美容成分が豊富に含まれる「食べられるバラ」の栽培で資本金8000万の企業へ 大学を中退してまで「バラ農家」を始めた理由
「ROSE LABO(ローズラボ)」は食べられるバラを無農薬で栽培。品種開発から食品・化粧品の加工、販売まで手掛ける。見た目や香りだけではないバラの魅力を開花させようと奔走する。
(聞き手=岡田英・編集部)
埼玉県深谷市にある約1000坪(約3300平方メートル)のビニールハウスで食用バラを年間27万輪ほど無農薬栽培しています。飲食店向けに納品する生花は、サラダやケーキに添えられたり、ジャムやペーストにしてケーキに使われたりしています。
暖房は使わないため、開花するのは4~10月です。生花として出荷しない分は冷凍保存し、ジャムやシロップといった食品や化粧品に加工。自社ブランドとして百貨店を中心とした約100店舗や、自社サイトで販売しています。ジャムは110グラムで1800円、保湿化粧水は50ミリリットルで3200円(いずれも税抜き)です。
日本ではバラは観賞用が大半ですが、実はビタミン類や食物繊維などの美容成分を豊富に含んでいます。そこに目をつけて約2年かけて開発した品種「24(トゥエンティフォー)」は従来種に比べビタミンAは10倍以上、ビタミンCは2倍以上で、化粧品に使っています。
1年目は3000本が全滅
大学に入った頃は目標も将来の夢もありませんでした。でも、曽祖母の影響で幼い頃からバラは大好きでした。曽祖母は女手一つで7人の子どもを育て、カバンと靴の製造・販売業を営む事業家でした。いつもバラをモチーフにした洋服や小物を身につけていたのが格好良かったんです。
彼女がよく口にしたのが「自分の人生は自分が主役」。私も好きなことを仕事にしたい、と考え始めました。そんな時、母が友人からブルガリア土産のバラで作ったジャムをもらったのがきっかけで食用バラの存在を知り、衝撃を受けました。自分でも育ててみたいと2年生で大学を中退。ネット検索で見つけた大阪の食用バラ農家に修業に行きました。
そこで栽培の仕方を学び、バラに美容成分が多いことも知りました。そうしたバラの魅力をもっと発信したいと思い、経理の経験があった母と2015年9月に起業。祖父母や金融機関からお金を借り、花の栽培が盛んな深谷市の農地にビニールハウスを建てました。
ところが1年目、育てていた約3000本のバラはほぼ全て枯れました。原因は、肥料と水の量・回数を気温も湿度も違う大阪と同じ要領でやっていたからでした。勉強しなおそうと社会人向けの農業学校に通い、2年目はうまく咲いたのですが、今度は大量に余ってしまった。売り先がなかなか見つからなかったからです。どうしても捨てられず冷凍保存を始め、試しにジャムを作ってみたら意外においしく、近くの和菓子店に加工を依頼。週末に都心のマルシェで加工食品の手売りを繰り返すうちに固定客が増え、百貨店のバイヤーともつながって販路が広がりました。
3年目は「24」がようやく完成し、それを使った化粧品を開発。3年目で年商1億円となり黒字転換しました。新型コロナウイルスの流行で飲食店や百貨店が休業して売り上げは一時減りましたが、出荷先を失ったバラを使って手指の消毒に使えるスプレーを開発。なんとか売り上げ増を維持できました。「売る力」のある農家のお手本になり、若い人の新規就農に貢献できたらと思っています。(挑戦者2020)
(本誌初出 田中綾華 ROSE LABO社長 食べられるバラで美しく 20200922)
企業概要
事業内容:食用バラの栽培、加工食品・化粧品などの商品開発、販売
本社所在地:埼玉県深谷市
設立:2015年9月
資本金:8000万円(資本準備金含む)
従業員数:12人(パート・アルバイト含む)
■人物略歴
たなか・あやか
1993年生まれ。東京都出身。2013年二松学舎大学中退。大阪府内のバラ農家で食用バラの栽培法を学び15年9月、前身のFloweryを設立。17年に「ROSE LABO(ローズラボ)」に名称変更した。27歳。