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週刊エコノミスト Online コロナで激変するクルマ社会

EVトラックでも凄いテスラを脅かすライバル「リビアン」にアマゾンが注目するワケ

アマゾンが10万台を注文したリビアンのEVデリバリーバンのプロトタイプ(リビアン提供)
アマゾンが10万台を注文したリビアンのEVデリバリーバンのプロトタイプ(リビアン提供)
テスラのサイバートラック。65万台の注文が入るなど、抜群の人気。(提供テスラ)
テスラのサイバートラック。65万台の注文が入るなど、抜群の人気。(提供テスラ)

 2018年にテスラが初のEVピックアップトラック、「サイバートラック」を発表して以来、米国ではEVピックアップの競争がどんどん激しくなっている。 発表後すでに65万台の予約が入った、とするテスラだが、これを猛追しているのが新興EVメーカー、リビアンだ。そして来年夏、リビアンはテスラよりも早く同社のEVピックアップR1Tを市場に投入する予定だという。しかし大手メーカーも追随しており、新旧様々なメーカーがこの分野に参入している。<コロナで激変するクルマ社会>

米国の売れ行き上位6位はライトトラック

 まず、なぜ米国でEVピックアップが重要なのか、という説明が必要だろう。

 米国の新車売上のうち、過半数を占めるのがピックアップ、SUV(スポーツ多目的車)などの車種だ。2019年の販売台数を見ても、売上1位はフォードFシリーズピックアップ(89万6,526台)、2位ダッジラムピックアップ(63万3,694台)、3位シボレーシルバラードピックアップ(57万5,600台)とトップ3をトラックが独占している。これに続くのがトヨタRAV4、ホンダCR-V、日産ローグというSUVで、7位にようやく乗用車であるトヨタカムリが入る。

 しかしカムリの販売台数は33万6,978台で、フォードトラックの半分以下なのである。

 サイバートラックになぜモデル3を超える65万台もの予約が入ったのか、という理由もここにある。

彗星のごとく現れたリビアン

 リビアンはイリノイ州に本拠地を置く新興EVメーカーで、サイバートラックが発表されたのとほぼ同時、2018年11月のロサンゼルスオートショーでRITピックアップとRISというSUVモデルをデビューさせた。

 彗星のごとく現れた、という表現がピッタリする斬新な登場の仕方だった。

 ちなみにこの年のオートショーでは最近破綻した中国のバイトン(BYTON=拜騰)もSUVを発表しており、新しいEV時代の幕開け、というイメージがあった。

リビアンR1Tピックアップトラック。来年夏にも発売予定
リビアンR1Tピックアップトラック。来年夏にも発売予定

380憶㌦を瞬く間に調達したリビアン

 リビアンはその後、旧三菱の工場を買い取るなど、順調な発展を続け、2019年2月にアマゾンから7億ドル、同年4月にはフォードから5億ドルの投資を受けた。

リビアンがフォードにも提供する予定のEVプラットホーム
リビアンがフォードにも提供する予定のEVプラットホーム

 さらにコックス・オートモーティブ社からも3億5000万ドル、ベンチャーキャピタルから合計で380億ドルという巨額を集めている。

 またイリノイ州の工場の他、カリフォルニア州に独自のバッテリー工場も持ち、自社製バッテリーを開発している。

アマゾンからEV配達バンを10万台注文

ジェフ・ベゾス氏が発表したリビアンへのデリバリーバン発注の記者会見より(Bloomberg)
ジェフ・ベゾス氏が発表したリビアンへのデリバリーバン発注の記者会見より(Bloomberg)

 このあたりの発展の仕方は初期のテスラに似ているが、違いはフォードとはリビアン社のEVプラットホームを提供しリンカーンEVの制作に協力する契約を持ち、アマゾンからはEVデリバリーバン10万台の注文を受ける、など最初から大手企業と提携して安定した発展が見込まれている、という点だ。

MIT出身のスカリンジ

リビアン創業者、RJ・スカリンジ氏。弱冠37歳で注目を集める起業家(提供リビアン)
リビアン創業者、RJ・スカリンジ氏。弱冠37歳で注目を集める起業家(提供リビアン)

 リビアンの創業は2009年、MIT(マサチューセッツ工科大)出身のRJ・スカリンジ氏が独自の環境観、ビジネス観に基づいて立ち上げた企業だ。

 それまでの新興EV企業、というと高級スポーツカータイプのものから始まるところが多かったが、いきなりピックアップとSUVという売れ筋に絞ったところが現在の成功に結びついている、と言える。

 気になるスペックだが、RITは4輪モーターでそれぞれが147㌔㍗のパワーキャパシティを持つ。

R1Tピックアップトラックのインテリア
R1Tピックアップトラックのインテリア

 トータルのパワーアウトプットはバッテリーパックの種類により300㌔㍗から562㌔㍗となる。現時点では3種類のバッテリーパックが予定されており、105㌔㍗時、135㌔㍗時、180㌔㍗時となる。

斬新なテスラ、オーソドックスなリビアン

 これを継続走行距離に換算するとそれぞれ230マイル(約370㌔㍍)、300マイル(約480㌔㍍)、400マイル(約640㌔㍍)だ。1マイルは約1.6㌔㍍。

 大きさは全長5.5㍍メートル、幅2メートル、牽引能力は5000㌔㌘。価格は6万9,000ドル(735万円)からを予定しているが、サイバートラックがかなり安いことから発表前に値下げした新価格を提示する見込みだ。

 一方のサイバートラックは、シングル、ダブル、トリプルモーターの3つのクラスがあり、それぞれの継続走行距離は250、300、500マイル。牽引能力も3400、4500、6300㌔㌘と3段階だ。大きさは全長5.8㍍、幅2㍍。価格は最も安いシングルで3万9,900ドル、ダブルが4万9,900ドル、トリプルが6万9,900ドルとなる。

 つまりスペック的には大差はないが、未来的で斬新なデザインのサイバートラックに対し、リビアンはピックアップらしいオーソドックスなイメージで、どちらを選ぶかは好みによる、ということになる。

三菱自動車の工場を買収したリビアンの工場
三菱自動車の工場を買収したリビアンの工場

ローズタウン、二コラ、ボリンジャー...新興EV続々

 米国では発売前から人気を二分しているこの2つのメーカーだが、ここに来てローズタウンという新興メーカーが突然の上場を果たして話題となった。

 ローズタウンはオハイオ州の旧GM工場を買い取りEVトラックを制作するメーカーで、元々EVのデリバリーバンなどを作っていたワークホース社からスピンアウトした企業だ。

GMがバックアップするローズタウン社のピックアップ、エンジュランス。(提供ローズタウン)
GMがバックアップするローズタウン社のピックアップ、エンジュランス。(提供ローズタウン)

 このローズタウンにはGMが投資しており、4輪モーターの「エンジュランス」というヘビーデューティーピックアップを発売予定、価格は5万2,500ドルを予定している。

 さらに米国にはニコラ、ボリンジャーという新興EVピックアップメーカーも存在する。

 またGMからはハマーベース、ベストセラーであるシルバラードのEVピックアップの発売が予定され、フォードもまたFシリーズトラックのEV化を発表している。

 つまり巨大メーカー、巨大メーカーにバックアップされた新興メーカー、そして独立系と様々な企業がEVピックアップに参入し、来年以降次々に市販化を目指している状況なのだ。

でも勝ち組はテスラとリビアン

コロナショック後にいち早く生産を再開した米テスラのカリフォルニア州の組み立て工場(撮影:土方細秩子)
コロナショック後にいち早く生産を再開した米テスラのカリフォルニア州の組み立て工場(撮影:土方細秩子)

 しかし大胆に予測すると、やはり勝ち残るのはテスラとリビアンになるだろう。

 テスラには大量のバックオーダー、ブランド力の強みがあり、リビアンには豊富な資金と大企業のバックアップ、ユニークな経営方法と車作りへの賛同がある。

 GM、フォードのものはブランド力によりそこそこは売れるかもしれないが、フレッシュさがなく価格面でも大きなメリットがない。

 GMがテスラモデル3が出る前に「テスラキラー」として投入したシボレー「ボルト」がモデル3よりもやや安い価格設定だったのに惨敗したのは、EVという新しいものへのアイデアの転換が見られなかったためだと考えられるが、GMは新しく発表したキャデラックEV「リリック」でも同様の間違いを犯しているように見える。

なぜテスラは売れるのか?

 なぜテスラは売れるのに他のメーカーのEVはそれほど売れないのか。

 それについての考察は次回に説明したいが、要は車とは「エモーショナル」なものだ、ということを大手メーカーは忘れているように感じられる。その意味で、テスラ、そしてリビアンの一騎打ちは非常に見ごたえのあるものとなるだろう(続く)。

(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)

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