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「三峡ダム」だけではなかった……84%が「危険」という中国のダム問題について=立沢賢一

    発電を開始、茶色のしぶきを噴き上げる中国・長江の三峡ダム。2003年8月撮影。
    発電を開始、茶色のしぶきを噴き上げる中国・長江の三峡ダム。2003年8月撮影。

    中国国内の政治闘争の産物、三峡ダム

    中国には多くの水利専門家が執筆した治水と水害防止の専門著書が数々あり、治水および水害防止の理論と技術水準を絶え間なく向上させていました。

    中国は国土が広いので、各地の地形や気候の相違が大きく、水害の形式も複雑です。

    中でも、湖北省の武漢や四川省の重慶等は流域洪水の影響が大きく、その被害を食い止める方策が必要でした。

    三峡ダムは、1919年に孫文が三峡ダム建設プロジェクトを提唱した事から始まりました。

    しかしながら、共産党と国民党の政治的争いや、中国共産党により1949年に中華人民共和国が建国された後も大躍進政策や文化大革命など様々な事件が障害となり、ダムの着工まで漕ぎ着ける事ができませんでした。

    長江は全長6300kmという大スケールの川です。

    従いまして、長江の開発は「持続可能な開発」への取り組みとして、水力発電、水資源の確保、水上交通、養殖漁業などを目的に、中国の発展の為にはなくてはならないプロジェクトと考えられていました。

    ようやく1993年に着工した山峡ダムは、16年の月日をかけて2009年に完成しました。

    ところが、時の李鵬首相が環境保護を無視し、フィージビリティースタディー(事業の実現可能性を事前に調査すること)も行わず、汚職のための手抜き工事を行い、構造上も問題のあるダムを建設してしまったのです。

    巨大な三峡ダムの貯水量は393億立方メートルで、日本の琵琶湖(水量:275億立方メートル)の1.43倍に相当します。

    また、三峡ダムは2,250万kWの発電が可能な世界最大の水力発電ダムでもあり、中国全体の7.5%に相当する膨大な電力エネルギーを供給しています。

    そして、ダムを挟んで上海まで続く長江流域は4億人の生活の場であり、工業や農業を始めとする中国の産業生産の約40%を担う“流域圏”です。

    今回問題になっている三峡ダム決壊リスクに関して、6月からの異常な降水量で7月19日午後8時には水位が164・18メートルに達し、運用開始以来の最高水位163・11メートルを超えたのです。その後更に水位は増し、8月21日午前までに165.6メートルに到達。危険水位を約20メートルも上回り、設計最高水位である175メートルに迫りつつあります。

    それは増水期の制限水位とされている145mを、20m以上オーバーしたことになります。

    三峡ダムは「問題のデパート」

    (1) 犠牲者補償問題

    三峡ダムの貯水池は全長660㎞にも及ぶため、ダム湖に水没する地域は広大なものであり、多数の村落や都市が水没することとなったのですが、これら「三峡移民」の多くは充分な補償も受けられないまま貧困層へと転落しており社会問題となっています。

    (2) 地質問題

    地質が脆い場所に作られたダムに貯水を行うと、ダム湖斜面や周辺の地盤への水の浸透と強大な水圧により、地滑りやがけ崩れが発生する可能性が高まります。

    三峡ダム区地質災害防止作業指導事務室チームが調査を行った結果、5,386カ所で地滑りやがけ崩れなどの問題が発生する恐れがあることが判明しました。

    (3) 水質汚染問題

    人口3,000万人を超える重慶など上流域での工業・生活排水対策が不十分で、ダムが「巨大な汚水のため池」になってしまっています。

    (4) 地震発生問題

    2008年5月に発生した四川大地震はマグニチュード7.9を記録し、甚大な被害をもたらしました。震源地近くでは地表に7メートルの段差が現れ、その破壊力は阪神・淡路大震災の約30倍にも及びました。

    最近の中国の研究では、地震発生の原因のひとつは「三峡ダム」の巨大な水圧ではないかとの指摘があるのです。ダムの貯水池に貯めた水圧と、地面から地下に沁みこんだ水が断層に達することで、断層がズレやすくなったという分析です。

    (5) ダム決壊とそれによる洪水発生問題

    2018年、人工衛星からの写真で「ダムが変形している」と指摘され、ダム決壊への不安が広がっているのが現状です。もし自然に決壊したら、安徽省、江西省、浙江省などの穀倉地帯は水没の危機に瀕し、4億人から6億人もの被災者が出るとの予測もあるほどです。

    河口には上海が位置しますが、その都市機能は壊滅的な被害を受けることになります。上海に限らず、流域に位置する重慶や武漢などの経済、工業地帯には日本企業も多数進出しており、コロナ禍以上にサプライチェーンが寸断されることにもなりかねないです。

    中国経済の40%がダメージを受け上海が復興するには2-3年掛かるという試算すら発表されています。

    重慶と武漢の間の川に建設された三峡ダムは放水しないと上流の重慶が浸水し、放水すると現在の様に武漢が浸水してしまうのです。放水してもしなくてもダメというダムが三峡ダムで、ダムの専門家は少しでも早く三峡ダムを爆破して破壊すべきだと警鐘を鳴らしています。

    恐らく、中国当局は人民を犠牲にしてでも世界最大の山峡ダムを守ろうとするのでしょう。中国当局はそもそも洪水被害を軽減する為にダムを建設したのですが、中国の洪水の多くは人為的な理由が原因で発生しているという皮肉な結果になっています。

    84%のダムが危険という驚くべき報告……

    2019年6月11日に国務院で開催された政策説明会の席上で、水利部の水害・干害防御局長の田以堂は中国国内のダムに関して次のように言及しました。

    「中国国内には9.8万基以上のダムが存在するが、このうちの6.6万基以上はすでに欠陥があって危険なダムであり、これ以外の1.6万基以上は現在欠陥が判明して危険なダムである。このため、早急に欠陥を取り除いて補強することが必要である。」

    このデータが正しければ、欠陥があって危険なダムの総数は8.2万基(6.6万基+1.6万基)以上となり、ダム全体の84%を占めます。この欠陥があって危険なダムの中には間違いなく三峡ダムも含まれているのです。

    三峡ダムが自然決壊することは今の所ないであろうという「憶測」を信じているのか、上海株式市場には水害の影響は見られないようです。

    しかし、万が一、自然決壊が発生した場合、それが中国経済に与えるマイナスのインパクトは計り知れませんので、その時上海株式市場はかなり下落するのではないかと思われます。

    メコン川流域を震え上がらせている「中国ダム問題」

    三峡ダムからは話が逸れますが、中国のダム問題に関してはもう一つ大きな問題があります。

    それはメコン川問題です。メコン川の源流はチベット高原とされ、中国・雲南省からミャンマーとラオス国境、タイとラオス国境、カンボジア、ベトナムを流れ、南シナ海に至ります。

    全長約4350キロで、源流からラオスまでの約2000キロは標高約5000メートルから数百メートルまで下る形で流れ、標高差が大きいです。また、周辺流域住民は約6000万人です。

    メコン川には現在11基の中国の水力発電ダムが稼働し、さらに20基が建設中または計画中とも言われています。中国国内の欠陥ダムが全体の84%という数字から鑑み、メコン川沿いの東南アジア各国はかなり敏感になっています。

    これに関しては、ポンペオ米国務長官が「中国によるダム建設が川を統治する新しいルールを作っている」と厳しく批判しています。

    今後、三峡ダムを含め中国製ダムがどの様に国内外に影響を与えるのかは注視する必要があります。

    立沢賢一(たつざわ・けんいち)

    元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。

    Youtube https://www.youtube.com/channel/UCgflC7hIggSJnEZH4FMTxGQ/

    投資家サロン https://www.kenichi-tatsuzawa.com/neic

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