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中国EV市場攻略でトヨタが本腰 日産は生産増強、ホンダは多種展開=湯進

    トヨタが新たに投入するEV「イゾア」 筆者撮影
    トヨタが新たに投入するEV「イゾア」 筆者撮影

     中国若者の間で浸透している5月20日の「告白の日」(好きな人に愛を伝え合う日)に、トヨタ自動車は電気自動車(EV)の新モデル「イゾア」を発売した。発表の場となったオンラインイベントではカップル4組のラブストーリーを通じて「愛情をたたえるクルマ」というイゾアのコンセプトをPRした。

     トヨタは4月にも自社初の中国産EV「C-HR」、レクサスブランド初のEV量産車「UX300e」を発売しており、今回のイゾア投入により、すでに中国向けEVとして「シルフィゼロ・エミッション」を投入した日産自動車、「X-NV」を投入したホンダとの差を一気に縮めた格好だ。トヨタの参入で中国EV市場に日本の「ビッグスリー」が出そろった。

     中国では昨年から乗用車メーカーに一定台数の新エネルギー車(NEV)生産を義務付ける規制が導入された。対象車がEV、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)であり、日本勢が得意とするハイブリッド車(HV)は除外された。

     トヨタがイゾアのプラットフォーム(車台基盤)に、同社の技術を集結した「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を採用したのも、中国EV市場の開拓に本腰を入れ始めたことの表れだ。

     この背景には、中国政府が乗用車メーカーに課す厳しいNEV規制がある。さらに、新型コロナウイルスの影響で中国NEV市場の減速懸念が強まるなか、中国政府が3月に、当初2020年末までに廃止予定だったNEV補助金政策を2年間延長すると発表したことも日系メーカーを動かした。

    目標未達の日系企業

    (出所)中国工業情報省の発表より推算。東風汽車(有)は日産の中国合併企業
    (出所)中国工業情報省の発表より推算。東風汽車(有)は日産の中国合併企業

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     中国のNEV規制は、「NEVクレジット」というポイントの確保をメーカーに義務付けている。航続距離などの性能評価が高いEVを生産するほどNEVクレジットを多く確保できる仕組みにして、EVシフトを促そうとしている。

     今年、中国政府はメーカーに対し、乗用車の生産・輸入台数の12%相当をNEVクレジットとして確保することを課した。例えば、乗用車メーカーがガソリン車100万台を生産する場合、12万クレジットを確保しなければならない。航続距離400キロのEVを1台生産すると5クレジット得られるため、2・4万台生産すれば、12万クレジットになり規制をクリアできる。また、モーター走行のみで航続距離80キロのPHVなら、1台生産で2クレジットなので、6万台生産しなければならない。

     中国政府は、NEVシフトに出遅れたメーカーに猶予を与えるため、昨年のNEVクレジット不足分を1年間の繰り越し可能とした。乗用車メーカーが生産義務を達成できなかったときの罰則を回避するには、他社の余剰「NEVクレジット」を購入して確保することが規定された。

     ところが、現実にはNEVの生産・販売台数は低水準にとどまっており、今年4月にメーカー各社が公表した昨年のNEVクレジット実績を見ると、対象メーカー100社のうち3割の企業が目標未達となった。中でも日系自動車ビッグスリーを含む主要外資系メーカーがそろって目標未達となり、NEVクレジットの不足分を大量に抱える事態に陥っている。また、ガソリン車の燃費超過分をNEV生産で賄う必要があるため、各社はNEVシフトを急ピッチで進めなければならない。

     中国における今年の日本車の生産台数を500万台とすると、60万NEVクレジットの確保義務がある。また、昨年の未達成分(約25万NEVクレジット)に加えて、今年は新たに85万NEVクレジットを確保しなくてはならない。これら不足分をすべてEV(航続距離400キロ以上)の生産で解消しようとすると17万台を生産する必要がある。20年6月22日、中国政府は「ダブルクレジット政策」を修正し、日系企業が得意とするHVなど省燃費車生産を優遇する意図を示した。

    三者三様のNEVシフト

    トヨタは中国NEV最大手BYDと組んだ 筆者撮影
    トヨタは中国NEV最大手BYDと組んだ 筆者撮影

     日系ビッグスリーが中国で打ち出しているNEV戦略の特徴として、(1)既存ガソリン車種のNEVモデルの投入、(2)中国の合弁企業の自主ブランドの活用、(3)地場EVメーカーとNEV合弁生産──が挙げられる。

     日産が18年に中国で初めて販売したシルフィゼロ・エミッションは、日本で普及している「リーフ」のプラットフォームを利用し、中国電池メーカー最大手のCATLのリチウムイオンバッテリーを採用していることをセールスポイントにしていた。しかし、ガソリン車市場で構築したシルフィのブランド力を販売につなげられず、現在は営業車両向けで補っているとみられる。

     一方で、日産は武漢市で年間生産能力15万台規模のEV新工場を建設しており、22年までに中国で20車種を投入する目標を掲げた。さらに全販売の3割を、独自開発した電動パワートレイン「eパワー」を搭載した車種である「レンジエクステンダー(E-REV)」にするとしている。eパワーはガソリンエンジンで発電し、モーターで駆動することにより航続距離を延ばす新技術だ。

     ホンダは中国で25年までにNEVで20車種を投入する計画だ。昨年、小型のスポーツタイプ多目的車(SUV)ヴェゼルをベースにした「VE-1」とX-NV(航続距離401キロ)を発売した。今年はPHVの新技術を搭載するCR-Vの導入やEV分野の強化を発表した。ただ、VE-1、X-NVがそれぞれ、広汽ホンダ(広州汽車との合弁)、東風ホンダ(東風汽車との合弁)が自主開発した新ブランドのロゴマークを付けることになったことで、認知度の点で不安が残る。

     EVの新車種を一気に投入したトヨタは、25年にEVやFCV含む電動車の世界販売の目標を550万台に設定し、そのうちEVの年間販売台数が100万台に達すると計画している。

     19年に投入した「カローラE+」「レビンE+」はトヨタ初の中国向けPHVだ。ガソリン車の「カローラ」と「レビン」は、中国で年間販売台数20万台超の人気車種。そのブランド力を背景に二つのPHVの販売台数は昨年、合算で1万5000台を超え、中国PHV市場で7%のシェアを占めた。ただし、PHV生産で確保できるNEVクレジットはEVに比べて少ないのが課題だ。

     トヨタは今年2月、巻き返しの秘策として、天津市に約1300億円を投じてEV専用工場を建設すると発表した。広州工場の生産能力(40万台)を加えると、中国におけるトヨタのEV生産能力は22年に72万台に達する見込みだ。C-HRとイゾアはパナソニック製リチウムイオンバッテリーの搭載など、安全性の高さが武器になる。

     トヨタは中国NEV最大手のBYDと合弁会社を設立し、同社のプラットフォームと電池技術を活用したEV量産化も進めている。25年までにはトヨタブランドのセダン型EVと低床型SUVを投入。いずれも低コストが武器になるとみられる。

    さらなる戦略転換が必要

     足元は車載電池が高価なため、NEV車両全体もガソリン車に比べ割高となっている。上述したシルフィゼロ・エミッションの小売価格はガソリン仕様のシルフィの2・4倍に上る。

     結局は自動車メーカーにパワートレインの差別化だけではなく、デザインや車載機能など「制御」以外の部分でも、差別化の要因を訴求することになる。特に専用プラットフォームで生産されたEVが、ガソリン車と異なるコンセプトとして消費者に訴求しやすいとみられる。

     中国の地場メーカーに加え、欧米勢と戦うためには、さらなる大胆な戦略転換が必要になるだろう。今年は、中国EV市場攻略に向けた日系メーカーの「本気度」が試される重要なターニングポイントとなる可能性が高い。

    (湯進・みずほ銀行法人推進部主任研究員)


    欧米勢も中国で攻勢 低コスト車種を投入へ

    独BMWはSUVを発売 筆者撮影
    独BMWはSUVを発売 筆者撮影

     独フォルクスワーゲン(VW)は2025年までに、中国で年間EV生産150万台の目標を掲げており、今年は40億ユーロ(約4600億円)を中国市場に投資し、世界初の「MEB(EV専用プラットフォーム)」をベースにしたEV「ID・3」の生産を開始する。BMWは今年、同社初のEV仕様のSUV「iX3」を中国で生産。ダイムラーは吉利汽車と合弁生産で22年に小型高級車ブランド「スマート」のEV車両を中国に投入する。

     米国勢はテスラが年産50万台規模の上海工場「ギガファクトリー3」を立ち上げた。ゼネラル・モーターズ(GM)は第3世代EVプラットフォーム「BEV3」や、電池システム「Ultium」を中国に導入する予定。今後、欧米メーカーは中国でコストパフォーマンスの高いEV車種を投入し、一気に中国市場に浸透していくと思われる。

    (湯進)

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