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週刊エコノミスト Online 20200707更新【週刊エコノミストOnline】

マクドナルドはなぜコロナでも客単価を45%上昇させたのか?デジタルで生き残りをかけるサイゼ、串カツ田中、スシロー=加藤大樹・月刊『激流』副編集長

串カツ田中は「おうちで田中」(同社HPより)
串カツ田中は「おうちで田中」(同社HPより)

 外食業界ではデリバリーやテークアウトへの参入や、事業方針の見直しが始まっている。

 日本フードサービス協会が発表した、外食企業208社の5月の総売上高は、前年比で67・8%。外食業界は苦境に立たされている。そのような中、5月に既存店(13カ月以上開店している店舗)売上高前年比115・2%という驚異の数字をたたき出して話題となったのがマクドナルドだ。

 同社は緊急事態宣言を受け、4月29日から5月14日まで、全国の店舗で店内での飲食を中止する措置をとった。5月15日以降は段階的に店内での飲食を再開したが、東京を含む首都圏5県が飲食を再開したのは26日以降のことだ。

 にもかかわらず、同社がこれほど数字を伸ばせたのは、テークアウトやデリバリーの強化に長年取り組んできたためだ。郊外店の多くがドライブスルーに対応し、また自前のデリバリー事業には2010年に参入、「マックデリバリー」の名称で自前で配送を手掛けるほか、17年にはウーバーイーツとも提携している。

マックのデジタル技術

マクドナルドはデリバリーなどへの取り組みが功を奏した 『激流』編集部提供
マクドナルドはデリバリーなどへの取り組みが功を奏した 『激流』編集部提供

 さらにこれらのサービスの利便性を高めているのがデジタル技術だ。

 マクドナルドは自前のスマホアプリを開発しており、アプリ内でデリバリーでもテークアウトでも、注文が完結できる。テークアウトの場合、アプリで決済まで済ませると、注文情報が店舗のレジと同じような形でお店のキッチンに送信される。利用客は店でレジ待ちすることなく、スマホ上でじっくりメニューを見て選べるので、ストレスがない。タイミングさえ合えば、店舗に到着した時点で、すぐ商品を受け取ることもできるのだ。

 こうした取り組みが奏功し、5月は客数が前年比で2割も減ったが、ファミリー層など複数人数での注文が多くなり、客単価は45%も伸びた。もちろん、この前提には商品やマーケティングへの顧客の支持があるが、それをよりしっかりくみ取れるだけの体制が整っていたことが、他社以上に数字を伸ばした要因と言えよう。

ラーメンも“持ち帰り”

 これまでデリバリーやテークアウトを重要視してこなかったチェーン店も、今回のコロナ禍を受け、さまざまな対応に踏み切っている。

 ウーバーイーツと並ぶ2大デリバリー代行企業の出前館は、5~6月にかけて、くら寿司、びっくりドンキー、すしざんまい、ジョイフル、上島珈琲店、ロイヤルホスト、すき家などの大手チェーンと相次いで提携を発表した。

 これらのチェーン店が、デリバリー事業をいきなり自社で手掛けるのはハードルが高い。まずは出前館のような代行企業との提携で、どれほどニーズがあるのか様子を見るという思惑もあるのだろう。

外食のデジタル化「スマホオーダー」

 また、「自前のデジタル化でデリバリーやテークアウトの注文に対応したい」という外食企業のニーズに応えるIT企業も出てきている。その一社がショーケースギグで、外食企業のデジタル化に対応した「モバイルオーダープラットフォーム」を開発。2月には吉野家がそのサービスを活用した「スマホオーダー」を開始するなど、導入が広がっている。

スシローの「自宅手巻きセット」

 これらのインフラ整備に加え、メニューにも工夫を凝らす企業がある。例えばスシローは自宅でファミリーが楽しめるように、ネタ、しゃり(すし飯)、のりをセットにした「手巻きセット」を開発。また東京・池袋の麺屋宅二郎はテークアウト専門ラーメン店で、麺、具材、スープのセットに加え、野菜の量など4項目を客側がカスタマイズできることがウリだ。各社はあの手この手で、自宅ならではの外食の楽しみ方を提供している。

スシローは自宅で手巻きセット(同社HPより)
スシローは自宅で手巻きセット(同社HPより)

サイゼリヤの紙オーダー

 一方で、店内でいかに感染リスクを下げつつお客に来店してもらうかも大きな課題だ。たとえば、サイゼリヤではオーダーを紙への記入式にし、店員は紙に書かれた注文内容を確認するのみの接客対応を行っている。また取り扱い硬貨80%削減を目指し、メニュー価格を改定、価格の末尾を「00円」か「50円」に統一した。さらにキャッシュレスサービスの導入も決めている。

テイクアウトに乗り出したサイゼリヤ(同社HPより)
テイクアウトに乗り出したサイゼリヤ(同社HPより)

 コロナ禍で夜の客数が大きく減少している居酒屋チェーンでは、業態そのものを見直す動きが出てきている。塚田農場は居酒屋を定食屋にすることで、昼間利用の店にシフト。ワタミは居酒屋事業を縮小し、から揚げ専門店、焼き肉食べ放題などの業態を今後強化していくと発表している。

 また自社の名物商品を他業態やオンラインサイトで積極的に販売する企業もある。串カツ田中は、都内の食品スーパー、オオゼキやまいばすけっと、さらに食品宅配ECのオイシックス・ラ・大地のサイト上で串カツセットを販売するなど、販路拡大に努めている。

 6月以降は通勤、通学者が増え、徐々に日常モードへとシフトしつつある。店内で飲食するお客の数も増え、少しずつ逆風が弱まってきていることは確かだ。しかしながら、感染の第2波、第3波の懸念も拭いきれない。

 ウィズコロナで顧客の消費行動がどう変わっていくか。この先も各社の変化対応力が問われることになりそうだ。

(加藤大樹・月刊『激流』副編集長)

※この記事は7月6日発売号の特集「非接触ビジネス」の「マックは客単価45%上昇 業態そのものの見直しも」を加筆したものです。

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