バイデン政権「197兆円のばらまき」でインフレは発生するのか
バイデン新政権が新型コロナウイルス禍に対応する、1兆9000億ドル(約197兆円)という史上例のない大規模な追加経済対策案を打ち出した。
これによるインフレを懸念する声と、心配は杞憂(きゆう)だとする意見の間で激論が戦わされている。
保守派シンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ研究所のジェームズ・ペトコーキス研究員は2月1日付のブログで、「現在の低インフレは、世界規模の労働力の増加と、中国や東欧のグローバル経済への統合によって(労働者の価格決定権が弱まったことで)人件費が低下し、デフレ圧力が増大し、金利が低下したことで起こった」との説を紹介。
その上で、「近年、労働力は減少を始め、中国や東欧の賃金も上昇を始めた。
こうした中で巨大な財政出動を行えば、(需給が逼迫(ひっぱく)して)インフレリスクが高まる」との見解を示した。
米投資信託のロイトホールド・グループのチーフ投資ストラテジストであるジム・ポールセン氏も2月3日に出演した経済専門局CNBCの番組で、「利回り曲線(イールドカーブ)の傾きが(将来の見通しが明るくなっていることを示す)急な右肩上がりの傾向を示すと同時に、他の経済指標も改善しており、2021年の米国内総生産(GDP)は(コロナ禍による急落の反動で)前年比6~8%増加する。それに合わせて、インフレも進む」と予想した。
また、クリントン政権下で財務長官を務めたハーバード大学のローレンス・サマーズ教授は2月4日付の『ワシントン・ポスト』紙で、「追加経済対策は重要な前進だが、(実需が発生する)公共投資ではなく現金給付に主眼を置いたものであるため、近年見られなかったレベルのインフレ圧力を生む恐れがある。米連邦準備制度理事会(FRB)の金融緩和継続への確約、政権高官による将来的なインフレの可能性の否定、米議会の増税への消極姿勢も併せて考えると、追加策はインフレの芽を摘み、金融の不安定化を防ぎながら公共投資を促進するものであるべきだ」と論じた。
FRBは懸念せず
これに対し、米大統領経済諮問委員会(CEA)メンバーであるジャレッド・バーンスタイン氏は2月5日の記者会見で、「政権がインフレのリスクを否定しているとのサマーズ氏の主張は、完全に誤っている」と言明。
「財政出動を小規模に抑えることで生じる(経済低迷の)リスクが、大盤振る舞いで発生する(インフレ)リスクを上回る。インフレの懸念が全くないわけではないが、サマーズ氏の言うように経済は過熱していない。インフレ率は過去10年以上、FRBの目標である2%を下回ってきた」と指摘した。
さらに、「現在の財務長官は、インフレリスクとその対処法を熟知したイエレン前FRB議長だ」と付け加えた。
こうした中、著名なFRBウオッチャーであるオレゴン大学のティム・デューイ教授は1月27日付のブログで、「FRBはインフレが制御不能になることを恐れていない。前回の金融危機後に、経済の支えである金融緩和を早く引き揚げてしまった過ちを繰り返したくないからだ」と解説。さらに、「今回はインフレ率が目標の2%を常態的に超えるまで、利上げを控えるだろう。そのため、市場参加者に資産購入額の縮小過程であるテーパリングや利上げについて心配するなとメッセージを送っている」と結んだ。
(岩田太郎・在米ジャーナリスト)
(本誌初出 1・9兆ドルの追加経済対策 インフレを引き起こすか=岩田太郎 20210302)