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「需要減少」「デフレの深刻化」「格差拡大」コロナ後の世界は「日本化」する=永浜利広(第一生命経済研究所首席エコノミスト)

外食への影響は大きい(Bloomberg)
外食への影響は大きい(Bloomberg)

 不要不急の外出自粛やテレワークなど、新型コロナウイルスの流行長期化を見据えた生活様式のニューノーマル(新常態)。その下では、テレワークのような新たな需要が生まれるものの、交通・外食・宿泊といった人の移動を伴う需要が消失する影響の方が大きいだろう。

 実際、緊急事態宣言発出前となる3月の家計調査を見ても、消費支出の実質押し上げに寄与した費目としては、「3密」を回避するための移動手段となる「自動車等関係費」の前年比0・7ポイント増、テレワークや通販などの需要増に伴う「通信」が同0・4ポイント増、外出自粛に伴う内食需要の増加で「肉類」が同0・3ポイント増、「穀類」が同0・2ポイント増となっている。

需要不足は40兆円超

 一方、押し下げに寄与した費目を見ると、国内パック旅行費や宿泊料の減少に伴う「教養娯楽サービス」が同2・0ポイント減、宴席などの減少に伴う「外食」が同1・6ポイント減、外出自粛に伴う「交際費」が同1・3ポイント減、鉄道・航空運賃を含む「交通」が同1・2ポイント減と、押し下げ項目の寄与が圧倒的に大きく、結果として3月の実質消費支出は前年比6・0%の減少となっている。

 こうした中、政府や各自治体もデジタル化に関連する補助金や助成金制度を打ち出している。パーソル総合研究所が4月10~12日に実施した調査では、テレワークの実施率は27・9%で、推奨・命令している勤務先の割合で見れば40・7%を占める。そこで、テレワークの平均的コストを基に、推奨・命令の勤務先全てで普及すると仮定すれば、テレワーク普及に伴って約1・8兆円の国内総生産(GDP)押し上げ効果が期待される。

(注)四半期ごとのGDPギャップの推移。2020年4~6月以降は日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」(20年5月)を基に予測 (出所)内閣府、ESPフォーキャスト調査より筆者作成
(注)四半期ごとのGDPギャップの推移。2020年4~6月以降は日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」(20年5月)を基に予測 (出所)内閣府、ESPフォーキャスト調査より筆者作成

 しかし、こうした特需を加味しても、5月時点の民間エコノミストのGDP予測を集計した日本経済研究センターの「ESPフォーキャスト調査」によれば、実質GDPは予測終期の2022年1~3月期時点でもコロナショック前の19年末の水準まで戻らないことがコンセンサスとなっている。そして、この予測を基に日本経済の需要と供給の差を示す需給ギャップ(GDPギャップ)を算出すると、20年4~6月時点でリーマン・ショック時の最大年換算30兆円超を上回る40兆円超、21年度末でも20兆円の需要不足が見込まれる(図)。

 需給ギャップが大きい状況下では、デジタル化はデフレギャップをさらに拡大させる可能性があることには注意が必要だ。というのも、デジタル化は人の移動を伴う需要を奪うからだ。ミクロ的な企業経営の観点ではデジタル化は生産性向上につながっても、交通や外食、宿泊関連産業の需要や雇用者報酬などをそぐ可能性があり、マクロ的にはただでさえコロナショックで大幅な拡大が予想されるデフレギャップをさらに大きくしてデフレ圧力を増幅しかねない。

 新常態の下ではデジタル化推進による生産性向上は不可避だが、それをマクロ的にプラスに作用させるためには、それ相応の生活保障や需要喚起によって需要不足を埋める必要があるだろう。

 最大の需要喚起策は、感染リスクの軽減である。したがって、ワクチンや特効薬が普及するまでは、民間部門のリスク回避傾向はより強まる可能性が高い。

 一方で、生活保障や社会保障に関連する財政負担は増加を余儀なくされるものの、民間部門のリスク回避は過剰貯蓄状態をより深刻化させるため、資金需給で決まる中立金利の低下を通じて低金利は長期化することになろう。

 結果としてデフレギャップ拡大やデジタル化に伴う低インフレ、過剰貯蓄に伴う低金利、低成長の「日本化」が世界的に起こる可能性がある。特にバブル崩壊以降、世界に先んじて長期停滞に陥っている日本では、コロナショックをきっかけにデフレが深刻化すれば「失われた30年」が40、50年になる可能性もあろう。

未婚率上昇も

 新型コロナの感染リスクを回避するためにデジタル化へのシフトが一気に進み、働き方が大きく見直されると、会社に出勤しなくてもできる仕事が浮き彫りになろう。こうしたことから、成果主義的な評価体系が進むことになり、デジタル格差はさらに進むものと予想される。

 中でも、中高年の正社員のリストラ圧力がさらに増す可能性がある。というのも、新常態下ではITツールの利用やテレワークによるウェブ会議などが必須となる。こうなると、デジタル化の流れについていけない中高年の働く場所は確保しにくくなろう。

 加えて、来年4月から70歳定年制が導入される。このため、既に企業はコロナショック前の昨年から、70歳定年制導入前にシニア人材を整理すべく、早期・希望退職の募集が急増していた。コロナ後はさらにその動きが加速することになろう。

 また、コロナショックを受けて、人の移動が抑制されることにより、新常態下では産業構造の変化が不可避となろう。そうなると、経済成長には労働市場の流動性が大きくかかわってくることになるが、残念ながら日本の労働市場の流動性は低い。

 その根本にあるのが、新卒一括採用、年功序列、定年制を象徴とした、同じ会社で長く働けば長く働くほど恩恵が受けやすいという就業構造がある。この部分を段階的に変えていかなければ、経済構造の転換期の対応に後れを取ることになろう。そういう意味では、雇用維持策だけでなく、業態転換しやすい規制緩和やデジタル化に対応できるような就業支援の重要性が増してくるだろう。

 また、デジタル化で所得格差の拡大が固定化されやすくなるだろう。特に、若年層での所得格差の固定化は家族形成にも影響を与える可能性がある。実際、厚生労働省の調査では、男性は正規労働者に比べて非正規労働者の未婚率が高い。こうした状況下でコロナが長期化すれば、若年層の雇用不安定化に加えてデジタル化に伴う人の接触低下により、未婚率がさらに上昇して少子化が加速し、長期的なダメージが大きくなることも懸念されよう。

(永浜利広・第一生命経済研究所首席エコノミスト)

(本誌初出 “新常態”下のマクロ経済 デジタル化がデフレ圧力増幅も 世界で深刻化する「日本化」=永浜利広 2020・6・30)

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