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経済・企業 2020年後半 日本・世界経済大展望

大統領選劣勢のトランプがイランで「軍事行動」を起こす可能性について

感染者数は2500万人に(テヘラン市内の消毒作業)(Bloomberg)
感染者数は2500万人に(テヘラン市内の消毒作業)(Bloomberg)

 7月18日、イランのロウハニ大統領は、2500万人がコロナウイルスに感染したと述べた。これは確認されていた27万人を大きく上回る数字だが、ロウハニ大統領の発言はイランでの感染状況がいかに深刻かを物語るものだろう。

 イランは、3月5日に事実上の都市封鎖(ロックダウン)を行い、感染者が減少すると、経済的苦境もあって4月11日に制限緩和に踏み切ったが、じわじわと感染者は増え、7月7日には1日の死者が200人を超えた。イランは中東地域では感染が最も深刻な国で、米トランプ政権の経済制裁強化もあって、IMF(国際通貨基金)の予測では、2020年のインフレ率は34・2%、GDP(国内総生産)の成長率はマイナス6%、失業率は16・3%と、経済不振に陥っている。イランで頻発する反政府デモは停滞する経済事情を背景にするものだ。

 7月2日、イラン中部イスファハン州ナタンズの核関連施設で爆発火災があったが、米『ニューヨーク・タイムズ』紙も「イスラエルがこの施設に爆弾を仕掛けた」と中東の情報将校の談として報じた。その数日後もテヘランの工業団地で爆発によって2人が死亡している。イランでは、謎めいた爆発や火災が6月以来頻発するようになったが、7月19日にもまたイスファハンの発電所で火災が発生した

 11月の大統領選で劣勢を伝えられるトランプ大統領がイランに対して軍事的行動を起こすことも考えられる。いわゆる「オクトーバー・サプライズ」の発動であり、トランプ大統領にとっては手っ取り早い人気回復策だ。イランで相次ぐ爆発火災はイランの政情を不安定にし、イランの「暴発」を狙う米国やイスラエルの策動のようにも見える。

対中接近

 イランは中国との間に25年にわたる経済・安全保障協定を結ぶ計画を進めているが、これは中国に安価に石油を購入できる利権や中国の石油化学企業のイランでの巨大プロジェクトなどを認めるものだ。しかし、中国に有利な内容にイラン国内からも中国の植民地主義進出という批判も出ている。

 もとより、イランの対中接近はトランプ大統領のイラン核合意からの離脱がもたらしたもので、中東での米国の影響力をさらに低下させた。米国がイラン核合意に復帰して日本やヨーロッパ企業がイランとの経済取引を復活、拡大すれば、中国の影響力も低下するが、少なくともトランプ大統領にはそのような視点はない。

 18年5月にトランプ大統領がイラン核合意から離脱すると、イランもその1年後から濃縮ウランの貯蔵量を増やすなど米国やイスラエルをけん制する動きに出ている。イスラエルは、イランが濃縮ウランの貯蔵量を増やし、核兵器製造に必要な材料を集め、核兵器製造のための時間を半分短縮したと主張している。

 16日も南西部のフゼスタン州で暴動が発生するなどイランは政治的安定を急速に失いつつあるように見える。深刻なコロナ禍、また不審な爆発火災、核合意からの離脱、米中の競合など、トランプ大統領の再選シナリオも含めてイランが世界の「火薬庫」になりつつあるようだ。

(宮田律・現代イスラム研究センター理事長)

(本誌初出 イラン 相次ぐ爆発や火災 背景に米大統領選か=宮田律 20200818)

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