経済・企業 ビジネスに効くデータサイエンス
コロナで露呈 日本式「みんなで考えよう」はなぜいつも失敗するのか=松本健太郎(データサイエンティスト&マーケター)
日本にはもっと社会心理学が必要
コロナウイルスの対策、経済対策などなど、政治を巡る議論はおうおうにして、「政治家の人間ドラマ」であったり、あるいは逆に専門家による「経済学上これが常識」「疫学上これしか方法はない」という独善であったりします。
そうした人々が話し合った結果として、よく言えば「玉虫色」悪い言えば「関係者全員が不満などっちつかずの愚策」を決定してしまうことがあります。
偉い人、専門家が多数集まって議論しているはずが、なぜそうした「誤った意思決定」を下してしまうのでしょうか。
それは、意思決定においてある観点を見落としているからです。
その観点とは、社会心理学、特にグループシンク(集団浅慮)の観点です。
グループシンクとは、簡単に言えば「合意に至ろうとするプレッシャーから、集団において物事を多様な視点から批判的に評価する能力が欠落する傾向」を指しています。
例えば東日本大震災における一連の対応はグループシンクの罠に陥っていたのではないかと言われています。
グループシンクとは、1972年に社会心理学者のアーヴィング・ジャニスが提唱した概念です。
グループシンクには8つの症状があると言われています。
症状1:自分たちは絶対に大丈夫という楽観的な幻想
「アベノミクスで景気は良くなったことになっているのだから、消費増税で景気が腰折れするわけがない」
症状2:外部からの警告を軽視し、自分たちの前提を再考しようとしない
「リーマン・ショック級の出来事が生じない限り、予定通り実施する(菅官房長官)」
症状5:異議をとなえることへの圧力
「萩生田は何様のつもりだ!」
症状6:疑問をとなえることへの自己抑制
「萩生田発言は「個人の見解」(菅官房長官)」
症状7:全員一致の幻想
「自民党全体がそう考えている」
症状8:集団の合意を覆す情報から目をつぶる
「景気動向指数に基づく基調判断は「それはそれなりのあれ」」(麻生大臣)
これらの症状は、以下のような結果をもたらすとジャニスは警告しています。
結果1:代替手段が十分に検討されない
結果2:目標が十分に吟味されない
結果5:情報収集が不十分
結果6:手元にある情報を偏見に基づいて分析する
結果7:うまくいかなかった時の二の矢、三の矢があらかじめ検討されない
結果8:最終的に成功確率が低下する
政治家、官僚が揃いも揃ってグループシンクに陥り、議論ができていない。なぜ異論を唱えてはいけないのか。なぜ情報から目をつぶるのか。この現状こそマスコミは報道すべきではないでしょうか?
松本健太郎(まつもと・けんたろう)
1984年生まれ。データサイエンティスト。
龍谷大学法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で統計学・データサイエンスを〝学び直し〟。デジタルマーケティングや消費者インサイトの分析業務を中心にさまざまなデータ分析を担当するほか、日経ビジネスオンライン、ITmedia、週刊東洋経済など各種媒体にAI・データサイエンス・マーケティングに関する記事を執筆、テレビ番組の企画出演も多数。SNSを通じた情報発信には定評があり、noteで活躍しているオピニオンリーダーの知見をシェアする「日経COMEMO」メンバーとしても活躍中。
2020年7月に新刊『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(毎日新聞出版)を刊行予定。
著書に『データサイエンス「超」入門』(毎日新聞出版)『誤解だらけの人工知能』『なぜ「つい買ってしまう」のか』(光文社新書) 『グラフをつくる前に読む本』(技術評論社)など多数。