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経済・企業コロナで激変するクルマ社会

テスラがこじ開けたEV大衆車時代に登場するホンダe(更新)

ホンダe(ホンダ提供)
ホンダe(ホンダ提供)

 2019年、世界のEV販売台数は220万台に到達、すべての車の中でEVが占める割合は2.5%となった。

 トップはテスラのモデル3の30万7500台、2位が北京汽車(BAIC)のEUシリーズ11万1047台、3位が日産リーフの6万9873台だ。トップ20の中にテスラのモデルが3つ入るなど、まさにテスラの一人勝ち状態だった。<コロナで激変するクルマ社会>

EVは普及価格のクルマへ

 今年に入ってからも1~5月の数字でEV売上は71万7756台、うち1位がテスラモデル3の10万6374台、2位ルノーZoeの2万6572台、3位が日産リーフ2万770台。ただしテスラのモデルSはトップ20から姿を消した。

 ここから何が読み取れるのか?。

 EVは確実にコモディティの時代に突入し、価格の高い高級EVよりも手の届きやすい価格の車がどんどん市場に出ている、ということだ。

 テスラは08年に最初のEVを発表したが、それはロータスの車をEVにコンバートしたもので、価格も日本円にして1000万円を超えていた。

 その後12年にモデルSが登場するが、やはり価格は8万ドル(約840万円)程度とまさにラグジュアリースポーツカーだった。

 当時ライバルとしてフィスカー・オートモティブの存在があったが、世界初の量産型高級プラグインハイブリッドEVといわれたフィスカーのカルマも12万ドル(約1260万円)、と非常に高額でハイスペックなスーパーカーだった。

消えたバイトン、ファラディ・フューチャー

 しかしフィスカーは財政破綻し、14年に中国の万向集団に売却された。その後も数々のEVメーカーが登場しては消え、EVという新たな分野で成功することの難しさを印象づけた。

ファラディ・フューチャーのFF1
ファラディ・フューチャーのFF1

 15年には中国のインターネット企業 LeEco(楽視)社から資金を受けたファラディ・フューチャー社が突然コンセプトカーを発表して話題になったが、その後LeEco創業者のJia Yueting(賈躍亭)氏が破産するなどで資金繰りにつまり、勢いが突然に衰えた。

バイトンのM-bite
バイトンのM-bite

 同じように18年にコンセプトカーを発表したバイトン社もその後破綻している。

EVは4万ドル時代へ

 当初のテスラと同じようなスーパーカーEVを生産する企業は、米国では現時点でカルマ・オートモティブ(フィスカーの後継会社)、テスラ従業員の一部が独立して創業したルシード・モータースに絞られた。

カルマ・オートモティブのReveroGTS
カルマ・オートモティブのReveroGTS

 フィスカーの創業者、ヘンリク・フィスカー氏はその後、新たにフィスカー社を立ち上げたが、現在作っている車はオーシャンと名付けられたSUV(スポーツ多目的車)で、リサイクル素材などを多用した4万ドル(420万円)を切る価格のSUVだ。

フィスカー社のEV、オーシャン
フィスカー社のEV、オーシャン

 現在米国で売れ筋のEVとは、この4万ドル前後の価格帯なのだ。

 つまりテスラがモデル3にシフトし、4万ドル台のEV量産に踏み切ったことで、EV業界全体が大きくシフトした。

 テスラはまずモデルSのような高性能スポーツカーによってEVの可能性を見せ、人々の興味を惹きつけたところでSUVであるモデルX、そして量産型のモデル3、と次々に「より多くの人が購入できるEV」へと裾野を広げていったのである。余談だが、テスラの車の頭文字を並べると7人乗りSUVのモデルYと合わせて「SEXY」となるのは有名な話。

テスラのモデル3
テスラのモデル3

 それだけではない。テスラは独自のデザイン哲学でEVを従来の「自動車」から逸脱する存在へと位置づけた。モデル3のシンプルなインテリアは、車の懇切丁寧な様々な機能は本当に必要なものなのかをユーザーに考えさせるきっかけにもなった。

GMボルトの惨敗

 テスラがモデル3の販売を発表した直後、GMはシボレーボルトという同じく4万ドル前後ながらモデル3より若干安い価格のEVを発表し、モデル3に先行して市場に投入した。「テスラキラー」とGMのメアリー・バーラ(Mary Barra)CEO自らが呼んだ車だが、見事に惨敗している。今年の数字を見てもモデル3の10万台に対し、ボルトは1万台しか売れていない。

 なぜなのか。答えはGMが価格だけにこだわり、モデル3が持つエモーショナルな部分に競合しない車を作ってしまったからだ。ボルトはむしろ日産リーフのライバルになるべき車だった。そしてリーフは発売が2010年と早いだけに、ある程度安定した人気を持っている。普通の乗用車をEVにコンバートしただけのように見えるボルトには、モデル3に対抗できる魅力がなかった。

試乗すると買いたくなるEV

 筆者は日産リーフ、BMWi3、ボルト、モデル3のすべてのEVを試乗したが、買っても良いかな、という気持ちになったのはリーフとモデル3だけだった。

 リーフは価格と全体のリーズナブルさ、周囲に所有する友人が何人かいるため評判も聞いていた。

 そしてモデル3はとにかく試乗が楽しかった。これまでにない斬新でシンプルなインテリア、高速道路での自動運転(オートパイロット)を試せたこと、魅力的なデザイン、すべてが「欲しい」と思わせられる車だった。加速性能など、走る楽しさも十分に味わえるし、内装がチープと批判されることもあるけれども特に気にはならなかった。事実、試乗会に誘った友人はその場で購入を決めてしまったほどだ。

3万ドルがEV普及の爆発ライン

リビアンのSUV、R1S
リビアンのSUV、R1S

 前回の記事で紹介したテスラのEVピックアップトラックのライバル、リビアンもR1SというSUVを発売するが、これも価格は4万ドル台が予定されている。

 EVの価格がもう少し下がり、3万ドルを切るようになれば爆発的に売れだすのではないか、と考えている。

 こうした状況の中で、フォードはマスタングベースのマッハeを、そしてGMは最近になってキャデラック・ブランドからリリックというEVを発表した。

フォードのマッハe
フォードのマッハe

 価格はそれほど高くは設定されていないが、なぜどちらも高級ブランドから攻めるのだろう、と疑問を抱かずにいられなかった。EVはガソリン車よりも高いラグジュアリーカー、というイメージから大衆車への移行しようとしている時に、時代に逆行するかのような動きだと思えたからだ。

往年の名車シビックを彷彿とさせるホンダe

ホンダe(ホンダ提供)
ホンダe(ホンダ提供)

 一方、ホンダは大手メーカーの中で正しくEVのトレンドを理解しているように見える。8月末に発表予定の新型EVのホンダeはまさにモデル3に対抗出来る唯一の車になるだろう。理由はこれまでのガソリン車のイメージにこだわらず、EVならではの近未来の車をコンパクトに凝縮することに成功しているからだ。

 あえてサイドミラーを設けずに車内に設置された5つのモニターの両端をバックミラーとして利用する、というアイデアは斬新だし、車のコネクティビティにこだわった、人と車が一体化するようなコンセプトも心地よさそうだ。

 外観を思い切りシンプルにした結果、初代シビックを思い出させられるようになったデザインも魅力的だし、あえて継続走行距離にこだわらず街乗りに特化させた、というのもEVの本質を正しく捉えていると思う。価格にもよるが、英国ではすでに発注が始まり、価格は371万円から、という報道があった。これが確かなら価格面でも十分モデル3に対抗でき、コモディティ化を象徴する車になる可能性を秘めていると感じる。

 EVが普及するには、リッチではないごく普通の人々がEVを購入するようになる必要がある。まずそのベースを作り、そこからラグジュアリーモデルへとステップアップする、というのが正しいマーケティングではないだろうか。

 モデル3やホンダeでEVの楽しさを知った人々が、もう少し大きい車が欲しい、スポーツカータイプが欲しい、というように他のモデルに買い替え需要が生まれる時、本当のEV時代が到来する。

ヘンリク・フィスカーと筆者、2020年1月のCES=世界最大のラスベガスの家電ショーで
ヘンリク・フィスカーと筆者、2020年1月のCES=世界最大のラスベガスの家電ショーで

(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト、写真はホンダeを除きすべて筆者)

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