経済・企業20200707更新【週刊エコノミストOnline】

「日本型雇用ではもう回らない」日立がジョブ型人事制度へ移行する理由=中畑英信(日立製作所代表執行役専務)

     <INTERVIEW>

     グローバル市場での成長へ巨艦・日立製作所が日本型雇用に終止符を打つ。その狙いを聞いた。

    (聞き手=浜田健太郎/岡田英・編集部)

    ── 「2021年4月に在宅勤務の活用を標準とする働き方の正式適用」と5月に発表した狙いは。

    ■在宅勤務化が最終目的ではなく、職務内容を明確に定めて達成度合いを評価する「ジョブ型」の人事管理制度を加速させるのが狙いだ。日立は08年度に7873億円の巨額赤字を計上した。電力や鉄道など国内大企業向けに機器を納入する古いビジネスモデルでは立ち行かず、グローバル市場に打って出ていくしかないと経営陣が認識した。そのためには国籍や性別、年齢など多様な人材が必要になり、人事システムを世界で通用する制度に変えていく必要があるとの考えが背景にある。

    ── 日本型の雇用システムでは業務が遂行できなくなったのか。

    ■日立グループには約30万人の従業員がいて、16万人が日本で、14万人が海外で働いている。私が統括するグローバル人事部門は57人が在籍し、17人は外国人で15人は欧米で働いている。世界中に散らばった仲間たちが協業するには、場所や時間を超えた働き方を取り入れないといけないし、職責や業績評価の基準を世界共通にする必要がある。そうなると、日本で主流の「メンバーシップ型(終身雇用を前提に個々の従業員の業務を細かく定めず、幅広い職種を体験させる雇用形態)」とはどうしても相いれない。

    ── 在宅勤務制度は以前からか。

    ■米国のIT子会社の日立ヴァンタラでは、だいたい6割が在宅勤務をしている。ほとんど毎日在宅という人も2~3割はいる。日立は、在宅勤務制度は以前から導入していた。所属長に口頭で伝えればよく日数制限もない柔軟な制度だが、週1度くらい利用する人が全体の5%程度だった。

    ── 在宅勤務を取り入れて、社員の生産性は上がったのか。

    ■5月に社内調査を行い、6割から7割の社員は「業務効率が上がった」と回答している。通勤時間が生じない、自分のペースで仕事ができるので集中できるといったメリットに加えて、役割分担が明確になったとの回答もあった。これはジョブ型に適合した状況だ。一方で、3割から4割は効率が下がったと回答した。なぜかと聞くとWi-Fiなど自宅のIT環境を挙げる回答が多く、次に対面でコミュニケーションが取れないこと、部下の状況を把握しづらいという声も聞かれた。そうした課題は対応可能だ。

    労組も前向き

    ── 日本企業はホワイトカラーの生産性が低いことが指摘されたが、在宅勤務で改善されるのか。

    ■その手応えはある。在宅勤務をこなしていくには、ジョブディスクリプション(職務記述書)が必要だ。当社は14年から課長級以上にジョブ型雇用を導入しているが、もしメンバーシップ型を残していたら、部長たちは在宅勤務で何ができただろうか。職務を明確にしておかないと各部長は在宅勤務の環境で社業に貢献することは難しかっただろう。それが今回、実感を伴って理解されたと思う。

    ── ジョブ型雇用を一般社員にも対象を広げていくとなると、仕組み作りに労力を割くことになるか。

    ■国内で約16万人の従業員うちの約10万人が労働組合員だ。全世界で30万人のうち10万人が日本の組合員なので、処遇をどうするのかが非常に大きなテーマではある。どうしてジョブ型に移行するのか、納得してもらうことが重要だ。組合とは3年前から議論を始めており、ジョブ型がなぜ必要なのかだんだんと理解を得ていると思う。

    ── 組合側の抵抗はなかったのか。

    ■「ジョブ型にすると日本型雇用の良さが失われる」との意見もあった。「日本の良さとは」と聞くと、たいていは「チームワーク、忠誠心、中長期の人材育成」と回答が返ってくるので、「それは本当か」と聞き返している。私の部下には米国人もいてジョブ型雇用で働いているが、チームワークにはまったく問題はないし、職務を決めてもそこから仕事を広げようとする。広げた仕事に対して成果を評価するよう訴えてくる。

    ── 労組側は、ジョブ型へ前向きに交渉する合意は取れているのか。

    ■そう思っている。「多様な人材が能力を十分に発揮することにおいてジョブ型が重要だと認識した」というのが組合側の言い分だ。

    ── 顧客や取引先との関係で、在宅勤務が難しい職場もあるのでは。

    ■生産現場、銀行や地方自治体など顧客の職場に常駐するシステムエンジニア(SE)、エレベーターの保守といった、在宅勤務に切り替えられない従業員が日立には15%くらいいる。ただ、SEについては、顧客先に常駐が必要なければ引き揚げるような提案をしていく。生産現場も自動化や無人化が進んでいくと思う。

    中畑秀信(日立製作所代表執行役専務)
    中畑秀信(日立製作所代表執行役専務)

     ■人物略歴

    なかはた・ひでのぶ

     1961年生まれ。83年4月日立製作所入社。2014年4月執行役常務を経て18年4月から現職。

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