コロナ禍で瀕死の状況にある観光業界 私ならこう立て直す(星野佳路・星野リゾート代表)
観光産業が生き残るため、何が必要なのか、星野リゾートの星野佳路代表に聞いた。(2020年後半 経済大展望)
(聞き手=稲留正英/斎藤信世・編集部)
── 観光振興策「GoToキャンペーン」から東京が除外された。
■キャンペーンの目的は、経済活動と感染抑制の両立にある。緊急事態宣言が出ない限り、少々、感染者が増えても一部の地域や対象者を除外するような制度であってはならないし、そういうことに耐えうる制度設計にしないといけない。ニューノーマル(新常態)に対する覚悟が必要だ。
── 足元の売り上げや予約は。
■代理店経由の予約が多い団体旅行のほか、地域別では感染の第2波が来た北海道やインバウンド(訪日旅行)の比率が高い東京の戻りが鈍いが、そこを除けば、7〜8月はかなり予約が戻ってきた。
日本全体の観光需要28兆円のうち、8割が国内だ。4・8兆円のインバウンドが失われたとしても、毎年2000万人いる海外旅行者が国内に回帰しており、全体では7%程度の需要縮小に抑えられている。国内だと交通費が安いので、その分、連泊が増える。8月だけでいうと、私の予想より戻りが良い施設がいくつか出てきている状況だ。
── 地元や周辺地域へ旅する「マイクロツーリズム」に積極的に取り組んでいる。
■温泉旅館ブランドの「界(かい)遠州」や「界長門」「リゾナーレ那須」はじめ、各施設でマイクロツーリズムの比率が上昇している。マイクロツーリズムとは、例えば、盛岡から青森、青森から秋田に行くような小旅行を示している。島根県の玉造温泉は、鳥取県の米子市に大きなマーケットを持っている。マイクロツーリズムに向けた内容、価格を合わせたプランを提供したことで、予約獲得にかなり成功した。反響は非常に大きい。
── インバウンドが回復するのは、いつごろか。
■治療薬やワクチンの開発次第だと思っている。当社は3月末に「18カ月計画」を作ったが、そこまでは企業として大丈夫な状態を作っておこうという意味だ。少なくとも来年はインバウンドが戻らないと覚悟している。この状況が、1年半から2年で解決してくれればよいと期待している。
観光人材の維持を
── 日本の観光産業や地域へのアドバイスは。
■GoToキャンペーンに頼らず、1年、2年生き延びる策を立てないといけない。一つはマイクロツーリズムだ。県をまたいだ観光連携は非常に重要であり、全国で取り組むべきテーマだ。マイクロツーリズム商圏をきちんと意識することで、東京で緊急事態宣言が発動されても、地方によっては、売り上げは9割減ではなく、3〜5割減でとどまる可能性がある。
もう一つは、観光人材の維持だ。コロナが終わった時に必ず観光需要の爆発が起きるが、その時に観光人材がいないと稼ぎようがない。コロナが終息した時には、財務が相当傷んでいるはずだ。この状態から、いち早く回復するために、人材を維持することが何より大事だ。日本は雇用調整助成金などが非常に充実している。これをフル活用して、ウィズコロナ時代を乗り切るのが一番、大切だ。
── 消費者は、旅行することが逆に地元の迷惑につながらないか、心配している部分もある。
■各自治体の「今、来ないでください」というキャンペーンは非常に衝撃的で、それが、消費者の「観光していいのか」という迷いにつながっている。各知事はいろいろなジレンマはあると思うが、「3密回避に観光地は努力している、ぜひ、いらしてください」という情報発信をもっと強くすべきだ。
(本誌初出 インタビュー 星野佳路・星野リゾート代表 全国で「マイクロツーリズム」に取り組むべき 20200818)
■人物略歴
ほしの・よしはる
1960年長野県出身。83年慶応義塾大学経済学部卒業。米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。91年星野温泉(現星野リゾート)社長に就任、現在に至る。