経済・企業 日本車があぶない!
「いまだにEV反対論を唱える人」が知らない「電力と電池」の話
ガソリン車ももちろん魅力はあるのだが……
EV化の是非を議論する時期はとっくに過ぎた、というのが筆者の意見である。
ドライバーとしては、長年慣れ親しんだガソリン車に愛着もあるだろう。
乗り心地、デザイン等など、車としての魅力の点で、ガソリン車がEVに劣るとは筆者も思っていない。
だが、地球温暖化と戦ううえで、ガソリン車を捨て、EV化を推し進めることは、必要かつ、不可避のチャレンジである。
注意しなければならないのは、電源の問題だ。
ガソリン車からEVへの切り替えが仮にうまくいっても、EVを火力発電の電力で充電していれば、CO2削減にはならない。
そこで、発電もゼロエミッション化せねばならないのだが、日本でその主役を担うと考えられるのは太陽光発電である。
だから日本における温暖化対策の柱とは、太陽光発電の普及と、EV化による車の脱炭素化の、二本立てということになる。
しかし、EVも太陽光発電も弱点を抱えている。
EVの弱点とは、航続距離の短さと充電時間の長さだ。
太陽光発電の弱点とは、天候や季節によって、発電量の変動が激しいことだ。
そして、その両方の弱点を解決するカギを握るのが、蓄電池である。
つまり、EV、太陽光、蓄電池は3者同時に推進せねばならない分野だといえる。
目下EV向けの蓄電池が注目を集めているが、本稿では、太陽光発電と蓄電池の関係について説明してみたい。
太陽光は発電量の変動が激しい
太陽光発電はもちろん、夜間には発電量がゼロになる。
雨の日にも、快晴の日との比較で1割以下の発電量にまで落ちてしまう。
曇りの日なら、最大出力と雨の日の中間というところだ。
また、快晴の日中でも、時間と共に発電量は刻々と変化する。
パネルが南向きに設置されるので、太陽が真南に来る正午前後の発電量がもっとも大きくなる。
逆に、日の出と日没時には斜め横から日が当たるので、有効な受光面積が小さくなり、発電量が小さくなる。
従って、発電量は大体釣鐘型のカーブを描くことになる。
これは快晴の日の話だ。
天候は日々変わるので、太陽光発電の発電量は、時間だけでなく、日ごとに変化する。
さらに、晴れた日の多い5月、8月などは発電量が多く、反対に梅雨時や雪の多い冬には減少するので、月毎にも変化する。
この様に、安定した発電量を得るという点で、太陽光発電は非常に扱いづらいエネルギー源だが、一番苦労しているのは電力会社だ。
太陽光発電の「出力抑制」が必要になってきた
電力会社は、発電量がピークの時には、供給過剰を防ぐために火力発電を落とし、夜間や悪天候時には火力発電を増やさねばならいない。
発電量と消費電力量はつねに同じでなければならないという「同時同量」の原則があるからだ。
電力の供給において、この「同時同量」の原則は絶対に守らなければならない。
使う電気と作る電気のバランスが崩れると、電力共有が不安定になり、極端な場合には停電が発生する。
供給不足はもちろん問題だが、過剰供給もだめなのである。
電力会社は以前から、電気の使用量を予測しながら、発電量の調整を行い、同時同量を維持してきた。
それだけでも十分複雑な仕事だが、そこに、発電量の不安定な再エネ発電が加わると、さらにやっかいなことになる。
太陽光電力が不足する場合は火力発電を増やせば良いのだが、問題は供給過剰になった場合だ。
「同時同量」を維持するためには再エネ発電を「抑制」(電力会社用語では「制御」)しなければならない。
九州では、2018年10月から太陽光と風力を対象に制御が行われている。
制御は主に、電力の使用量が少なく、自然エネルギーによる発電が多くなる時間帯だ。
つまり、電力供給の過剰は、日照が良い反面、冷暖房などの需要が少ない、春と秋の昼間に起こるということだ。
2018年度には秋以降の26回、発電の制御が行われている。
2019年度には通年で74回に増え、2020年度も4月24日までに16回の制御を実施した。
このような出力制御はパワコンからの送電を止めて行うので、最近では、新規の太陽光発電設備には、出力制御に対応したパワコンの設置が義務づけられている。
ただ、出力制御は発電事業者にとって、売電収入の減少を意味する。
まだ現時点では経営を圧迫するほどではないが、今後太陽光発電が増えるに従い、問題は深刻化するはずだ。
「蓄電池併設型メガソーラー」が未来をひらく
出力抑制の問題に対する根本的な解決策は、蓄電池の導入だ。
電力が余っている時間帯にも抑制することなく発電を継続し、行き場のなくなった電力は蓄電池に貯めておく。
そして、太陽光発電が止まる夜間にその電気を吐き出し、電力会社に流すのだ。
蓄電池併設型のソーラーシステムは家庭用に普及しつつあり、そのための蓄電池も内外のメーカーから販売されている。
しかし、もっと重要なのは太陽光による発電量のほとんどを占める大規模なメガソーラーへの導入だ。
そういう中、日本最大クラスの蓄電池併設型メガソーラーが2020年10月16日、北海道八雲町において操業を開始した。
それが「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」。
運営するのは、「北海道八雲ソーラーパーク合同会社」で、出資比率はSB エナジーと三菱 UFJ リースが50%ずつだ。
出力は、約102.3MW(10万2,300kW)。蓄電容量は約 27.8MWh(約2万 7,800kWh)。
この発電所は、北海道電力が 2015年4月に公表した「太陽光発電設備の出力変動緩和対策に関する技術要件」に基づいて建設されたもので、蓄電池を併設する太陽光発電所としては国内最大級だ。
蓄電容量27.8MWhというと、テスラ「モデルS」(100kWh蓄電池搭載型)278台分に相当する巨大なものだが、それでも、このメガソーラーの約16分間の発電量を貯める容量しかない。
本来なら、1時間分を貯められる100MWh以上欲しいところだが、現在の蓄電池のコストでは経済的に難しい。
とは言え、これは将来を見据えた大変すばらしい試みだ。
今後、蓄電池のコストが下がれば、もっと大きな蓄電池を併設したメガソーラーがどんどんと出現するだろう。
蓄電池の低コスト化こそ、最重要の課題である。
蓄電池のコストが下がると、EVの普及は加速するだろう。
そうすると、蓄電池の量産が進みコストが更に下がる。安くなった蓄電池は太陽光発電にも併設され、クリーンな電力がEVを充電する。
この好循環こそが、「2050年ゼロエミッション」への道だ。
村沢義久(むらさわ・よしひさ)
1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、米コンサルタント大手、べイン・アンド・カンパニーに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券バイス・プレジデント(M&A担当)、東京大学特任教授、立命館大学大学院客員教授などを歴任。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)など。