北出宗治 AWL社長 AIカメラで販促もコロナ対策も
店内カメラの映像を人工知能(AI)で処理し、来店客の属性や購買動向を分析。最近は混雑状況の表示や一斉検温の機能も加わり、コロナ対策としても引き合いが強まっている。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=岡田英・編集部)
小売店などにある監視カメラ向けの人工知能(AI)を開発しています。既存の監視カメラに「AWL BOX(アウルボックス)」という画像処理端末をつなぐだけで、来店した客の人数や性別・年齢、入店から退店までにたどった経路などを分析でき、効果的な販促に生かせます。
従来のAIカメラは、大量の映像データをクラウドに送ってAI処理しているためコストが高く、浸透してきませんでした。我々は端末側でAIの処理をし、クラウドに送る情報を軽くすることでコストを大幅削減したのと、既存のカメラを使えるのが特徴です。アウルボックスは1台でカメラ20台まで対応でき、初期費用は約25万円、基本利用料が月2.5万円。必要なAI機能に応じて追加料金を支払う仕組みです。初期費用は従来のAIカメラの8分の1以下です。
もともとは来店客の属性や購買動向を把握したいニーズが多かったのですが、今は新型コロナウイルスの感染防止対策としての引き合いが強いです。専用アプリを入れたスマートフォンやタブレットなどをAIカメラとして使う「AWL Lite(アウルライト)」では店内の混雑度を検知。映像から客がマスクをしているか、入り口でアルコール消毒をしたかも分かります。さらに赤外線で体表面の温度が分かるサーモカメラとAI測定システムを別途導入すれば、同時に複数人の額を0.1度の誤差で一斉検温でき、発熱があれば音などで知らせます。こうしたコロナ対策機能の導入は数百件に及び、全国のホテルや旅館でも急速に増えています。食堂など館内施設の混雑状況を宿泊者がスマホや客室のテレビなどで把握できます。
コロナで接客時の声かけがしにくい中、店内の電子看板で表示する広告を、前を通過する客の年齢や性別に応じて出し分ける機能の引き合いも増えています。
北大との出会い
大学入学時は、祖父が北海道で創業した卸売市場を父から継ぐつもりでした。しかし、20歳の時、旅先の米国でインターネットの面白さに目覚め、卒業後は家業を継がずに渡米しました。コンサルティング会社などで働きましたが、2001年の同時多発テロでビザの延長が難しくなって帰国。マンツーマン英会話のGABAでIT部署の立ち上げ、ライブドアのメディア事業部で新規事業に携わりました。いずれも突然のトップ交代で会社のカルチャーががらりと変わって退職。ならば今度は自分が社長になればよいと思い、06年に起業して大手企業のコンサルティングなどをしていました。
アウル創業のきっかけは2015年、顧客先のパナソニックから「AIで何かできないか」と相談されて詳しい人を探す中で、AI研究者の川村秀憲・北海道大学教授と出会ったことでした。AIを社会に実装させていくことで意気投合し、16年6月に前身の会社を設立。北大の留学生を中心に優秀な技術者が18カ国から集まり、従業員の約5割は外国人です。
今後はオフィスや工場、倉庫などあらゆる空間を、カメラとAIを使った自動化で、便利にしていきたいと思っています。(挑戦者2020)
企業概要
事業内容:監視カメラのAI化
本社所在地:東京都千代田区
設立:2016年6月
資本金:2億3975万円(連結)
従業員数:84人(パート・アルバイト含む)
■人物略歴
きたで・むねはる
1978年生まれ。北海道苫小牧市出身。苫小牧東高校卒業。2001年東海大学政治経済学部卒業。米国のコンサルティング会社、レコード会社をへて帰国後、02年マンツーマン英会話のGABAに入社。04年ライブドアに入社。06年に独立後、大手企業のコンサルティングなどをへて16年6月、前身のエーアイ・トウキョウ・ラボを創業。19年2月に「AWL(アウル)」に名称変更した。41歳。