ディープラーニングを活用したアスパラガス収穫ロボットが登場! 「農業のIT化」はもうここまで来ている
自動化が難しいとされてきたアスパラガスの収穫を、AIによる画像認識で実現。他の野菜にも広げようとしている。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=市川明代・編集部)
人工知能(AI)で目の前の野菜が収穫に適しているかどうかを瞬時に判断し、自動で摘み取る自走式ロボットを開発、レンタルしています。市場価格と照らし合わせ、収穫高の15%を利用料として払ってもらうことで、設備投資に二の足を踏む高齢の農家にも気軽に使ってもらえると考えています。
現在、事業化できているのはアスパラガスの収穫ロボットです。高温のビニールハウス内で、1日に10センチも伸びるアスパラガスをしゃがんで摘み取るのは、高齢の農家にとってはかなりの重労働です。既に佐賀県内の農家にロボットの貸し出しを始めていて、年内に数十台まで増やす予定です。
アスパラガスの収穫期は年2回。1株当たり数十本のアスパラが生えるので、春先にはこのうちの何本かを「親茎(養生茎)」として残しながら収穫します。残した親茎の葉を茂らせ、その光合成によって根に養分を蓄え、夏から秋にかけて収穫するアスパラガスを育てます。出荷できるのは地域によって23~25センチと決まっています。親茎や十分に成長していないものを誤って抜かないよう注意しながら、摘んでいかなくてはなりません。
そこで肝となるのが、画像認識の技術です。アスパラガスが生えている状態を撮影した何千枚分もの画像データをAIに学習させ、80%の確率で正しく収穫できるようにしました。本体には、茎の長さを測るための赤外線レーザーを使ったセンサーが4台、アームには穂先の有無を認識するカメラが2台付いています。自動走行させるために、土の色や形状を頼りに自分の居場所を判断する方向認識用カメラも1台付けています。
スピードアップ目指す
大学を中退して料理学校に通い、調理師資格を取得しましたが、料理人の世界が肌に合わず、不動産投資のコンサルティング会社に就職しました。4年半勤めた後、仲間と前身のウェブサービス会社を設立。AIの将来性に関心を持ち、勉強会に通って、レタスの間引きロボットの存在を知りました。レタス農家の友人から「間引きより、雑草を抜く方が大変だ」と聞かされ、全国の農家を訪ね歩いてニーズをリサーチする中で、佐賀県の農家から「アスパラガスを収穫するロボットを開発してくれないか」と話があったのです。
まず、ロボットアームを作っている研究者に手当たり次第にメールを送り、開発協力者を探しました。小口の投資を募って1000万円を調達。画像認識の技術者を募って試作を繰り返し、2018年に1号機を完成させました。
当初は1本摘むのに30秒かかりました。改良を重ねて12秒まで短縮させましたが、能力はまだ人間の半分以下。ただ、高温のハウス内で、人間が朝夕の涼しい時間帯に計4時間ほどしか作業ができないのに対し、ロボットは途中で充電すれば朝から晩まで働きます。今後、さらにスピードアップを図ります。
来春には量産体制に入る予定です。トマトの収穫ロボットの開発準備も進めています。農業や漁業の現場では高齢化と就業人口の減少が深刻です。あらゆる第1次産業の自動化を進めていきたいと考えています。(挑戦者2020)
(本誌初出 菱木豊 inaho代表取締役社長 AIで野菜を見分けて収穫 20200908)
企業概要
事業内容:機械製造(農業用ロボットの開発)
本社所在地:神奈川県鎌倉市
設立:2017年1月
資本金:1億円
従業員数:25人
■人物略歴
ひしき・ゆたか
1983年神奈川県出身。大学在学中に米サンフランシスコに留学し、帰国後、東京調理師専門学校に転学。不動産投資コンサルタント会社勤務を経て、2014年に不動産系ウェブサービスのomoro設立、事業売却・解散。17年にinaho設立、代表取締役社長に就任。