コロナ下の勝ち組 「インダストリー4・0」のデジタル戦略「デジタルツイン」とは何か=ロレンツ・グランラート
コロナ禍で、ものづくりの現場でもデジタル化が加速している。「インダストリー4・0」を掲げ、この分野で先行するドイツの実例を専門家に聞いた。
(聞き手=稲留正英・編集部)(非接触ビジネス)
── ドイツにおける「ものづくりのデジタル化」とは。
■現実(フィジカル)空間と仮想(サイバー)空間をコンピューター上で融合する「サイバーフィジカルシステム」がベースとなる。その核となるのが、「デジタルツイン(双子)」だ。これは、IoT(モノのインターネット)センサーで得られたデータをAIが処理し、製品の開発、生産工程からサービスまでと、製品のライフサイクル全てを、コンピューターの仮想空間上に再現したものだ。
── どのようなものか。
■大別すると、3種類ある。一つ目の「デジタル製品ツイン」は、製品モデルを仮想空間で稼働させ、このデータにより、実際に生産する前の段階で製品を改善・改良する。二つ目の「デジタル工場ツイン」は、生産工程の設計からラインの監視、工程の改善までデジタルで行う。最後の「デジタルサービスツイン」は、実際に稼働中の製品からデータを得て、予防・予測メンテナンスを可能にする。
── どんな利点があるのか。
■「デジタル製品ツイン」は、製品のデザインだけでなく、温度・振動などの耐久性がシミュレーションできる。将来起こりうる問題も予見できるので、メンテナンスに有用だ。
「デジタル工場ツイン」は、製造装置、労働者、建物、素材を仮想空間上に再現するだけでなく、全てのサプライヤーとつながっている。そのため、特に、今回のようなコロナによる世界的な供給網の混乱には、機動的に対応できる。
「デジタルサービスツイン」では、顧客満足度を上げることが可能になる。
使用量に応じて課金
── 実例は。
■ドイツのMixaco社は、粉体塗装用の顔料や添加剤を混ぜる産業用ミキサーを製造している。最近ではミキサー本体を販売するのではなく、材料を混ぜた量に応じ、メンテナンス代も含めた料金を受け取る「使用量に応じた課金」モデルにビジネスを進化させている。ミキサーは製造ラインの前工程にあるので、不具合が生じると顧客のライン全部が止まってしまう。そこで、同社はデジタルツインを導入し、IoTセンサーで装置の温度、速度、電力消費量をリアルタイムで監視し、問題を事前に察知・回避することで安定した運用を担保している。
── デジタルツインの導入による生産性やコストの削減効果は。
■一般的に25%程度あると言われているが、産業領域によって異なる。デジタルツインの本質は、「製造業のサービス業化」にある。製造業は今後、自社製品の販売ではなく、製品が生み出す「機能」や「性能」を販売するビジネスモデルになっていく。その「機能」や「性能」を最適化するには、「デジタルツイン」によるシミュレーションや継続的なモニタリング、予測メンテナンスが不可欠になる。
── CONTACT Softwareはどういう会社か。
■1990年に独ブレーメンで創業し、製造業が開発や生産現場で使用するPLM/PDM(製品ライフサイクル/データ管理)ソフトを開発している。デジタルツインでは、三菱電機と提携し、同社の産業用ロボットを導入する顧客にソフトとシステムを提供している。Mixacoも当社のデジタルツインを採用している。それ以外にも、ホンダなどさまざまな日本メーカーとも取引がある。
(本誌初出 ロレンツ・グランラート CONTACT Software日本代表 「製造業のサービス業化」が進む 20200714)
■人物略歴
Lorenz Granrath
1961年ドイツ生まれ、90年独カールスルーエ工科大学卒業、94年スイス・ザンクトガレン大学で経営学博士号取得、95年ABBシュトッツコンタクトなどを経て、2001〜13年フラウンホーファー日本代表部代表。20年から現職。14年から産業技術総合研究所上席イノベーションコーディネータも務める。