の固定費は減らない。7月も受注は少し改善しただけ。当然赤字だ」と言う。

     従業員は約20人。5月の大型連休前後は臨時で会社を閉め、7月いっぱいまで土、日曜日に加えて金曜日も休みにしている。返済不要の持続化給付金や、従業員を休業させた事業主を支援する雇用調整助成金を申請。さらに三つの金融機関から運転資金を借り、打てる手は尽くした。阿久戸社長は「(持続化給付金は)ゼロが一つ足りない。4〜6月の借入額はリーマン・ショック時の3倍。それでも、追加融資が必要になるかもしれない」と窮状を訴える。

    世界2位が私的整理

    国内自動車メーカー大手8社は2月以降、国内の生産ラインを停止した。部品調達が難しくなっただけでなく、コロナ禍で世界の自動車需要が急減したためだ。

     日本自動車工業会などによると、2019年の世界の自動車販売台数は約9100万台。自動車産業に詳しいSBI証券の遠藤功治企業調査部長は「20年は7500万台程度に落ち込むかもしれない。この減少幅は米国での年間販売台数に匹敵する水準」と語る。ドイツ自動車産業連合会(VDA)は7月3日、20年の世界の乗用車市場は前年比17%減の6590万台まで減少すると発表。ヒルデガルト・ミュラー会長は「過去に例がない落ち込み」とコメントした。

     日本貿易振興機構(JETRO)の高塚一・独ミュンヘン事務所長は、「コロナで、ドイツ3大メーカー(フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラー)の売り上げが急減しており、3社と取引する日本のサプライヤーにも大きな影響が出ると予想される」と語る。

     自動車向け空調部品のサンデンホールディングス(HD、群馬県伊勢崎市)が6月30日、私的整理の一種である事業再生ADRを申請し、受理された。同社はカーエアコン用のコンプレッサーで世界シェア2位を誇る。サンデンHDの広報担当者によると、ADR申請の理由は「欧州市場でガソリン車向けの需要などが減っていたところに、コロナで各地の工場が休業に追い込まれ、売り上げが落ち込んだため」という。サンデンHDはフォルクスワーゲンやダイムラー向けなどの欧州、中国でも事業を拡大してきた。

     帝国データバンクによると、サンデンHDの1次、2次の下請け企業は全国に2134社あり、特に群馬県内には401社と全体の約2割を占めるため、地元経済への影響は計り知れない。

     群馬県商工会議所連合会の曽我孝之会長は「地元にとってサンデンの存在はあまりにも大きい」と強調し、スポンサー企業との提携による事業再生に期待を寄せる。

     サンデンHDだけではない。群馬県桐生市に本社を置く自動車電装部品製造の「ミツバ」も7月15日、グループ内から500人規模の希望退職者を募ると発表した。また、老舗自動車部品メーカー「萬松」(東京都新宿区)は4月、東京地方裁判所へ自己破産を申請し、破産手続き開始決定を受けた。

    秋口からさらに悪化

     SBI証券の遠藤氏は「世界の自動車販売が9000万台へ回復するには、この先3〜4年かかるかもしれない」と厳しい見通しを示す。仮に、販売台数がコロナ前の水準を回復しても、環境規制や自動運転への対応で電動化が進めば、自動車1台当たりの部品点数は、ガソリン車の3分の2から半分程度になると見られている。

     自工会によると、18年の全製造業の製造品出荷額のうち、自動車の割合は約19%(図2)。自動車製造の設備投資額は1兆5349億円で、18年度は全製造業のうち約23%を占めた。雇用で果たす役割も大きく、自動車産業への就業人口約542万人は、日本全体の約8%を占めている。遠藤氏は「自動車が落ち込めば、関連する鉄鋼や電機、機械、化学など他の産業も落ち込むが、それに代わる産業が日本にはない」と指摘する。

     すでに、ドイツでは、フォルクスワーゲンが約1万2000人、BMWが6000人、ダイムラーが1万5000人規模の人員を削減すると報じられている。

     国内メーカーも経営は深刻化している。三菱自動車は7月27日、21年3月期の連結最終損益が3600億円の赤字となる見通しを発表した。今年から3年間の新たな中期経営計画も示し、子会社の「パジェロ製造」(岐阜県坂祝(さかほぎ)町)の工場を21年上期までに閉鎖し、かつての人気車種である「パジェロ」の生産から撤退することを盛り込んだ。日産自動車も翌28日、21年3月期連結最終損益が6700億円の赤字になる見通しと発表した。

     群馬県商工連の曽我会長は、同県の製造業の見通しについて「コロナ前までの受注が一巡する秋口から、さらに状況が悪化するのではないか」と見る。県内には雇用形態の不安定な外国人労働者も多く、解雇が進めば、治安の悪化にもつながりかねない。「ものづくり立県・群馬」の苦境は、日本の近未来を暗示しているかのようだ。

    (神崎修一・編集部)

    (柳沢亮・編集部)

    (加藤結花・編集部)

    (本誌初出 「沈没」する自動車大国 苦境・群馬が暗示する近未来=神崎修一/柳沢亮/加藤結花 20200818)

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