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国際・政治 2020年後半 日本・世界経済大展望

コロナ、バッタ、アフリカ豚熱(豚コレラ)……迫り来る食糧危機、空前の食料価格バブルは起こるのか

イラン、パキスタン、インドを横切り、収穫物を破壊してきたバッタ(パキスタン・バロチスタン州の山岳地帯ヌルガマ村の小麦畑、2020年3月6日)(Bloomberg)
イラン、パキスタン、インドを横切り、収穫物を破壊してきたバッタ(パキスタン・バロチスタン州の山岳地帯ヌルガマ村の小麦畑、2020年3月6日)(Bloomberg)

 どうにも不可解である。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の収束が見えぬなか、世界各地で同時多発複合の食糧危機連鎖の懸念が生じているにもかかわらず、市場が静観していることだ。

 シカゴ穀物市場では、大豆、小麦、トウモロコシともに、ここ数年、安値圏で推移している。背景には8年連続の記録的豊作予想がある。米農務省が7月に発表した需給報告によれば、2020~21年度の世界穀物生産量は27億6000万トンとなり過去最高を更新する見通しだ。このうち、小麦は7・7億トン、トウモロコシ11・9億トン、コメ(精米)5・2億トンで、いずれも記録的豊作である。世界の穀物在庫も8・7億トン台(年間消費量の32%)まで積み上がる。

 穀物貿易量も4・5億トン台とこの10年間で1・5倍に拡大。天候相場本番を迎えた米中西部コーンベルト地帯の天候も順調だ。これらを見る限り穀物価格に上昇の余地はないが、果たしてそうか。

 OECD(経済協力開発機構)とFAO(国連食糧農業機関)は7月16日、連名で「新型コロナウイルスによる不確実性の高まりにより農業の中期的見通しは不透明」とする長期予測を発表した。

 今後10年間、供給の伸びは需要の伸びを上回り、ほとんどの農作物の実質価格は現状の水準を維持または下回るとの見方をしつつも、「世界的な新型コロナウイルスのパンデミックとの闘いは、労働市場や農業生産、食品加工、交通、物流、さらに食料と食品サービスへの需要の変化などの弱点と相まって、世界の食糧供給網において空前の不確実性の原因になっている」と指摘している。

 通常、研究機関の長期予測は過去の需給データをベースに、人口、所得、消費形態などの変数を踏まえて推計(線形予測)されるが、現在われわれが直面しているのは、不確実・不透明な複雑系(非線形)な世界である。

 世界の食糧市場における足元の不確実要因をとりあげると、コロナ禍に加え、サバクトビバッタの大発生による蝗害(こうがい)、欧州での干ばつ、中国での揚子江洪水(三峡ダム決壊懸念)、アフリカ豚熱(ASF)と新型豚インフルエンザの発症、アマゾンの森林火災、シベリアの高温――など不安材料に事欠かない。これら要因は相互に影響を及ぼし合い複合的な危機をもたらす。ロイター通信によれば、中国南部で発生した深刻な洪水により、沈静化していたASFの感染が再び拡大している。

 シカゴ穀物市場はいまのところ事態の深刻さも実害もつかめず静観しているものの、今後実態が明らかになれば需給逼迫(ひっぱく)、価格高騰要因になる可能性は大きい。

鳴かないカナリア

「価格には、あらゆる情報が織り込まれている」と言われる。その意味では、市場は迫りくる危機に対する「鉱山のカナリア」の役割を担っているのである。にもかかわらず今回は「カナリア」の役割を果たしていないところに、筆者は不気味さを覚える。

 いずれ市場で、食糧価格の上昇という警鐘が鳴るのかもしれないが、その時はもはや手遅れとなる可能性が高い。確かにトータルとしての世界の食糧生産は潤沢だ。しかし、工業製品に比べ安価で長期保存が難しい穀物は、極めて地域限定資源で、地産地消が基本であるため脆弱(ぜいじゃく)なのだ。

 グローバリゼーションの下で、農業の外部化を極限まで進めてきた日本にとって、いかに食糧の安定供給を確保するかは喫緊の最重要課題である。

(柴田明夫、資源・食糧問題研究所代表)

(本誌初出 複合食糧危機 バッタとコロナの同時多発 供給に空前の不確実性=柴田明夫 20200818)

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