経済・企業2020年後半 日本・世界経済大展望

やっぱり年内の完成は無理? コロナワクチンの実用化まで最低でもあと1年半はかかる理由

    ワクチン開発のハードルは高い (Bloomberg)
    ワクチン開発のハードルは高い (Bloomberg)

     いまだ終息の見通しが立たない新型コロナウイルス感染症。新興国、発展途上国を中心に感染拡大が続き、ピークを過ぎたと見られている国・地域においても感染の再拡大が確認されている。世界経済に与える影響も大きく、国際通貨基金(IMF)は7月17日公表の米国経済に対する年次報告書で、感染拡大を「最大のリスク」として景気の下振れを憂慮している。

     感染拡大を抑制し、通常の経済活動を取り戻すための鍵が、ワクチンだ。世界中の企業や研究機関が開発中で、7月24日時点で160以上の候補品が存在し、うち25の候補品が人を対象として有効性や安全性を確認するための臨床試験の段階にある。また、数千〜数万人の人々を対象にワクチンを接種し、その有効性や安全性を確かめる第3相試験の段階にも、複数の候補品が到達している。

     世界がワクチン開発の早期成功に期待を寄せており、米国のトランプ大統領に至っては11月の米大統領選挙を意識してか、「年末までにワクチンが手に入ることを確信している」などとする旨の発言を繰り返している。果たしてそれは現実的なのだろうか。また、ワクチンが承認されれば直ちに万事解決となるのか。今後想定される課題について考える。

    有効率5割超で承認

     ワクチンの承認には有効性と安全性の確認が必要となる。それを確認するための臨床試験が今まさに進行中であるため、承認・実用化の時期は「予測できない」というのが最も適切だ。第2相までの試験では実際のウイルスに対する防御効果は測られておらず、加えて第3相で多くの被検者に接種することで、これまで見られなかった副反応が見られることもある。有効性や副作用を確認するためには少なくとも第3相の試験結果を待つしかない。

     ただし、現在承認されているワクチン開発にかかった期間が、おおむね10年以上、最短でもおたふく風邪ワクチンの4年ということを踏まえると、トランプ大統領が言う「年末まで」というのは楽観的と言わざるを得ない。米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のファウチ所長は3月の時点で「1年から1年半」と発言したが、これも十分野心的な発言だろう。

     一方で、これまでとは比較にならないほどのスピードで開発が進んできているのも事実だ。ワクチン開発の先頭集団のうちの一つである米モデルナはウイルスの遺伝子配列公開後、わずか27日で最初のワクチン製造を終え、7月27日には第3相試験を開始した。モデルナ同様、先頭集団にいる英アストラゼネカと英オックスフォード大のグループもすでに第3相試験に入っている。同グループは今年から来年にかけて20億回分の接種を生産できる準備も整えつつあるという。

     ワクチンが承認され、大量生産にも成功し、世界中にワクチンを届けることができれば直ちに経済活動が正常化されるのだろうか。ポイントは二つだ。1点目は有効率だ。ワクチンは接種すれば100%の効果を保証されるものではない。例えば、インフルエンザワクチンは、年にもよるが、30〜60%程度の有効率とされる。ワクチンができたからといって、有効率が必ずしも高いとは限らないのだ。

     6月30日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、ワクチンを承認する方針を公表。接種群がプラセボ(偽薬)に比べて50%以上の割合で発病や重症化を防ぐことを承認の条件として求めた。仮に有効率50%のワクチンが承認された場合、それは直ちに経済活動の正常化をもたらすのだろうか。

     新型コロナの発病率を10%と仮定する。東京都の人口(約1400万人)が仮に全員に有効率50%のワクチンを接種すれば、140万人の患者が発生するはずのものが、70万人で済むということになる。公衆衛生の観点に立てば、70万人の患者数の減少の効果は高いといえる。一方、個人レベルでこれを考えると、ワクチン接種によって発病率が10%から5%に減少するものの、高齢者など「ハイリスク」とされる人たちが直ちにこれまでどおりの経済活動に戻るかというと、疑問が残るところだ(図1)。

    2割が「接種しない」

     2点目はワクチンの接種率だ。AP通信とシカゴ大学が5月中旬に共同で実施した、米国に住む1056人を対象としたワクチン接種の意向調査では「ワクチンを接種する」と回答したのは半分以下の49%で、20%は「接種しない」と答えた(図2)。ワクチンには、「接種した本人の感染予防」という役割の他に「社会を守る」という役割がある。多くの人がワクチンの接種を受けて免疫を得ることで、集団の中に感染患者が出ても流行を阻止することができる。これは「集団免疫」と呼ばれ、ワクチン接種していない人や病気などの理由でワクチン接種できない人を感染から守る効果がある。

     ただし、集団免疫獲得のためには集団の一定割合(今回の場合60〜70%程度とされる)が免疫を獲得する必要があるが、接種率や有効率が低ければワクチンによる集団免疫の獲得は不可能になる。集団免疫の獲得がされないままでは経済活動においても一定の制約をかけざるを得ないだろう。

     ワクチンを含む医薬品開発においては、前臨床試験で有効性や安全性が検証できた被験薬の約90%が、その後の臨床試験で「有効性が認められない」「副作用が生じる」などの理由で開発が中止となる。加えて、今回の開発中のコロナワクチンはこれまで人での承認実績に乏しい種類のワクチンが数多いことも見通しを難しくしている。ただし、新型コロナは、人が感染して1年もたっておらず、現段階では未解明のことも多い。今後研究が進み、ウイルスの特徴が明らかになることで有効率の高いワクチンが早期に実用化される可能性もある。

     可能性は認めつつも、予断を許さない状況の中での楽観論は禁物だろう。ワクチンの開発やその後の経済活動正常化への道のりは決して容易なものではないことを認識し、長期戦になるケースも想定した上で備えることが重要だ。

    (近内健、丸紅経済研究所チーフ・アナリスト)

    (本誌初出 コロナワクチン開発 「実用化まで1年半」でも野心的 見えない経済活動の正常化=近内健 20200818)

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