長谷川裕介 Trim代表取締役社長 街のどこにでも授乳室を
電話ボックスのような授乳室があったら……。授乳室の設置に苦労する施設、授乳室が足りなくて困っているお母さんたちの声を形にした。
(聞き手=市川明代・編集部)(挑戦者2020)
授乳やおむつ交換のできる可動式の完全個室型ベビーケアルームmamaro(ママロ)を開発し、商業施設などにリース販売・レンタルしています。創業事業である授乳室検索アプリの利用者たちの「授乳室が少なくて、出かけられる場所が限られる」という声がもとになっています。
mamaroは幅180センチ、奥行き90センチ、高さ200センチ。授乳する人と赤ちゃんのほかに、付き添いの人が1人入れるぐらいの大きさで、ソファと小さな椅子、施設情報などを見られるモニターとコンセントを備えています。
大学卒業後は広告代理店に就職しました。激務で、家に帰るのは週に2日ほど。28歳の時に母をがんで亡くし、仕事に対する考えを改めました。人の役に立てればと医療系ベンチャー企業に転職し、新規事業の責任者として手がけたのが、授乳室のある場所を地図検索できる無料アプリ「ベビ☆マ」(現在は「Baby map」)でした。当初は自分たちで情報を集めて入力していましたが、お母さんたちに投稿してもらうようにすると、利用者が増えていきました。
勤めていた会社は2015年、上場を前に事業を主力の医療に絞る必要に迫られました。アプリをなくすのは忍びなく、買い取って起業することに。起業家支援プログラムで資金調達しましたが、アプリの広告収入頼みで、いつ資金ショートしてもおかしくない状況でした。
アプリの授乳室の情報量はやがて1万8000カ所ほどで頭打ちになり、それが国内の授乳室のおおよその個数なのだと理解しました。授乳室は、同時に何人も使えるように椅子をいくつも置いて、おむつ交換台を設置して、ミルク用にお湯が使えるようにして……と、案外スペースを取ります。単位面積当たりの売上高を考えなければならない商業施設では、容易に作れないと分かりました。
一方で、お母さんたちは授乳室が足りず不便を感じていました。プライバシーが確保されていない授乳室では気を使うという声もありました。お母さんたちと施設と両方から聞き取りをして、「電話ボックスのような授乳室があれば」というアイデアをヒントに描いたイメージ図が思いのほか好評で、自ら作ってしまいました。
ほっとできる空間に
設備は最小限にして、温かみのある素材やデザインにこだわりました。赤ちゃんが泣きやまない時に駆け込んだり、ほっと一息ついたりできる空間にしたかったのです。Baby mapとの連携で、事前に空き状況を確認できるようにしました。授乳室は通常、商業施設では子供服売り場の近くに置かれますが、催事スペースなどに移せるようにキャスターを付けました。
第1号(試作機)が横浜市内の商業施設に導入されたのは17年7月。それ以来、ショッピングモールや公共施設、駅や銀行など全国計172カ所に置いてもらいました。今後更に増やしていきます。現在は販売・レンタル料のほか、モニターを使った広告配信などが収益の柱ですが、施設と組んだビジネスや、自治体や医療機関と連携した赤ちゃんの健康管理システムなども考えています。少子化が進む中、子育てに優しい環境づくりに貢献できる企業でありたいと思っています。
企業概要
事業内容:ベビーケアルームの開発・販売、授乳室検索アプリの開発・運営
本社所在地:横浜市
設立:2015年11月
資本金:2億9758万7684円(資本準備金含む)
従業員数:11人
■人物略歴
はせがわ・ゆうすけ
1983年神奈川県生まれ。大学卒業後、広告代理店に約10年間勤務。医療系ベンチャー企業でCIO(最高情報責任者)と新規事業責任者を経験した後、2015年11月にTrim(トリム)設立。17年7月よりベビーケアルームmamaro(ママロ)のサービスを開始。36歳。