経済・企業20200707更新【週刊エコノミストOnline】

なぜ「脱ハンコ」は進まないのか 時代遅れの「電子署名法」=岡田英

    押印による出社はなくなるか(Bloomberg)
    押印による出社はなくなるか(Bloomberg)

     原則全ての契約に電子契約を導入します──。無料通信アプリのLINE(東京都新宿区)は5月から、法律で必要な場合を除いて原則、書面での契約を廃止し、取引先に対しても電子契約を依頼すると表明した。

    広がる「全社導入」

     こうした「脱ハンコ」宣言が続いている。押印作業が、新型コロナウイルス対策として浸透するテレワークの障害になっているからだ。フリマアプリのメルカリ(港区)も4月、社外契約における押印を原則廃止し、電子署名などに切り替えた。ヤフーやGMOインターネットも取引先との契約を電子化すると発表。こうしたIT企業の多くはこれまでも取引先との電子契約を一部導入してきたが、新型コロナで「全社導入」を原則とし、取引先にも電子化を求める流れが強まっている。

     電子契約は、当事者同士がインターネット上で契約書をやりとりする。暗号化技術を使った「電子署名」と、契約の合意日時を記録する「タイムスタンプ」を組み合わせて改ざんを防ぐ仕組みだ。

    (出所)編集部作成
    (出所)編集部作成

     先行して市場を広げたのは弁護士ドットコム。2015年10月にスタートさせた「クラウドサイン」で、契約書をネット上のクラウドにアップロードし、取引先が承認するだけで契約を結ぶことができる(図)。取引先がクラウドサインに登録しなくても手続きできる手軽さがうけ、18年ごろから導入企業数が急増し、市場が拡大した。

     ITコンサルティング・調査会社のITRによると2019年8~9月に実施したアンケート調査では、電子契約を導入済みの企業は有効回答の26%で、導入予定の企業も25%だった。今年4月に行った新型コロナの影響調査では、電子契約などの「社外取引文書の電子化拡大」を実施済みの企業は36%、実施予定の企業も36%に上り、約7割の企業が実施もしくは実施予定と答えた。ITRの三浦竜樹シニア・アナリストは「予想した以上に導入が進んでいる。既に導入済みでも追加投資する企業もあり、今後さらに広がるだろう」と見る。

     ただ、電子契約の普及には課題もある。一つは、印鑑を前提にした商習慣が根強く、取引先が電子契約を受け入れないことだ。取引によっては契約手続きに「紙とハンコ」を義務づけている場合もある。例えば、宅地建物取引業法は取引時の重要事項説明書は紙で交付すると定めている。

     もう一つは、現行の電子署名法には、普及が広がっているクラウドを使った電子署名による契約を認める明確な規定がないことだ。同法の施行は01年で、当時はクラウドを使った電子署名を想定していなかったと見られる。

     政府は4月以降、民間同士の契約や行政手続きにおける押印や書面提出といった慣行の見直しを規制改革推進会議で検討。5月18日には「クラウド技術を活用した電子署名の取り扱いが不明確であるなど使い勝手の改善の余地があり、早急の見直しが必要」との提言をまとめた。

     企業で働く弁護士で作る日本組織内弁護士協会(JILA)の榊原美紀理事長は「20年前に作られた電子署名法が今の時代に合っていない。クラウド型の電子署名も明確に含めた形に改正することが、『脱ハンコ』に向けた風穴になる」と指摘する。

     企業や組織が電子契約に移行しやすい環境をどう整えるか。法整備と商慣習の双方で変革が求められている。

    (岡田英・編集部)

    (本誌初出 電子契約 「時代遅れ」の電子署名法 “脱ハンコ”の壁に=岡田英 2020・6・30)

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