週刊エコノミスト Online20200707更新【週刊エコノミストOnline】

「スライムやミミズでできている」マクドナルドは「デマの大炎上」をどう乗り切ったのか=松本健太郎×足立光

    特別対談『人は悪魔に熱狂する』(ゲスト:足立 光 / 元・日本マクドナルド株式会社 上級執行役員・マーケティング本部長)

    人はなぜ「悪いこと」に熱狂し、「キレイごと」を嫌うのか? 非合理的な人間を研究する「行動経済学」と「マクドナルドのマーケティング」との接点を語る。

    松本健太郎(以下、松本) 早速ですが、足立光さんの『劇薬の仕事術』という本のなかで、2015年時代のマクドナルドの話がとても興味深いと思いました。

    2014〜2015年ごろに発生した不祥事の影響で、そのころはマクドナルドの品質についての報道がかなり多かった記憶があります。

    その影響で2015年1月の売上は、前年比で約4割ダウンという状況でした。

    そんな中でマクドナルドに行くのは、なんかちょっと格好悪いという雰囲気があったほどです。

    こういった逆風下での仕事のやりづらさはどれほどだったのか、まず足立さんからお話しいただければと思います。

    足立光(以下、足立) 実は私が入社したのは2015年の10月で、2014年~2015年は消費者という立場からマクドナルドと接していました。

    入社すると決まったのが7月くらいでした。

    入社するまでマクドナルドについて調べていたのですが、まあ罵詈雑言しか出てこないわけです(笑)。

    罵詈雑言って実は何種類かあって、一つは単純に個人の悪口です。全く事実に基づかない誹謗中傷ですね。

    「肉がスライムでできている」とか「ミミズでできている」とかですね。ちなみにミミズの肉は高いので、あんなに安く提供できないのですが(笑)

    松本 そうなんですか!(笑)

    足立 そうなんですよ。

    まあそれは置いといて(笑)、2つ目は、色んなメディアが叩くんですよ。

    当時は「日本人の7割はもうマクドナルドに行かない」というような報道があちこちで出ていました。

    みんなが思っていることに乗っていくのがメディアなので仕方ないのですが、そういう「弱ってる者をさらに叩く」的な記事がたくさんありました。

    3つ目は、何か変更すると叩かれる。仮にそれがビジネス的には正しい施策や変更だったとしても、ネガティブに報道されたり炎上していました。

    これらが渦巻いていて、僕が入る前は「マクドナルド」と検索すると悪い記事が死ぬほど出てきた、というのが当時の状況でした。

    そうすると、みんななんとなく行かない。

    これを「同調バイアス」と言いますが、「なんとなくマクドナルドに行くのが格好悪い」というのが当時の雰囲気だったと思います。

    松本 僕自身もそうなのですが、こういう同調バイアスによって「みんなが叩いているから私も叩く」という空気感だったのが特徴的だなと思います。

    「マクドナルドに行くのは格好悪い」社会の空気をどうやって変えたか

    松本 話を進めますと、同調バイアスがさらに強くなると「センメルヴェイス反射」という現象が起きます。

    簡単にいうと、自分と違う意見すら受け入れようとしなくなるんですよ。

    つまり「マクドナルドってなんか雰囲気悪いよね」「マクドナルドに子供を連れて行くって微妙だよね」みたいな空気が強くなって。

    挙げ句の果てに「マクドナルドに子供を連れて行くなんて信じられない!」という強いリアクションに変わっていってしまうんですね。

    書籍「劇薬の仕事術」の中で足立さんが書かれていましたが、こういう状況を変えるには、「たくさんの方にもう一度マクドナルドに来ていただけるようにすればいい」という内容を書籍で拝見して、すごいことだなと思いました。

    「社会の空気を入れ替えてバイアスを壊そう」という、かなり壮大な計画だったなと僕自身は読んでいて思いました。

    そこに行きつくまでにどういう考えがあったのか、改めて教えていただけますか?

    足立 最初から、そこを狙っていました。

    実際、ほとんどの方は何か特別な理由があってマクドナルドに行くわけではないんですよ。

    先ほど松本さんもおっしゃっていましたけれども、みなさん「なんとなく」選択をしているはずです。

    今日の夜のおかずを選ぶときに、スーパーに行ってアジかトロかどっちにするかって、結局「なんとなく」選びますよね。

    松本 おっしゃる通りです。

    足立 商品やサービスは、「目的」型と「衝動」型の二つに別れると思うんですね。

    外食でいうと、「行ってみたかったあのフレンチ」というのは2ヵ月前くらいからちゃんと予約して行くじゃないですか。

    それは「そこに行きたいから」という明確な理由がありますよね。これが「目的」型です。

    しかしマクドナルドを含め、たぶんほとんどの外食は「なんとなく行く」という感じですよね。

    郊外の人が車を運転していて、国道沿いにあった店にフッと入る。

    オフィスのエレベーターを降りながら、「今日のお昼はどこで食べようか~」なんて話しながらフッと入る。こういう感じですよね。

    これが「衝動」型です。「なんとなく」選択をしているわけです。

    ということは、この「なんとなく」を変えないと何の変化もない。

    なぜかというと、マクドナルドの場合はターゲットがあると言えばあるのですが、ないと言えばないんです。

    マクドナルドには98%の方々はもうすでに過去に1回は行ったことがあるわけです。

    松本 ほとんどの人がいったことがありますよね。

    足立 ということは、全く初めてという方は、ほぼいないんですね。

    お客様の来店頻度を上げることが重要なわけです。しかも相手が全国民なんですよね。

    そうすると「なんとなく」の空気感を変えないと、大きな変化は生まれないだろうというのが最初に出した仮説でした。

    それができると思って入ったわけではないというのが正直なところです。

    僕は過去10年間で9人目のマーケティング責任者だったんですよ。ということは上手くいかなかったら1年でいなくなるということですよね。

    まあ仮に上手くいかなくても僕のせいじゃないやと思って(笑)

    「話題性」がなければ商品は買われない

    松本 ここでちょっと意地の悪い質問をさせていただきたいのですが、足立さんが「ポジティブな空気に変えていこうよ」と言ったときに、社内で「人の噂も75日って言うし、何もしない方がいいでしょ」という意見はあったのか、お伺いしたいです。

    足立 まず、「空気感を変えていきましょう」という話は誰にもしていません。

    松本 へえ、そうなんですね。

    足立 ごく近しい人か、コンサルの時に親しかった人にしか話していませんでした。

    どこの馬の骨ともわからない人がいきなり入ってきて、いきなり「空気を変えましょう」と言っても、誰も信用してくれないし、誰もサポートしてくれないじゃないですか。

    なので、そういう狙いはありましたが、話はしていませんでした。

    ただ、空気を変えるための新しい戦略を入社3ヵ月くらいにはいくつか打ち出していて。

    「期間限定品だけではなくて、レギュラー品を打ち出そう」とか「話題化しましょう」とかそういう話はしましたし、そういう施策を矢継ぎ早に打っていきました。

    それこそまさにやりたかったことで。それまでマクドナルドでは「期間限定品しか売れない」と考えられていたんですよ。

    当時、期間限定品の売上は全体の3割くらいしかなかったですので、それをどんなに売っても、全体としては大した売上増にならないんです。

    かつ、期間限定品って毎月出すので、今月は良くても来月も売上がいい保証が全くないですよね。

    また、期間限定品の多くは日本で調達して日本で作っているので、グローバルで資材を調達している商品よりも収益性が良くないんです。

    一生懸命に期間限定品を売れば売るほど全体の収益が下がっていくという謎の構図ができていたので、これは変えなくちゃいけないと思っていました。

    あと「話題化する」と言いましたが、今これだけモノであふれているじゃないですか。

    たぶんどんな商品やサービスもわざわざ買う理由がほとんどないんですね。ということは、話題にならないと買わないわけです。

    だからこれに関しては特に反対意見はなかったですね。

    松本 なるほど、そうなんですね。ありがとうございます。

    (初出 PENCIL by Schoo https://pencil.schoo.jp/

    松本健太郎(まつもと・けんたろう)

    1984年生まれ。データサイエンティスト。

    龍谷大学法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で統計学・データサイエンスを〝学び直し〟。デジタルマーケティングや消費者インサイトの分析業務を中心にさまざまなデータ分析を担当するほか、日経ビジネスオンライン、ITmedia、週刊東洋経済など各種媒体にAI・データサイエンス・マーケティングに関する記事を執筆、テレビ番組の企画出演も多数。SNSを通じた情報発信には定評があり、noteで活躍しているオピニオンリーダーの知見をシェアする「日経COMEMO」メンバーとしても活躍中。

    2020年7月に新刊『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(毎日新聞出版)を刊行予定。

    著書に『データサイエンス「超」入門』(毎日新聞出版)『誤解だらけの人工知能』『なぜ「つい買ってしまう」のか』(光文社新書) 『グラフをつくる前に読む本』(技術評論社)など多数。

    足立光(あだち・ひかる)

    ナイアンティック シニアディレクター プロダクトマーケティング(APAC)。P&Gジャパン、シュワルツコフ ヘンケル社長·会長、ワールド執行役員などを経て、2015年から日本マクドナルドにて上級執行役員·マーケティング本部長としてV字回復をけん引。18年9月より現職。I-neの社外取締役、ローランド·ベルガーやスマートニュースのアドバイザーも兼任。著書に「圧倒的な成果を生み出す『劇薬』の仕事術」、「『300億円』赤字だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密」。訳書に「P&Gウェイ」「マーケティング·ゲーム」など。オンラインサロン「無双塾」主催。

    『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ圧倒的な成果を生み出す「劇薬」の仕事術』

    https://www.amazon.co.jp//dp/4478106568

    『「300億円赤字」だったマックを六本木バーの店長がV字回復させた秘密』

    https://www.amazon.co.jp//dp/4866211997

    オンラインサロン「無双塾」

    https://salon-de-ray.agenda-note.com/

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