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経済・企業コロナで激変するクルマ社会

テスラでもトヨタでもない……「コロナ後のクルマ」の大本命がNEVである理由【週刊エコノミストOnline】

GEM社のe4。公道を走行できるパッケージ販売があり、米国のNEVベストセラー。(提供GEM)
GEM社のe4。公道を走行できるパッケージ販売があり、米国のNEVベストセラー。(提供GEM)

「コロナ時代のクルマの主役はゴルフカートをベースとした低速の近郊用電気輸送車のNEV (Neighborhood Electric Vehicle)になる」と前回の原稿「コロナで消えるガソリン車…本命は超小型電動カート」で触れたところ、ガソリン車ファンからさまざまなコメントを頂いた。 <コロナで激変するクルマ社会>

 確かにガソリン車はしばらくは自動車の中心であり続けるし、すぐに消えゆくものでもないだろう。私自身古き良き時代のガソリン車ファンでもある。しかし世界の潮流はEV、自動運転に向かい、2040年以降ガソリンやディーゼル車両の販売を禁止する国、自治体も確実に増えている。その移行期に注目されるべき存在がNEVだと考える。理由は価格が1万ドル程度と安く、公道の走行も可能で手軽に近場を移動できる。荷台を付けて商用車としても利用できるし、地域コミュニティの移動手段、観光地や大学のシャトルバス、自動運転デリバリーへの応用など、海外展開なども試されている。

 メーカーも10社以上にのぼり、「もっとNEVについて知りたい」「どんなメーカーがあるのか」という声が一部にあったので、今回はNEVの歴史、現在の米国での状況、未来の可能性を探ってみた。

98年デビューの中間車「NEV」

 米国でNEVの定義が定められたのは1998年。それによると車両の重量は1400キロ以下、速度制限56キロ以下の道路でのみ走行が可能。つまり高速道路は走行できないし、エアバッグなどの安全装備も通常は装着されないため、自転車と車の中間のような扱いとなる。

 多くがプラグイン式の電気自動車(EV)だが、ガソリンやディーゼル車もある。ほとんどがゴルフ用のカートを公道向けに改造したものとなる。

高齢者コミュニティのクルマ

サーキット社が展開するGEM e6を使った巡回シャトルサービス。(提供サーキット)
サーキット社が展開するGEM e6を使った巡回シャトルサービス。(提供サーキット)

 本来NEVは高齢者に移動の自由を与えるために認められたものだ。そのため米国では高齢者コミュニティ、ゴルフ場を擁する住宅コミュニティなどを中心に利用が広がったが、例えばショッピングモールの駐車場を巡回する警備用車両、大学や企業キャンパス内での移動やメンテナンス用など、商業的な利用も行われている。米西海岸では4人乗りのNEVで家族でドライブ、という風景も割と普通に見られる。

5万台を売り上げたGEM

 代表的な企業にはクライスラーの子会社だったGEM社があり、同社のNEVはこれまで累計5万台を売り上げている。NEVは米国だけではなく中国、欧州でも利用が広がり、特に欧州ではルノーが手掛けるTwizy、イタリアのItalcarが人気だ。Twizyの累計売上は2万台で、そのほとんどが欧州となる。欧州で最大の市場は英仏両国だ。

 GEM社のラインナップを見ると、e2、e4、e6というそれぞれ2人、4人、6人乗りの乗用車タイプと、eL、eMという軽トラックとなる商用車タイプのもの、合わせて5種類がある。基本はドアのないスケルトンで、オプションでドア、荷台、バンパーその他を装着することが出来る。フルに装備すると見た目は普通の車と変わらなくなる。

価格は100万〜160万円

 価格はe2が10,299ドル、e4が13,049ドル、e6が16,049ドルからとなる。これに「パブリック・セーフティ」というドアやルーフ、バンパーなどのオプションをつけたものは2,292ドルが加算されるので、最も安く、かつある程度の快適さや安全性を求めると最も小さいe2で12,600ドル程度から、となる。

メルセデスの失敗

メルセデス・ベンツ「スマート」、ベンツ製だけに安全性、性能は十分だがネックは価格。(提供メルセデス・ベンツ)
メルセデス・ベンツ「スマート」、ベンツ製だけに安全性、性能は十分だがネックは価格。(提供メルセデス・ベンツ)

 このタイプの超小型車両としてはメルセデスのスマート、フィアットの500などがあるが、米市場では成功したとは言えない。一般車両としてはサイズの割に価格が高い(スマートは2万5000ドル以上)、高速道路などの走行に不安がある、などが主な理由だ。ただしNEVとはカテゴリーが異なるため、小さいから売れない、と結論付けることは出来ない。スマートはビジョンEQというEVコンセプトも発表しており、NEVと競合するモデルに着手している。ネックとなるのはやはり価格だろう。

ヤマハも1万ドル以下で参入

1万ドル以下で買えるヤマハのNEV(提供ヤマハZ・ゴルフカー)
1万ドル以下で買えるヤマハのNEV(提供ヤマハZ・ゴルフカー)

 他にも米国で販売されている主なNEVにはクラブカー社、EZGo社、ガリア社、ストリートロッド社、そしてヤマハなどがある。クラブカー社はハイエンドモデルも持ち、コクピットには大型のモニターも設置されており、ほとんど普通車両と変わらないようなインテリアになっている。ヤマハも豊富なラインナップを揃え、米市場への切り込みを狙う。

 こちらも価格としてはクラブカー社が最もベーシックなVilleger 2 LSVで9,856ドルから、ヤマハはDrive 2 PTVというモデルが8,835ドルからとなる。ヤマハはヤマハゴルフカーカンパニーという子会社による販売で、米国では1985年から展開。パーソナルユーズとして6、商用車モデルとして7つのモデル(うち4モデルは共通)という幅広いラインナップを揃えている。ヤマハの特徴は親会社がヤマハだけに、豊富なハイエンド装備オプションが揃い、ファイナンス部門まで揃った総合的なNEVメーカーになっている、という点だ。

豊富なラインナップを持つヤマハNEV。米国では1985年からという長い歴史を持つ。(提供ヤマハ・ゴルフカーUSA)
豊富なラインナップを持つヤマハNEV。米国では1985年からという長い歴史を持つ。(提供ヤマハ・ゴルフカーUSA)

在宅勤務なら距離100キロで十分

 NEVが今後注目されそうだと考える理由は、新型コロナにより在宅勤務が長期化する可能性があり、一般的な車の需要が減少傾向にあるためだ。NEVの1回の充電での走行距離は100キロ以内がほとんどだが、近場の買い物程度なら十分だ。テスラなどの本格的EVとは異なり、特別な充電装置がなくとも普通の電気アウトレットで充電出来るため、初期費用もかからない。何よりも価格が安く、EVであるため政府のゼロ・エミッション(無公害)車両のインセンティブの対象でもある。

家の近くを低速で走る乗り物

 マイナス材料としては軽量で安全装備も限られているため、事故にあった場合の不安、速度制限があるため高速道路だけではなく幹線道路も一部走行不可、米国の場合州による規制の異なり、などがある。しかしNEVはあくまで「家の近くを低速で走行する」ことが前提の乗り物であり、自転車よりも移動範囲が広く楽である、という考え方ならば決して悪い選択ではない。

観光地、大学、ピザ配達にNEV

サーキット社が展開するGEM e6を使った巡回シャトルサービス。(提供サーキット)
サーキット社が展開するGEM e6を使った巡回シャトルサービス。(提供サーキット)

 NEVは商業的にはすでに広く利用されている。例えば観光地のレンタル、ピザなど食べ物のデリバリー、大学構内の移動などが代表的だ。ユニークな利用法として、フロリダ州に本拠地を置くサーキット社が自治体に巡回車両として売り込んでいるケースがある。6人乗りのGEMe6を用い、定められたルートで自由に乗り降りできるシャトルサービスだ。  

 カリフォルニア州ではサンディエゴ市、マリナ・デルレイ市、サンタモニカ市などが導入しており、観光客や地元住民の足として利用されている。費用は車体の広告と自治体の補助で賄われ、利用者には無料で提供されており、こうしたサービスが今後さらに全米に広がる可能性がある。

GPSで自動運転配達NEVの展開も

 そして、NEVには独自の自動運転への進化も見られる。ゴルフ場のカート自動運転からも分かるように、短距離でGPS(全)を使えばある程度の自動運転を組み込むことは可能だ。

 イリノイ州に本拠を置くヘキサゴン社では2010年にAutomonouStuffという子会社を設置、主にNEV向けの自動運転プラットホームを開発している。現在はGEM社の車両を対象としたポラリスというプラットホームシリーズを発売しているが、他のNEVにも搭載できるキットも存在する。

 自動運転機能を備えたNEVは特にデリバリーのラストマイルソリューションとして今後注目が集まる可能性がある。

仏でも自動運転シャトルNEV

フランス・イージーマイル社の自動運転シャトルサービス。低速走行でNEVの一種でもある。(筆者撮影)
フランス・イージーマイル社の自動運転シャトルサービス。低速走行でNEVの一種でもある。(筆者撮影)

 自動運転シャトルは現在世界各地で実際の運用が始まっており、代表的なものとしてアリゾナ州に本拠地を置くローカルモータース社のオリー、フランスのイージーマイル社などがあるが、これらも広義のNEVである。そう考えると、NEVは今後ライドシェア、公共交通の一貫としても大きなポテンシャルを秘めた存在になるのではないだろうか。 (土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)

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