国際・政治 20200707更新【週刊エコノミストOnline】
「コロナで株価が上がる」のは異常ではない=ビル・マルドナド(HSBCグローバル・アセット・マネジメント アジア・太平洋地域CIO)
コロナ危機の実体経済への影響が顕在化し始め、第2波も懸念される一方で、日米の株価は堅調に推移する。この不可解な現象を聞いた。(聞き手=浜條元保・編集部)
――世界経済がコロナ危機前の水準に戻るのは、いつ頃と考えるか。
■不確実性の高まりは第二次世界大戦以来のものだろう。現時点で、いつコロナ危機前の水準に経済が回復するかの試算は不可能だ。コロナの感染拡大や第2波、ワクチンの開発時期など不透明なことが多すぎる。私の推測では、コロナ前に戻るには少なくとも2~3年はかかるだろう。ただ、日本については中国はじめほかの東アジアの国と同様に感染拡大が抑制されており、少し早い回復も期待できる。
焦点はESG
――コロナ危機に対して、世界各国が積極的な財政・金融政策を実施した。これをどう評価するか。
■大規模な財政・金融政策がなければ、景気後退はもっと深く、長期にわたっただろう。世界各国で実施している大規模な経済対策がなければ、財政赤字の急増や中央銀行のバランスシートの急拡大はなかったが、5~10年は厳しい状況が続いただろう。私は評価する。
――コロナ後のライフスタイルや価値観の変化が、投資家の行動を変えないか。
■多くの仕事がバーチャルでも可能なことがわかった。アナリストのリサーチもバーチャルでできる。こうした点では、投資行動が大きく変わるとは考えていないが、ESG(環境・社会・企業統治)にはより焦点があたるようになるだろう。特に注目されるのはEとSだ。
――実体経済が悪化し、企業が減益となるのとは裏腹に、日米を中心に株価が堅調だ。バブルが発生し始めているのではないか。
■よく受ける質問だが、私はバブルでもクレイジーでもないと考えている。世界経済は緩やかに回復するナイキ社のロゴのような「スウッシュ型」となるだろう。すると、企業利益の回復が期待できる。各国の政府支援が厚く、特に大企業を破綻させることはないだろうから、雇用が守られることも重要だ。雇用さえ維持され、感染が治れば、消費は戻る。
――世界の投資家は日本株をどう見ているのか。
■コロナ危機前の数年間、日本企業は株主還元を高め、ESGへの取り組みは世界的にみても先をいく存在だった。中長期的にリストラにも取り組むだろう。グローバルな観点から日本株への関心は高い。
香港問題は織り込み済み
――ところで、中長期的にはインフレを懸念するのはなぜか。むしろ、デフレリスクが高まらないか。
■日本にインフレの懸念は少ないだろう。少子高齢化、人口減少という特有の問題を抱えている。1人当たりGDPをみれば、日本は決して悪くない。仮に日本でインフレが進むと経済には大きな打撃だ。高齢化が進む日本では、貯蓄を取り崩して生活することになる。インフレは購買力をそいでしまう。短期的に起こるとは考えていないが、米国のような巨額財政支出による景気の押し上げが、インフレを加速させるリスクがある。その場合、政府・金融当局者は迅速な措置が必要になる。
――中国政府は香港で統制を強める「香港国家安全維持法」を成立させ、「1国2制度」を揺るがそうとしている。また、朝鮮半島にも地政学リスクが高まる中、中国や香港、韓国、台湾の株を推奨する理由は何か。
■こうした国や地域は産業化が進んでいる。バリュエーション(企業価値評価)が魅力的なことに加えて、コモディティー(商品市況)や原油への依存が低く、コロナ危機に対して経済面での、あるいは医療面での対応が優れている。香港と中国に関してはマーケットも織り込み済みであり、不確実性があることは確かだが、中国経済はいち早く立ち直りを見せており、その恩恵に香港や台湾、韓国はあずかれる。
【略歴】Bill.Maldonado 2011年からHSBCグローバル・アセット・マネジメントのアジア・太平洋地域CIOならびに株式運用部門グローバルCIOとして香港拠点に在籍、現在に至る。