サザンや辻井伸行の「オンラインコンサート」から「オンライン芸者」まで…「リモート化」に生き残りをかけるエンタメ業界=白鳥達哉
悲鳴を上げる娯楽業界が、オンラインのサービス提供にかじを切り始めた。これが、意外な需要を生んでいる。
典型的な「3密」であるコンサートや演劇などの娯楽業界は、入場規制や公演自体の中止で、コロナ禍の最も大きな受けている業界の一つだ。そうした中、打開策として、インターネットを使った配信サービスが急速に広まっている。<特集:非接触ビジネス>
国際的なピアニストの辻井伸行氏(31)は、6月7日以降の毎週日曜日に有料のオンライン・サロンコンサートを開催した。辻井氏は新型コロナの影響でリアルの場でのコンサートが不可能となったのをきっかけにユーチューブでの動画配信を開始した。これが大きな反響を呼んだことから、インターネットを通じたコンサートにも需要があるのではないかと考え、今回のオンライン・サロンコンサートが企画された。
辻井氏の通常時のコンサートは、会場規模が約2000人、チケット料金はソロコンサートの場合で7000~1万円に設定されている。今回のオンラインコンサートは、120人ほどの小規模のホールで開催され、チケットも1800円と安価だ。視聴者数は第1回が2500人、第2回が2700人、第3回が3700人と右肩上がりに増え、累計で約9000人と、通常時の規模を超える人数が視聴した。
東京・杉並在住の会社員、栗原秀幸さん(52)は、「辻井さんのファン。チケット代が1800円と非常に手軽だったので、3週連続で、生演奏を楽しみました。自宅でお酒を飲みながら、鑑賞できるのは新鮮」と話す。
辻井氏が所属するエイベックス・クラシックス・インターナショナルは、「コンサートホールの限られた客席に加えて、オンライン視聴してもらう方が増えることは、ビジネスとしても明らかにプラス。9月以降に社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)を保って再開を予定しているコンサートにつていは、すべてオンライン配信も実施していく」としている。
6月25日にはデビュー42周年を迎えたサザンオールスターズが、横浜アリーナでの無観客ライブをオンラインで配信。1日限りながら、チケット販売数は18万枚に上った。
「ミャンマー」のママも参加
お酒の場など、いわゆる“大人の娯楽”でもオンラインの取り組みが始まった。
全国のスナックのママと一緒にお酒を飲める「オンラインスナック横丁」は、代表の五十嵐真由子氏が、緊急事態宣言の発令後、全国のスナックのママから「この状況を乗り越える策はないか」と相談を受けたことをきっかけにサービスを開始した。
現在の登録店舗数は25店だが、加盟希望スナックは140を超えており、日本だけでなく米国や、ミャンマーなど世界中から問い合わせがきているという。
利用者は女性や子供連れ、海外在住の外国人の参加も多く、週後半になると多くのお店が満席になるという。
また、ガイアックスも芸者とオンラインでお座敷遊びができるサービス「Meet Geisha」を提供。コロナ禍による観光客減に苦しむ芸者の組合からの相談を受けて始めた取り組みだが、こちらも女性や海外現地からの参加者が多い。いままではあまり表に出ない「閉じたサービス」が、オンラインを介したオープンなものに変わることで、新たな需要が生まれているようだ。
コロナ後の対策技術も
コロナ終息後にリアルの場での娯楽の復活を見据えて、感染リスクを下げるための非接触の仕組みも登場している。
プレイグラウンドは、QRコードと顔情報の二つの認証を組み合わせ、コンサートやライブ会場でのチケット確認の際に、チケットを購入した本人かを確認して不正転売を防ぐとともに、非接触で感染の危険を抑えるシステム「MOALA QR」を開発。
同システムは、アップル社のアイフォーンやアイパッドを用意するだけで利用でき、これまでのような大規模なシステム、大量のスタッフを用意する必要がない。代表の伊藤圭史氏は、「コストと人員を従来の10分の1に削減できる」と豪語する。また、顔による認証システムであることを利用し、検温機能も取り入れるなど、時代に合わせた入場管理技術として、これまでにないニーズを獲得している。(白鳥達哉・編集部)
※この記事は7月6日発売号の特集「非接触ビジネス」の記事「娯楽 コンサートからスナックまで オンラインで生まれる新需要=白鳥達哉」に加筆したものです。