環境対応を軽視する昭和の企業に思わぬ落とし穴が……ESG評価の高い企業は採用でも有利なワケ
環境、社会、企業統治に注目するESG投資が拡大する中で、企業に対する投資家からの圧力が強まっている。特に最近は気候変動リスクについての関心が高まっており、2015年に金融安定理事会(FSB)が設立した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同する日本企業は271社と、世界の中でも最多に上っている。日本企業の意識が変わりつつあるのは確かだろう。
ただし、ESGへの意識については投資家の厳しい意見を聞く機会のある部門とそれ以外では温度差が大きい。筆者があるエネルギー業界でESG投資のセミナーを行ったところ、「自分の仕事にどう関連するのかわからない」「ESGに取り組むメリットが見えない」といった意見が数多く聞かれた。
ESGを経営に取り入れることに慎重な理由として、新たな投資など費用の増加をもたらし業績の向上にはつながらない、という意見がある。ESGが企業にとってメリットをもたらさないのであれば、腰が重くなってしまうだろう。
再エネ導入など評価
ESGへの取り組みが企業価値の向上につながるのかを考察するため、筆者はESG評価と学生の就職人気ランキングの関連性について分析を実施した。ESG評価としては、環境、人材活用、社会性、企業統治の4分野について東洋経済新報社がアンケートに基づき採点をしたCSR企業ランキングを用いている。学生の企業評価としては、文化放送キャリアパートナーズの就職ブランドランキングを使用した。対象としたのは時価総額上位300社で、過去5年分を分析した。
就職人気ランキングを取り上げたのは、それが企業のブランドの一環であり、優秀な人材を得ることが長期的に競争力の源泉となるからだ。就職ランキングを被説明変数とし、ESG評価(CSRランキング)を説明変数として、企業規模や収益性などをコントロールして回帰分析を行ったところ、ESG評価が就職人気ランキングに影響していることを示す結果となった。個別に見ると、環境スコア(0・021)、企業統治スコア(0・018)、人材活用スコア(0・014)の順に関連性が高く、特に学生はE(環境)の部分を重視しているとみられる(表)。
環境スコアは、再生可能エネルギーの導入や二酸化炭素排出量等削減の中期計画、環境監査の実施状況などが評価ポイントとなっている。スコアの高い企業を見ていくと、1位が丸井グループとSOMPOホールディングス(HD)、その後大和ハウス工業、イオン、ホンダと続く。丸井グループは店舗での再生エネルギーの利用や循環型サービス実現のためモノを売らないシェアリング事業などに力を入れている。SOMPOHDは、17年に責任投資推進室を新設しESGスペシャリストを配置するなど、早くからESG対策を重視してきた企業だ。省エネ製品を発売するダイキン工業やオムロンなども上位に食い込む。
以上のように、環境への対応は投資家に向けて公開されるIR対策だけではなく企業の将来の存続に関わる問題だ。日本の経営トップは、主体的な方針を打ち出すとともに社内での意識の転換に取り組むべきだ。
(根本直子・早稲田大学大学院教授/アジア開発銀行研究所エコノミスト)
(本誌初出 就職人気とESG 学生は環境重視企業を好感 上位に丸井や大和ハウス工業=根本直子 20200915)