経済・企業挑戦者2020

もはや狩りにもITリテラシーが必要な時代に……IoTを活用した「スマートトラップ」と「ジビエクラウド」で狩猟の世界に大変革が起きている

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 年々、深刻化する鹿やイノシシによる農林被害と、減り続ける猟師の担い手、二つの問題に立ち向かうべく、ITの力を狩猟の世界に取り入れる。(挑戦者2020)

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=白鳥達哉・編集部)

 獣の「わな」に監視センサーを組み入れた「スマートトラップ」と、捕獲・加工情報を扱うプラットフォーム「ジビエクラウド」を開発・提供しています。

 鹿やイノシシが畑や植林地を荒らす鳥獣被害の総額は2018年度時点で約158億円、鹿やイノシシの数は年々増加しており、被害を抑えるためにも適切に狩猟を行わなければならないのですが、捕獲する猟師の数は減っている上に、高齢化も進んでいるのが問題となっています。

 最近の狩猟は銃の扱いの難しさから、わなを使うのが主流になっていますが、獲物がかかっているかを毎日確認しなければならず、管理が大変です。また、捕獲した獲物は食肉として加工し、最近はジビエ(狩猟肉)として人気も出ていますが、わなにかかってから加工までに時間がかかって傷んでしまうなどの理由から、食肉利用率は1割程度しかありません。

わなの設置場所、作動状況が簡単に把握できる ハンテック提供
わなの設置場所、作動状況が簡単に把握できる ハンテック提供

 スマートトラップは獲物がかかるとすぐに感知して、メールで通知してくれます。毎日、見回りをする必要がなくなり、通知がきたらすぐに加工施設に連絡することで食肉の歩留まりもよくなります。似た製品はあるのですが、どれも非常に高価で導入のハードルが高いのが問題でした。スマートトラップは1台の本体価格が3万3800円と、かなり安く抑えています。

 通知やわなの設置場所、設置状況などの管理情報を統括するのがジビエクラウドですが、さらに、獲物の個体情報や、誰がいつどこで捕ったのか、どの施設で食肉加工したのかという、捕獲・加工情報も入れることができるので、消費者への安全性や信頼性の向上にもつながります。

焼き肉屋での会話がきっかけに

 私が小さい頃、地方の田舎に住んでいる親族にすごく可愛がられ、田んぼでどじょうを捕って遊び、五右衛門(ごえもん)風呂で汗を流して蚊帳の中で寝る。自然の豊かな生活を体験させてもらう中で、いずれは地方に恩返しをしたいと考えるようになっていました。

 もともと起業したいという思いはなかったのですが、転機になったのは社会人になってから知り合い2人と焼き肉を食べにいったときです。肉を焼いていると、「最近、野生鳥獣による農業・林業の被害が大きくなっている。一方でジビエがブーム。うまく組み合わせればおいしいもの食べられて地域にも恩返しできるんじゃないか」と何気ない話で大盛り上がり。お酒の場の話で終わらせず、思い切って動いてみようということになり、3人で資金を出し合い、ハンテックを創業しました。

 現在は約10の自治体で導入してもらい、300台ほどを売り上げています。新型コロナウイルスの影響はあるものの、まとまった台数を使いたいという話もあり、着実に利用者は増えています。

 今後は、捕獲後の自治体への報告など狩猟に関する煩雑な書類作成を電子化し、行政のプロセスの効率化についても提案をしていきたいと思います。

(本誌初出 川崎亘 ハンテック代表 狩猟の未来をIT技術で変える 20200901)


企業概要

事業内容:狩猟関連機器・サービスの企画・開発・販売

本社所在地:東京都目黒区

設立:2017年9月

資本金:210万円

従業員数:7人(20年8月現在)


 ■人物略歴

かわさき・わたる

 1984年東京都青梅市出身。早稲田大学人間科学部卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻修了。コンサルティング会社、ベンチャー企業を経て、2017年9月ハンテック創業。36歳。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月16日・23日合併号

今こそ知りたい! 世界経済入門第1部 マクロ、国際政治編14 長短金利逆転でも景気堅調 「ジンクス」破る米国経済■桐山友一17 米大統領選 「二つの米国」の分断深く バイデン、トランプ氏拮抗■前嶋和弘18 貿易・投資 世界の分断とブロック化で「スローバリゼーション」進行■伊藤博敏20 金融政策 物価 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事