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経済・企業 2020年後半 日本・世界経済大展望

ついに世界1位! 悔しがるトヨタが到底真似できない「テスラだけの3つの強み」

 米国EV(電気自動車)専業メーカーのテスラの時価総額が7月1日、世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車を上回った。株式市場では、年間販売がわずか37万台のテスラが1000万台超のトヨタを時価総額で抜いたことに大きな関心が集まっている。

 株式価値の尺度はPER(株価収益率)が一般的だ。自動車メーカーは通常10倍前後だが、テスラは300倍を超える。一方、売上高に対して何倍まで評価されているかを測るPSR(株価売上高倍率)がIT企業やスタートアップ企業の評価によく用いられる。

 成熟し、環境規制が厳しく、CASE(C=コネクテッド、A=自動運転、S=シェアリング、E=電動化) の構造変化からの収益悪化懸念が強い自動車産業のPSRは0.5倍を下回る。テスラのPSRは今期コンセンサスに対して約10倍、来期で7倍となる。すなわち、1年間で売上高が4割以上成長することを意味する。

 テスラの株式の評価はポストコロナの勝ち組であるIT企業と類似性が高い。ここでの関心は、なぜテスラがIT企業と同じ評価を得られるのかである。そこには三つの重要な要因があることを理解したい。(1)EVの台数成長力と収益拡大を両立できる唯一の自動車会社である、(2)先進的技術を垂直統合開発する力を有する、(3)ソフトウエア成長を収益機会に取り込む能力が高い──である。

 伝統的自動車メーカーはガソリンなどの内燃機関車の販売で巨大な規模と収益を確立している。収益性の低いEVに転換していくことは、ガソリンエンジン車の利益を失うことを意味する。現在の巨大な規模は、一転、巨大なレガシー(過去のしがらみ)コストを生じるのである。一方、テスラはEVでの収益性を誰よりも早く確立し、その台数成長がそのまま収益成長となる。

 テスラは、半導体、電子プラットフォーム、高度なソフトウエアを垂直統合して開発する力を有している。一方、伝統的自動車メーカーは、半導体メーカー、ボッシュ、デンソーなどの1次サプライヤーと付加価値をめぐる争いが必要であり、サプライヤーとのレガシーを抱えているともいえる。

ソフトが付加価値の源泉

 未来のクルマはハードウエアではなく、ソフトウエアが付加価値の源泉となる。テスラはソフトウエア価値を収益機会に取り込むことで先行した。CASEの車両は中央頭脳の車載コンピューターが搭載され、車両のハードウエアとソフトウエア切り離しが実現する。テスラは「モデル3」以降、伝統的メーカーよりも6年以上先行してこの切り離しを実現している。この結果、「FSD(フルセルフドライビング)」と銘打った自動運転ソフトを車両から切り離し、適時更新することで、高額での販売を可能としているのだ。

 EVを製造販売するだけでは、競争力を測る規模は、今の自動車メーカーと同じ直線的なものとなる。50万台の次は100万台、その後には200万台の壁が控える。ところが、ソフトウエアとデータに競争力が移れば、その規模は指数関数的な成長カーブとなる。テスラがIT企業並みの評価を得ているのはこういった背景がある。

 販売台数で競争力や企業価値を比較することが、CASEと言われる100年に1度の技術とビジネスモデルの大変革を前にして、もはや意味を失い始めていることを理解したい。その潮流が新型コロナウイルス感染症を受けた消費者の価値観、モビリティーと社会の変化で一気に加速化していることも大切なポイントだ。

 最後に、アップルやアマゾンが実現したような指数関数的なスケーラビリティー(拡張可能性)を担保できるプラットフォームをテスラが完全に築いたとは筆者は考えていない。その意味で、期待先行であることを指摘すべきだろう。現時点では、テスラはプレミアムブランドの中堅レベルであるトヨタの「レクサス」クラスのブランドを築いた段階にすぎない。生産地獄は乗り越えたが、品質地獄、メンテナンス地獄も避けては通れない。今後も、紆余(うよ)曲折はありそうだ。

(中西孝樹・ナカニシ自動車産業リサーチ代表)

記事の原題は「トヨタ超え」テスラ、三つの理由=中西孝樹

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