経済・企業コロナで泣く企業

「映画」「不動産」に加え「自動車」が「コロナ第2波で壊滅」とAIが分析する理由=ゼノデータ・ラボ/編集部

映画事業は、すでに大きな影響が出ている (Bloomberg)
映画事業は、すでに大きな影響が出ている (Bloomberg)

 <AIが徹底分析 コロナ第2波で泣く企業>

 緊急事態宣言が5月25日に日本国内すべての地域で解除された。各都道府県で、商業施設やイベント事業などへの休業要請の緩和、企業における通常勤務への切り替えも始まっている。

 だが、感染リスクが収まったというわけではない。感染者の増加数を見ると、25日、それに先立ち39県で解除された14日前後に増加している。感染拡大の「第2波」が来る可能性もある。

 日本が新型コロナ第2波に襲われたとき、企業にどんな影響が出るのか。企業や経済の分析・将来予測サービスを提供するベンチャー企業ゼノデータ・ラボは、日本の主要企業について、第2波でコロナ禍が長期化した場合の影響度を調べた。

影響度をスコア化

 ゼノデータ・ラボでは、独自開発の経済予測AI(人工知能)、「ゼノブレイン」が国内外5000のメディアのニュースを収集。さらに自社が抱えるアナリストチームが、膨大なニュースと企業決算短信・企業リポートを関連付けることで、ある出来事が企業活動にどんな影響を及ぼすのかをスコアリング(数値化)する。日本から遠く離れた海外の経済現象でも、複雑な波及経路をたどって日本企業に影響を及ぼす場合も多い。つまり、ゼノブレインとアナリストたちは、いわゆる「風が吹けばおけやがもうかる」という因果関係を可視化することで、経済・企業の将来を予測する。

 今回は、2020年1〜3月に通期決算を発表した企業から、(1)現預金÷総資産が10%未満、(2)現預金÷売上高が25%未満(3カ月分の売上高)、(3)現預金が短期借入金よりも小さい──をいずれも満たし、コロナ禍で特に業績の悪化がリスク懸念される企業と、主な影響要因を挙げた(表)。

(注)2020年1~3月に通期決算を発表した企業から抜粋。影響シナリオはすべて日本におけるもの (出所)ゼノデータ・ラボ作成
(注)2020年1~3月に通期決算を発表した企業から抜粋。影響シナリオはすべて日本におけるもの (出所)ゼノデータ・ラボ作成

 ゼノデータ・ラボの関洋二郎社長は、「減益(マイナス)スコアの大きい企業は、利益によるキャッシュ獲得が難しいことを意味し、1年内に返済する短期借入金の返済のために、何かしらの資金調達が必要と考えられる企業。注意が必要な銘柄と言うことができる」と話す。

 スコアリング方法は、例えば、自動車企業A社について、(1)国内の新型コロナ感染拡大の影響で、(2)自動車の需要が減小、(3)自動車需要の減少から自動車部品の需要が減小へ──という報道があった場合、(1)から(2)、(2)から(3)の事象の因果関係の強さ((2)、(3)につながる確率の高さ)を「係数」として算出する。この方法で、さまざまな事象について、その間の係数を出していき、最終的に係数を掛け合わせた数値を、企業に及ぼす影響度(スコア)とし、増益・減益はそれぞれプラス・マイナスで示す。一つの事象から複数の影響シナリオにつながっていくこともある。

 スコアが最も高かったきんえいは、「映画館需要減」による影響スコアがマイナス90・0、「ゲームセンター需要減」がマイナス47・4となった。また、「テレワーク需要増」→「オフィス需要減」→「不動産賃貸需要減」の影響スコアがマイナス11・8となっている。オーエスも同様だ。

 映画やイベント事業を展開する企業は、すでに映画館の休館、イベントの開催中止などの対応を余儀なくされており、これまでの短期間の自粛でも、すでに大幅に利益減となっている企業もある。新型コロナ第2波は致命傷につながりかねない。

 影響シナリオの数として多いのは自動車関連だ。トヨタ自動車や日産車体、近畿車輌をはじめとし、多くの企業が浮上した。自動車・鉄道といった移動手段の需要減小が影響する。

 ゼノデータ・ラボの関社長は「今回、日産とホンダは、現預金を元にした三つの条件をわずかに外れたが、表に入っている可能性も十分にあった」と語っており、楽観できる状況にはない。

 また、海外の感染拡大影響までを含めたゼノデータ・ラボの分析では、トヨタ、日産、ホンダの各社は国内よりは海外でのコロナ禍拡大の影響を大きく受けることから、その情勢によっては決して安心できない。

 このほかにもアイビー化粧品は、スポーツを含む「イベント需要減」→「日焼け止め需要減」と、夏という時期も絡んだシナリオが浮かび上がった。

トヨタは医療に活路

 新型コロナ第2波で想定される影響シナリオを具体的に見ていく。特に市場の注目度が高いと思われるトヨタ、三井不動産、伊藤忠商事の3社について、それぞれの影響シナリオを一部抜粋した(図2〜4)。

(注)各項目の減少・増加・下落は国内における事象。三次元LiDARは、車や歩行者、建物などの距離や形状、位置関係を三次元で把握することが出きるセンサー。短期は3カ月以内、中期は1年以内に影響が出る可能性があることを示す (出所)ゼノデータ資料を基に編集部作成
(注)各項目の減少・増加・下落は国内における事象。三次元LiDARは、車や歩行者、建物などの距離や形状、位置関係を三次元で把握することが出きるセンサー。短期は3カ月以内、中期は1年以内に影響が出る可能性があることを示す (出所)ゼノデータ資料を基に編集部作成

 トヨタは「自動車需要の減少」「国内生産の減少」が大きな減益要因となる。一方で増益要因は「体温計需要」「人工呼吸器需要」「防護服需要」といった新規分野だ。

 トヨタは同社のサプライチェーンを生かして、衛生用品の調達支援に関する取り組みを進めている。また、医療用防護マスクの生産に乗り出すほか、トヨタ生産方式のノウハウを医療メーカーに提供するとしており、今後しばらくは医療方面での需要が柱の一つとなりそうだ。

 また、減益・増益両面のシナリオに「電池需要」がある。消費の落ち込みや外出の自粛から「スマートフォン需要減」「フィットネス需要減」→「ウエアラブル端末需要減」や「テレワーク需要増→「スマートフォン・携帯電話需要増」などのシナリオが浮かび上がり、電池の需要増減につながっている。スコアの絶対値を見ると「1未満」で要因としては決して大きくないが、合計値では減益要因となった。

(注)各項目の減少・増加・下落は国内における事象。短期は3カ月以内、中期は1年以内に影響が出る可能性があることを示す (出所)ゼノデータ資料を基に編集部作成
(注)各項目の減少・増加・下落は国内における事象。短期は3カ月以内、中期は1年以内に影響が出る可能性があることを示す (出所)ゼノデータ資料を基に編集部作成

 三井不動産は「テレワーク需要増」から、「オフィス需要減」→「オフィス賃料下落」が大きな減益要因となった。すでに緊急事態宣言は全国で解除されたが、今後もしばらくはテレワークを続ける企業も多いと思われ、中期にわたって影響が出る可能性がある。

 ホテル・商業施設の需要減での落ち込みも比較的大きな減益スコアとなっている、これは施設マネジメントの需要低下によるものだ。インバウンド関連の外食需要の減小も影響する。

 増益要因は「内食(家庭での食材調理)需要増」によって、「EC(ネット通販)利用が拡大」し、「物流センターの需要増」につながるというシナリオだ。しかし、「物流センター需要減」を起点とする減益シナリオもいくつか浮上し、影響大という結果が出た。

商社は資源が重し

 伊藤忠商事は、すべての要因が「資源」「繊維」関連だ。資源分野は電力や製造業、不動産、物流など、影響が出る範囲も大きい。影響シナリオは国内のみだが、他の国の資源需要に関する影響も少なからず受ける。新型コロナの感染拡大が完全に収まるまでは、楽観はできないだろう。

(注)各項目の減少・増加・下落は国内における事象。短期は3カ月以内、中期は1年以内に影響が出る可能性があることを示す (出所)ゼノデータ資料を基に編集部作成
(注)各項目の減少・増加・下落は国内における事象。短期は3カ月以内、中期は1年以内に影響が出る可能性があることを示す (出所)ゼノデータ資料を基に編集部作成

 繊維分野では、「テレワーク需要増・有効求人倍率低下」→「スーツ需要減」や「訪日外国人数減」→「衣料品需要減・かばん需要減」というシナリオが示された。

 ただ、同社が、トヨタや三井不動産と異なる点は、各シナリオのスコアが比較的小さい点。伊藤忠商事は以前から非資源分野の開拓に力を注いでおり、2019年度の最終利益の非資源分野率は75%に上る。これに対し、三菱商事は約60%で、スコアは伊藤忠商事よりも悪い。これは、商社にとって「資源だけに頼らない収益構造」の確立がポイントになることを示唆していると言える。

(ゼノデータ・ラボ/編集部)

(本誌初出 AIが撤退分析 コロナ第2波で泣く企業:厳しさ増す自動車・建設 映画・イベントは致命傷=ゼノデータ・ラボ/編集部 2020/6/9)

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