経済・企業挑戦者2020

「キャバ嬢が成績トップ営業に」夜職は人材の宝庫だ=坪嶋拓真(昼ジョブ代表)

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 キャバクラやスナック、風俗店などで働く女性に特化した転職支援サービスを手がけるのが「昼ジョブ」だ。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=加藤結花・編集部)(挑戦者2020)

 キャバクラやスナック、風俗店などを総称して「夜職(よるしょく)」と呼ばれる世界には多くの女性が働いています。彼女たちは自分の仕事がずっと続けられるとは考えていないので、安定した収入の見込める一般企業で働きたいと考える人も多いのですが、いざ転職しようとするとなかなか選考を通過できない厳しい現状があります。

 これは、夜職での勤務経験を履歴書に書けなかったり、「バーのお手伝い」といったあいまいな表現しかできなかったりするためです。また、企業での勤務や就職活動の経験がない女性も多く、履歴書の書き方や面接のマナーなどを身につけていないといったことも転職のハードルを上げてしまっています。

 そこで、昼ジョブでは履歴書に使う写真はどのようなものが適切かという助言やパソコンを触ったことがない人に電源の入れ方から教えるといった初歩の初歩、基本的なところからサポートします。これは、他社にはないサポート体制だと思います。

 その結果、当社が転職活動の支援を行う女性の50%程度、30~60人程度が毎月、転職に成功しています。現在約300社とパイプがあり、コミュニケーション能力に優れ、精神面においてもタフな女性が多いため営業職などで特に重宝されています。

社会の偏見をなくしたい

昼ジョブのホームページ
昼ジョブのホームページ

 私がこの事業を始めようと思ったきっかけは、非常に優秀な夜職経験者の女性と出会ったことでした。当時、私は不動産会社の人事として面接を担当しており、そこに応募してきたのが彼女でした。彼女は、当時21歳でキャバクラでの勤務経験者。履歴書の写真は自分で撮影した写真メールで、アピールポイントにはどうやって客から指名をとっていたかなどを書いていました。

 期待せず、とりあえず会ってみるかという軽い気持ちで面接をしてみたのですが、営業に対する強い熱意を感じ採用。入社後、誰よりも熱心に仕事に打ち込み、1年目で当時の営業のメンバーを全員抜き、粗利益で7000万円の売り上げをたたき出しました。そのときに、「夜の世界にはこんな“ダイヤの原石”みたいな人材が埋もれているのでは」と考え、昼ジョブのサービスを思いつきました。

 当初は、勤めていた不動産会社の自社採用の強化という位置づけで始めましたが、2018年5月に「昼ジョブ」のウェブを公開するとすぐに100人程度の登録があり、手応えは上々。やりがいのある仕事だと強く心を動かされ、3カ月後には会社を辞めて昼ジョブを起業しました。5月下旬には、事業の将来性が評価され、口コミサイト「エキテン」の運営などインターネットメディア事業を展開するデザインワン・ジャパンにM&A(企業の合併・買収)されることが決まりました。

「昼ジョブ」の会員数は現在8000人程度。今回の新型コロナウイルスの影響で夜職で働く女性の安定志向はさらに強まったようで、登録者数は4月以降は前月比2、3倍のペースで増えています。昼ジョブを通して、彼女たちの活躍の場を広げるとともに、いまだ社会にある夜職経験者に対する偏見をなくすことに一役買うことができれば、本望です。

(本誌初出 坪嶋拓真 昼ジョブ代表 夜の世界にいるダイヤの原石 2020・6・30)


企業概要

事業内容:「夜職」経験者に特化した転職支援サービス

本社所在地:東京都新宿区

設立:2018年8月

資本金:500万円

従業員数:11人


 ■人物略歴

つぼしま・たくま

 1987年大阪府出身。2005年大阪学芸高校を卒業し上京。都内で親族が経営する劇場の舞台制作をしながら、夜はボーイズバーで勤務。バーやパチンコ店勤務などを経て、16年に不動産会社に転職。18年に昼ジョブを設立した。

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