河瀬航大 フォトシンス社長 オフィスの鍵をスマートに
既存のドア鍵に装置を取り付ければ、高度な入退室管理システム付きのスマートロックに生まれ変わる。(挑戦者2020)
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=市川明代・編集部)
既存のドア鍵に装置を取り付けることで、スマートフォンやSuica(スイカ)による解錠と入退室管理が可能になる、オフィス向けのスマートロックシステム「Akerun(アケルン)」を開発・販売しています。クラウド型のサーバーでユーザーIDを発行・管理する仕組みで、いつ誰がどこに出入りしたかを記録することができます。
個人情報保護の観点から、大企業ではカードキーを使った入退室管理が当たり前になりましたが、中小企業のドアの鍵は旧来型のものがほとんどです。働き方改革関連法によって、4月から中小企業も時間外労働の上限規制の対象になり、入退室管理機能の付いたドアの整備が課題になっています。
通常、一つのドアの鍵をカードキーに替えるのに100万円以上かかりますが、Akerunは貼り付けるだけなので工事は不要、入退室管理システムを含め1カ月当たり1万7500円の継続課金で利用できます。
大学卒業後、インターネット関連サービス企業の「ガイアックス」に就職し、新規事業開発に3年半従事しました。大学時代の仲間と飲んでいる時に「鍵の不便さ」が話題になり、「スマホで開けられるようにしては」と週末に集まって3Dプリンターで試作したのが事の始まりでした。試作品をSNS(交流サイト)で発信すると瞬く間に拡散され、家事代行会社で使ってもらえることになったのです。
2014年、マンションの一室を拠点に6人で起業しました。当時25歳。ガイアックスの社長は「出資するよ」と温かく送り出してくれました。秋葉原巡りで人脈を作り、製造してくれる町工場を探しました。
家庭向けを法人向けに
実は最初に販売した「Akerun Smart Lock Robot(アケルンスマートロックロボット)」は家庭向けでした。通販サイトやビックカメラなどでそれなりに売れましたが、すぐに購入者の利用率が低いことに気付きました。家庭では、キーシェアのニーズがなかったのです。利用頻度が高いのは法人だと分かり、ビジネスモデルの転換を決めました。
最初の資金は既に底を突いていました。社員総出で法人営業に走り回って売り上げを伸ばし、将来性を認めてくれた株主から、企業向けモデルの開発費を調達しました。
企業向けで苦労したのはセキュリティーの確保でした。通信そのものを暗号化し、開閉の直後には同じ通信が使えないようにしました。複数の技術によって銀行並みのセキュリティーレベルを作り出しました。更に、家庭と違って人の出入りが激しいので、利用者がイライラしないよう開閉スピードを15倍にアップさせました。こうして完成したのが「Akerun Pro(アケルンプロ)」です。
導入例は中小企業を中心に約4000社。地方に支店を持つ大企業にも好評で、例えば賃貸住宅大手の大東建託では、全国220支店でブラックな働き方をしていないか、本社で一括管理するのに使われています。市場はまだまだ広がると考えています。
オフィス、自宅、自動車……。すべてが一つのIDで鍵が開くようになれば、私たちの暮らしは便利になる。目指すは全ての鍵がクラウド化された「キーレス社会」です。
企業概要
事業内容:入退室管理システムを主軸としたIoT(モノのインターネット)事業
本社所在地:東京都港区
設立:2014年9月
資本金:11億6000万円(資本準備金含む)
従業員数:100人
■人物略歴
かわせ・こうだい
1988年鹿児島出身。2011年筑波大学理工学群卒業後、ガイアックスに入社。ソーシャルメディアの分析・マーケティング、ネット選挙事業を担当。14年にフォトシンス設立、代表取締役社長に就任。筑波大学非常勤講師も務める。