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「トランプ政権が中国の封じ込め戦略を開始」と判断しうる「3つの異変」=立沢賢一

    ポンペオ米国務長官と楊潔篪・共産党政治局員
    ポンペオ米国務長官と楊潔篪・共産党政治局員

    ポンペオ・楊潔篪会談では何が話し合われたのか?

    中国は国内外に問題を抱えており、新型肺炎感染症の再流行、経済不況による失業増加(による社会不安)、香港問題(送中法、国家安全法)、南シナ海、台湾海峡の緊張、中国インド国境紛争とまさに内憂外患が目白押し状態です。

    6月17日 にハワイで米中の外交トップが会談しましたが、習近平国家主席は王毅(おうき)国務委員の上であり、中国共産党中央政治局委員でトップ25の1人である楊潔篪(よう けつち、ヤン・チエチー)氏を送り込みました。一方、トランプ大統領はポンペオ国務長官を交渉相手として選任しました。

    ポンペオ・楊潔篪会談は、ハワイ州オアフ島のヒッカム米空軍基地で6月17日午前9時から昼食をはさんで約8時間に及びました。

    米中貿易戦争の「第1段階」合意で中国は、貿易戦争前の2017年の米国による対中輸出実績を基準に、20年は767億ドル(約8・2兆円)、21年は1233億ドル分、米国製品の購入額を積み増すことを約束しました。これを受け、米国は制裁「第4弾」として年間輸入総額1200億ドル規模の中国製品に課してきた追加関税率を15%から7.5%に半減することを認めました。

    ところが、新型コロナによる経済の停滞で、増やすはずの中国による米国製品の購入額は逆に減少に転じているのです。中国側統計によりますと、20年1~5月の米国製品の輸入額は前年同期比7.6%減、基準となる17年の同じ時期に比べますと27.2%も減少しました。目標達成には21年までに米国からの輸入額を17年の1.7倍に拡大する必要があり、楊潔篪中国代表は未達分を補うことを制裁内容の妥協点として引き合いに出したのではないかと思われます。

    ポンペオ米国務長官は、中国側が米中貿易協議の第一段階合意の下で交わした約束を全て守る考えをあらためて示したことを明らかにしました。つまり、何の目新しい材料は一切出なかったのです。ポンペオ米国務長官からすれば、中国からの会談依頼に対応し、わざわざハワイまで赴いて会談したにも拘らず、結果的には中国が自分たちにとって有利な条件を米国から引き出そうと画策したに過ぎなかったのです。これでは米国は中国と交渉を継続しても、「もう無理だ。」という印象を受けざるを得ません。

    新型コロナの発生源や香港の国家安全維持法制を巡り米中の対立が強まる中で、貿易問題について懸念していた市場にとって会談内容は安心材料となると日本のメディアは、報道していましたが、私はその逆だと思っています。

    実際に、ポンペオ氏と楊潔篪氏が会談を行う数時間前に、トランプ大統領は「ウイグル人権政策法」に署名していました。

    議会の上下両院が圧倒的多数で通過させた法案は、中国共産党が新疆に強制収容所を設置し、ウイグルなど少数派のイスラム教徒の人権を侵害していることを非難しています。

    もし米国側が本当にハワイ会談に期待していたのなら「ウイグル人権政策法」への署名はハワイ会談が終わった後でも良かった筈です。因みに米国議会では270にも及ぶ中国関連の法案が現在、検討中となっているそうです。

    6月30日の香港国家安全維持法は米中冷戦がエスカレートする原因となったと言えます。

    新型コロナウイルスはある意味、第二次世界大戦開戦時の日本の真珠湾攻撃と喩えられる程です。トランプ大統領にとっては対中開戦は国益を守ることにも繋がり、11月の大統領選挙のキャンペーンにもなるメリットはあります。

    トランプ政権に見られる「異変」

    6月17日のハワイ会談の破談後、あたかもトランプ政権が中国の封じ込め戦略を開始したのか?と思わせる様な3つの出来事が起こりました。

    まずは、(1) 特に6月24日以降政府高官から強硬発言が出始めていることです。

    ① オブライエン米国家安全保障担当大統領補佐官は、「中国を豊かにすれば民主化するだろうという理想は1930年代からの外交上の間違いだった。今では共産党が企業も支配という見せかけ資本主義を推し進めている。中国人民が問題では無く、9200万人の中国共産党が敵であり、中国共産党体制の中国を叩き潰す必要がある。」と発言。

    ② ポンペオ米国務長官は「南シナ海は中国のものでない。中国は南シナ海を侵略している。」と発言。

    ③ ウイリアムバー司法長官はハリウッドが中国資本に依存し過ぎ、完全に中国の情報操作が行われてしまっていると懸念する発言をしています。32年ぶりに公開となるトップガンのパイロットのジャンパーには以前日本と台湾の国旗がありましたが今回の映画ではそれが無くなりました。もちろん中国に配慮した結果です。

    (2) トランプ大統領は香港自治法を承認しました。基軸通貨ドルの封じ込めは、中国への強烈な脅しとなります。

    ブルームバーグ・インテリジェンスによりますと中国国有四大銀が抱えるドル資金は1兆1000億ドル(約118兆円)に及びます。香港自治法によってこの四大銀行に制裁が発動された場合、口座を持っている金融機関も制裁対象となります。中国4大銀行や香港ドルを発行しているHSBCやスタンダードチャータード銀行などが制裁対象になれば、米ドルとの交換保証で成立している香港のカレンシー・ボード制度は崩壊する恐れがあります。

    問題点は日米欧の金融機関への影響も未知のリスクだということです。以前私が配信しましたYouTube動画でも説明していますが、中国が制定した香港国家安全維持法には4つの禁止行為の一つである「外国勢力との結託」を禁じる項目がありますから、米制裁の回避に動けば、逆に中国から報復措置を浴びるリスクもあるのです。

    つまり、最悪の場合、米中の亀裂は、国際金融システムが機能しなくなる可能性を内包しているのです。

    (3) 米国海軍は中国を牽制する目的から、7/4 南シナ海で空母2隻を含めた演習を行い、7/17にも2度目の演習を行いました。

    (4) 7/23に米国政府はテキサス州ヒューストンにある中国総領事館の閉鎖命令を発令しましました。

    ヒューストンの中国総領事館はなぜ閉鎖された?

    米国政府からは、(a)個人情報を保護するため、(b) 知的財産を守るため、中国総領事館の閉鎖命令を発令したと説明がありました。つまり中国共産党は違法な大規模スパイ活動をヒューストンの中国総領事館を通して繰り広げているということなのです。

    実は、米国のワクチン開発の技術のハッキング行為がヒューストンで起こり、中国総領事館がそのスパイ行為を指示していた疑いこそ本当の理由ではないかと思います。

    ヒューストンはテキサス州の重要な産業である農業、石油、ハイテクなどの中心都市として、そしてアメリカ経済の牽引役を果たしている都市で、

    ①スマートフォンやスマートシティ構想との結びつきが強く、市役所はビッグデータを活用し、庁内の業務や住宅セクターの効率化を図っている

    ②遺伝子治療・アデノウイルス・がん治療などバイオテクノロジーの研究が進んでいる

    のです。

    以上ご説明しました通り、僅か1カ月間に米国内ではかなりの動きがあったのは否めません。

    米中対立はさらにエスカレートする……

    米国は貿易戦から実戦にシフトする意図なのでしょうか?

    中国総領事館閉鎖は遂に貿易戦から実戦にシフトし開戦したことを示唆している様に見受けられます。流血はしていないものの、米中覇権戦争の戦場はサプライチェーン、貿易、投資、5G、AI、セミコンダクター、サイバー、人工衛星と多岐に渡ります。

    つまり、米国は歴史上例が無いほど広い分野で敵国中国と競争しているのです。ソ連との冷戦時代、ソ連は核兵器やICBMを所有していただけでそれ以外は発展途上国同様でしたが、今の中国は当時のソ連とは全く別物だという認識です。

    米国にとって、現在、商品、サービスや市場で中国と相互依存していますから、完全に中国と断絶するのは経済的には米国自身も問題を抱えることになります。

    更に、中国は1兆ドル(107兆円相当)の米国債を保有していますし、中国にあるレアアースは広い範囲でのハイテク商品を製造する際に必要になります。実際に、米国は中国の最も重要な輸出市場でもあるのです。

    私見ですが、米国が本当に中国を叩き潰そうとしているのでしたら、それを犠牲にしても今こそ叩いて中国に勝つしかないと思います。何故なら、時間が経過すればするほど、中国は力を付けてくるのは間違いないからです。

    本来なら米国は第二次世界大戦の時同様に、他国と同盟を組み、中国包囲網を作りたいところなのですが、実際には先進国の足並みは揃って無いのが現状です。

    米国の最大の同盟国である英国は7/14にファーウェイ排除を発表しましたが、何と 7年後の2027年までにファーウェイからエリクソンへシフトすると表明していることから鑑み、トランプ大統領が再選するか否かで今後のスタンスを決めるのだろうという思惑が強いです。

    NATO(北大西洋条約機構)では中軸国であるドイツは5Gでファーウェイを採用し、BMWとアリババは上海にイノベーションセンターを共同で作ると声明を出している様に米国と同盟国との足並みは揃っていないのです。

    果たして、米国が単独で中国封じ込み作戦を実行するかはまだ不明瞭ですが、中国に米ドルを使わせない方向に向かう気配が見えてきましたから、もしそれを実行すれば、米国は米中覇権戦争においてかなり優勢になると言っても過言ではありません。

    立沢賢一(たつざわ・けんいち)

    元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。

    Youtube https://www.youtube.com/channel/UCgflC7hIggSJnEZH4FMTxGQ/

    投資家サロン https://www.kenichi-tatsuzawa.com/neic

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