経営危機回避のためシャドーバンキング規制の実施が1年延長に……中国の金融業界がコロナで受けたダメージの本当の深刻度
中国人民銀行(中央銀行)などは今年7月末、主に銀行が規制回避のために迂回(うかい)融資をする「シャドーバンキング(影の銀行)」を抑制し、資産運用業界の正常化を目指すルールの導入について、完全実施までの猶予期間を2021年末まで1年延長すると発表した。
ルールは18年4月に発表された「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見」で、20年末までの順守を金融機関に求めていた。本来リスクが高いはずの高リターンの資産運用商品が、暗黙の元利保証を前提にリスク許容度の低い個人投資家にまで販売され、問題になったことから元利保証を禁止。どんぶり勘定での運用を禁じ、商品ごとに市場価格による基準価額で管理するよう求める。
また、シャドーバンキングでよく利用される「非標準化債権類資産」での運用を制限する。非標準化債権類資産とは、例えば不動産プロジェクトに対する収益受益権などで、銀行間市場や取引所などで取引されていない商品のことを指す。さらに、商品価格の過度な変動を抑えるため、資産運用商品の運用額を自己資金以上に引き上げるレバレッジにも制限を設ける。
しかし、こうした規制は、借り手の企業に資金調達方法の変更や債務返済を強いるため、コロナ禍の影響で経営が悪化する中で予定通り実施すると、今年末にかけて返済困難に陥る企業が続出しかねない。金融危機のリスクを避けるため、猶予期間が1年延長されたと見られる。ただ、あくまで臨時措置で、基本方針に変更はない。実際、金融業界は、道半ばではあるが指導意見の順守へ動いており、実施後の競争に備えている。
銀行の資産運用商品(理財商品、大部分が公募)は、「基準価額型」への移行が進む。19年末の残高23・4兆元(約363兆円)のうち、基準価額型は43・3%で、指導意見発表前の約15%から上昇している。非標準化債権類資産の運用資産全体に占める割合も低下した。また、資産運用業務を行う銀行が原則設立することになった資産運用子会社(理財子会社)は、20年8月時点で21社が設立認可を受け、17社が開業している。
銀行の資産運用商品の構成を見ると、債券など利回りが確定する固定収益(フィクストインカム)型が約8割で、株式型・バランス型は約2割にとどまる(19年末)。これは株式関連の投資リサーチを行う人材が不足していることも一因と言われている。
手数料欲しさに……
銀行を迎え撃つ基金管理会社(投資信託の運用会社)の公募基金(証券投資信託)は、従来から基準価額で管理されており、投資先も標準化商品であるため、指導意見の影響は小さい。一方、販売窓口の一部を今後ライバルとなる銀行などに依存している上、代理販売の手数料を得たい販売窓口側の意向で、投資家に次々と新商品に乗り換えさせる現象も見られる。
実際、今年は株価上昇を背景に株式型・バランス型の新商品の販売が好調だが、販売口数の増加の割に残高が増えておらず、長期投資を根付かせる上で改善の余地がある。公募商品市場には今後、証券会社の参入も予想される。各業態とも今回の1年延長を課題解決に生かせるかが重要となる。
(神宮健・野村総合研究所金融イノベーション研究部上席研究員)
(本誌初出 競争に備える資産運用業界 コロナ影響で正常化は延期=神宮健 20200922)