コロナ後の日本経済 デジタル化に遅れた企業は「負け組」=岡田英(編集部)
リモート経済 誰が勝つのか
全社員がテレワークで働く経営・労務コンサルティング会社トライポート(東京都新宿区)は5月中旬から、中途採用の募集をしたところ、5人の募集枠に約610人が殺到した。倍率100倍を超え、募集を急きょ止めたほどだった。
「場所や時間に制約されない働き方へのニーズが高まっている」(リモート経済)
自らも沖縄県那覇市に住みながらテレワークする岡本秀興社長は、パソコンの画面越しにこう答えた。背後の窓からは、沖縄の強い日差しがのぞいていた。
知名度の低いベンチャー企業でも優秀な人材を集める方法を考え、会社を設立した2014年当初から「全社員テレワーク」を実施。全国各地に点在する社員は約30人で、うち約5割は育児中の女性だ。
在宅でも「声かけOK」「対応不可」などと各社員の状況が一覧で分かるシステムを作ったり、ウェブ会議上で雑談の場を設けたり、月1回は全社員が実際に顔を合わせる機会を作るなど独自の工夫をこらす。「テレワークは導入しやすい半面、そのストレスをいかに軽減し、生産性を向上させるかがカギ」(岡本社長)と言う。
コロナ禍によって、テレワークをはじめとする社会のデジタル化が不可逆的に加速している。
パーソル総合研究所が緊急事態宣言解除後の5月29日~6月2日に全国の就業者(20~59歳)約2万人を対象に実施した調査によると、テレワークの実施率は全国平均で25・7%で、7都府県に緊急事態宣言が出された後の4月中旬の前回調査から2・2ポイント減った。
一方で、テレワーク継続希望率は69・4%に及び、前回調査の53・2%から大きく上昇した。実際、テレワークしやすい職種では前回よりもテレワーク実施率が上がっており、「コンサルタント」では74・8%にも及んでいる。
実際、緊急事態宣言後もテレワーク継続を表明する企業が相次いでいる。キリンホールディングスは6月以降、出社人数の上限を3割までに制限すると発表。ソフトバンクも6月1日から、在宅勤務やサテライトオフィスの活用、外出先への直行・直帰を組み合わせ、1日当たりの出社率を5割以下にする。GMOインターネットグループは6月以降、在宅勤務を週1~3日を目安としてグループ全体の4割をテレワークとする方針を打ち出した。
広がる「オフィス縮小」
テレワークの浸透とともに、オフィスのあり方も変わりつつある。東京都心では、オフィスを解約・縮小する動きがスタートアップを中心に広がっている。
スタートアップのオフィス移転を仲介するヒトカラメディア(目黒区)によると、コロナ前はオフィスの「拡張移転」の案件が9割以上だったが、コロナ流行後の4~5月の約2カ月で仲介した約100件のうち約9割は「縮小移転」の案件だった。全員がテレワークで働く体制にしてオフィスを完全に引き払った会社もあるという。
内装を次の入居者に引き継いで原状回復費用を抑える「居抜き退去」の相談も、コロナ前には月1~2件だったのが、4月からの約2カ月半で約50件に急増した。
空きスペースの時間貸し仲介をするスペースマーケット(新宿区)は4月末から、在宅勤務で余ったスペースを貸し出したい企業と、そこに「間借り」したい企業をつなぐサービスを始めた。重松大輔社長は「オフィスのあり方が、常に全員が集まる場所から、必要な時だけ集まる『フレキシブルなオフィス』に変わっていくのではないか」と見る。
オフィスを解約するには数カ月~1年前までに通告するのが通例で、実際に影響が出るのは今秋以降と予想される。オフィスビル総合研究所は、東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス空室率が2020年1~3月期の0・6%から、1年後の21年1~3月期は4・3%、3年後の23年1~3月期には4・8%まで上昇すると見込む(図1)。
もともと、虎ノ門や麻布台地区など都心の大規模再開発で大量供給が見込まれていた中で、「コロナショックによる景況悪化でオフィス増床計画の凍結や解約の増加が見込まれる」(今関豊和代表)ためだ。
他方で今関代表は「当面は出社人数を絞って1人当たりのオフィス面積を大きく取る動きが出る一方、満員電車に乗らずに自宅近くのサテライトオフィスで仕事をするニーズが増えていくだろう」と見る。これまで、都心部の立地が中心だったサテライトオフィスが、都市近郊にシフトすると予測する。
デジタル競争力23位
コロナで急速にデジタル化が加速する一方、世界の中で日本は出遅れている。コロナ禍では全国民に一律10万円を支給する給付金や、雇用調整助成金でもオンライン申請で不具合が続発した。
スイスのビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)が統計と企業アンケートから作成した「世界デジタル競争力ランキング」(2019年版)では対象63カ国・地域中、日本は23位だった。1位は米国、2位はシンガポールで、アジアでは日本は韓国(10位)や台湾(13位)、中国(22位)に後れを取っている(図2)。
国際競争力の調査に詳しい三菱総合研究所の酒井博司主席研究員は「アフターコロナで市場環境が大きく変わる中、このままデジタル対応が遅れたままでは市場変化への対応が遅れる日本の弱みがさらに顕在化し、日本の競争力は相対的に下がっていく可能性が高い」と警鐘を鳴らす。
加速するデジタル化の波に日本経済は乗りきれるのか。この変化にうまく対応できるかが、アフターコロナのビジネスの先行きを左右しそうだ。
(岡田英・編集部)
(本誌初出 オンライン化が急加速 “新常態”下の生存戦略=岡田英 2020・6・30)