後藤匠 リブリー代表 デジタル教科書で目指す世界平和
重い教科書や問題集にさようなら──。教材の電子化で、生徒の勉強も、先生の指導も、効率化する。ゆくゆくは世界中のどこでも誰でも学べる基盤を作る野望を抱く。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=岡田英・編集部)
模試で間違えた問題と似た類題を、無数の問題集から探してくれたら──。自分が高校生の時の「願い」を実現したのが、スマート問題集「Libry(リブリー)」です。
出版社と提携し、中学・高校の教科書や問題集を電子化。タブレット端末やスマートフォンに表示された教材一覧から見たいものを選ぶと、紙と同じようにページをめくれます。勉強はこれまで通り紙のノートとペンを使い、端末に表示された解説を見ながら自己採点して結果を入力すると、正答状況や解答時間といった学習履歴が蓄積されます。これを基に、生徒の学力に合った類題を別の問題集から瞬時に探します。ノートを端末のカメラで撮って保存し、見返すこともできます。
先生の業務時間を削減
先生も、生徒の宿題管理が楽になります。問題を選んで生徒に一斉送信し、生徒の提出状況や答え合わせの結果を一覧で見られます。正答率は自動集計され、間違えた生徒のノートの写真を重点的に見て、授業改善にも生かせます。全員のノートやプリントを集めて出席番号順に並べたりする手間が省け、先生の1日の業務時間が2~3時間減ります。
数学、理科を中心に出版社横断で130冊超を電子化。1冊ごとの収益を各出版社と分け合うビジネスモデルで、高校を中心に約170校が導入しています。デジタル教科書は今の法律では紙の教科書との併用が義務づけられていますが、新型コロナウイルスの感染拡大もあって今後は変わるかもしれません。
大学院生だった2012年に起業した当初は、大学入試問題の解説を2000~3000問分自分たちで作ってデータベース化し、デジタル問題集として塾や学校に売り込んでいました。ところが「どこの馬の骨とも分からぬ学生が作った問題集で教えられるか」と相手にされなかった。長年使われてきた出版社のコンテンツなら信頼できると言われ、教科書会社と提携すべく各社を回りました。
電話やメールで断られても、社長あてに手書きの手紙を書いたり、幹部の方の講演に行って“出待ち”したりしました。NTTドコモの起業家支援プログラムに採択されるなど第三者の評価も得ると、協力してくれる教科書会社が現れ、13年ごろから軌道に乗り始めました。ただ、当時はタブレット端末の教育現場への普及が進まず、本業と別にアプリの受託開発や新規事業のコンサルティングをして資金をため、市場の立ち上がりを待ちました。
転機は16年夏でした。タブレット導入校が相次ぐ中、試しに無料で使ってくれた学校で「有料でも使い続けたい」と言う生徒が7割を超えたんです。先生用の宿題管理機能を加え、使う生徒が増えたのが大きかった。17年4月に正式リリースし、全国の中高約1万5000校の約7割の1万校超での導入が目標です。
子供の頃からの最終的な目標は「世界平和」です。小学5年の時、テレビ番組で世界には学校に通えない子供がいると知り、衝撃でした。どの国に生まれても勉強して能力を高められ、インターネットを通じて自国にいながら先進国の労働市場と同じ条件で雇用されれば、地理的要因による経済格差は生まれない。そんな仕組みを作れないか、と考えています。
企業概要
事業内容:会員制学習コンテンツの配信など
本社所在地:東京都千代田区
設立:2012年5月
資本金:非公開
従業員数:22人(パート・アルバイト含まず、2020年4月1日現在)
生徒ごとに宿題の提出状況と答え合わせの結果が一覧で表示される
■人物略歴
ごとう・たくみ
1989年千葉県船橋市生まれ。市川高校卒業。2012年3月、東京工業大学工学部社会工学科卒業。東工大大学院に在学中の12年5月に学生起業し、forEstを設立。19年3月にLibry(リブリー)に名称変更した。30歳。