「謙虚で控えめ」はNGワード?就職・転職時に米国で「推薦状」が求められる理由
米国では就職や転職、大学・大学院の進学時にレコメンデーション(推薦状)が必要とされる。
筆者は、ワシントンDCで日米関係のコンサルティングファームを営んでいることから、インターンシップ(就業体験)に参加した学生や、パートタイムの研究者、コンサルタントから推薦状執筆を頼まれることが多い。
これまで、大学院修士、博士課程などに進学する若手の推薦状を書いてきた。裁判官を目指す元パートタイム研究者の人格評価の依頼も受けた。
縁があって接点を持った人物が、目指す道に近づく一助になる。推薦状を頼まれることは、上司であることの醍醐味(だいごみ)だ。
推薦状には、日ごろの行いを見て人物を評価するタイプと、プロフェッショナルな資質を評価するタイプがある。
前者は、教師、近隣住民、教会関係者、スポーツのコーチなど、日常生活での接点がある人物が書く。
後者は、勤務先の上司、同僚であることが多い。
米国での推薦状は、すべてオンラインである。学校や希望就職先からメールがきて、住所、名前、所属先など自分の情報を入れ、十数個の質問に答えた後、あらかじめ用意した推薦文をアップロードする仕組みだ。
どの機関も似たり寄ったりの質問で、リーダーシップはあるか、チームワークを守って行動できるか、締め切りを守るか、プレッシャーに強いかなど、YES・NOで答える時もあれば、これまであなたが監督してきた部下のうち、この人物は上位何%に属するかという質問もある。
一人一人の推薦状を書くのは苦にならない。彼・彼女の長所を考えると、書きたいことが湧き上がってくる。
ある時、インターン生のアレックス君にあるテーマで「来週、プレゼンテーションをしてほしい」とお願いしたところ「そんなに急にできないかもしれない」という消極的な回答が返ってきた。
それでも「可能な範囲でいいから」と後押ししたところ、当日素晴らしいプレゼンをしてくれた。
そのことを思い出し、彼の大学院の推薦状は、「チャレンジする気持ちとやり遂げる力がある」と自信を持って書いた。
実際、彼は全米でも医療分野では3本の指に入るジョンズ・ホプキンズ大学の大学院に合格し、今は、勉学にいそしんでいる。
「事後閲覧しない」が多数
依頼者は「推薦状を閲覧する権利を放棄する、しない」を選ぶことができる。筆者の経験では、全員「推薦状を閲覧しない」を選んでいる。
最近、流行した米国の小説で、推薦状を依頼した学生が内容を見ないのをいいことに意図的にその人物を悪く書く、英文学の教授の話があった。
日米で異なる価値観があるということを感じたのは、「humble」という単語である。
日本語で「謙虚で控えめ」「自画自賛しない」という意味だ。日本人には「人の言うことをよく聞いて、周りの空気を読み取って協調性のある行動をする」と、褒め言葉になりそうだが、使用厳禁だ。
米国では「自分で考えて行動する。率先して何かことを起こす。アグレッシブに前に進む」という要素を強調するべきであり、「humble」という言葉は推薦状には適さない。日米の差をしみじみと感じる。
(小林知代・ワシントンコア代表)
(本誌初出 上司の喜び味わえる 進学・転職の推薦状書き=小林知代 20210316)