このままではいずれ中国が新興国経済を掌握する……コロナ禍でデフォルト危機の新興国に中国が急接近している理由
過去10年ほどの低金利環境で大量に発行されてきた新興国の国債(ソブリン債)が、新型コロナウイルスの世界的な流行により債務不履行(デフォルト)のリスクに瀕(ひん)している。米論壇では、その影響や解決策をめぐる議論が熱を帯びている。
コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授らは7月31日付の評論サイト「プロジェクト・シンジケート」で、「100以上の低所得および中所得の国が合わせて1300億ドル(約13兆7800億円)のソブリン債返済を迫られている。だが、(感染拡大防止のため)経済活動が大幅に制限され、国庫収入が急減するため、これらの多くの国が債務不履行に陥るだろう。パンデミックの今こそ必要とされている医療や社会プログラムを削って、債権者に対する返済に充てる国が増える。結果として、数千万の人が失業して移民が増加し、世界中の社会に不安定化や暴力をもたらす」との見立てを提示した。
こうした長期的な悪影響を抑える方策としてスティグリッツ教授らは、「1990年代の中南米や、より最近のギリシャ債務危機において効果が確認された、債務国による自主的なソブリン債買い戻しにより、大きな債務放棄を確保し、(民間債権者による、債権を元手にした債務国に対する債務交換の)苛烈な条件を回避することもできる。さらに、恩恵を受ける国々が債務返済に充当するはずであった資金を医療や気候変動対策に回すよう義務付けることもできる」と利点を説明した。加えて、「国際通貨基金(IMF)の保証を付けた上で、出資ができる国や機関から資金を募ればよい」と主張した。
こうした中、コロナ禍で9度目の債務不履行に陥った南米アルゼンチンは8月4日、債権団と650億ドル(約6兆8900億円)の債務再編について、債券保有者が額面1ドル当たり約54・8セントを受け取ることで決着合意した。
しかし、一定割合の債券保有者が承諾すれば債務条件を変更できる集団行動条項(CAC)については見直す方向となり、一部の債権者に有利な結果となった。これについて、カリフォルニア大学のバリー・アイケングリーン教授、スタンフォード大学のジョン・テイラー教授などが7月9日に連名で「プロジェクト・シンジケート」に寄稿し、「CACの見直しは、条件変更を拒む最も無責任な債権者が、他の債権者の犠牲の下に利益を得ることにつながり、見直しは認められるべきではない」と訴えていた。
中国を利する危うさ
一方、カーメン・ラインハート世界銀行副総裁は6月23日に出演したブルームバーグの番組で、「特に低所得の新興国において中国は最大の貸手であり、中国の協力なしには債務国救済が限定的に終わる」と語った。
また、非政府組織である「透明性基金パートナーシップ」のフランク・ボーグル理事長は7月1日付の保守系サイト「アメリカン・インタレスト」で、「民主党政権であれ共和党政権であれ、ソブリン債危機が米ウォール街に波及してほしくない。だが、債務国救済は国民から収奪する新興国政権を利するばかりか、相当の債務カットに応じるであろう中国が、IMFの保証を使った債務国からの残債返済を確保し、最終的な勝者となる可能性がある」と警鐘を鳴らした。
(岩田太郎・在米ジャーナリスト)
(本誌初出 新興国で対外債務危機 救済に世銀などが慎重姿勢=岩田太郎 20200908)