経済・企業 コロナ下の人事評価
「サボり」「コミュニケーション不足」「パフォーマンス低下」にどう対応する?テレワークがうまくいった企業の「人事評価」と「マネジメント」
新型コロナウイルスの感染拡大からおよそ1年が経ち、「テレワーク」や「リモートワーク」などのような「出社しない働き方」が広く社会に浸透した。
東京都が今年1月に発表したデータによると、都内企業のテレワーク導入率は57.1%で、緊急事態宣言が再び発令された影響などもあり、その数値は上昇傾向にあるという。(参考:東京都HP)
年度が切り替わる春は、人事評価の面談を実施する企業も多い。「コロナ禍」の長期化に伴い、テレワークを続けている中、人事評価を行う必要がうまれている。
各企業はどのように対応しているのか。現役の人事部員が対応のポイントを語った。
コロナで人事部が直面した課題
都内のベンチャーI T企業で人事を務める岡田優さんは、オンラインでの人事面談が必要になったが、大きな変更はなかったと語る。
「弊社(A社)では、人事評価は年に2回。人事評価制度は、プロジェクト成果・個々のスキル・目標設定(自己成長)の3つの基準を設けて評価をしています。テレワークの導入後には、評価の手法についての議論を重ねましたが、オンラインで対応することになったことを除き、特に変わったことはありません」。
A社の人事評価制度
・評価結果を元に、対面形式での面談を行っていたが、テレワークの必然性からオンラインでの面談に変更。
・プロジェクトごとに勤務形態の違いはあったものの、進捗状況や稼働率などの定量評価と目標設定などの評価を元に評価。
・「コロナ渦」でも評価制度自体への大きな影響はなし。
テレワーク中の勤怠管理をどうするか
だが、勤怠管理制度については、変更をせざるをえなかったという。
A社はもともとサテライトオフィスやフリーアドレス制を適用しており、これまでも個人の状況に応じてテレワークにも柔軟に対応するなど「働く場所に制限を設けていなかった」という。
「これまではフレックスタイム制度で勤怠管理を行っていましたが、コロナ渦中でほぼすべての従業員が在宅勤務をすることになったので、勤務開始と終了時には上司へ連絡し、業務状況を報告する事を義務化。そしてパソコンの起動歴を確認するツールを新たに導入し、そのログと勤怠報告に乖離がないことを管理するようにしました。有給取得や残業についても、個人の申請とパソコンのログを元にして確認しています」と岡田さん。
テレワークの問題点について尋ねると、「個人的に業務に向き合ってみた感想」としながら、『労基対策』を挙げた。
「就業時間外に仕事を行ったにも関わらず、勤怠報告をせずに給料が支払われていないという状況が生まれるやすくなったと思います。今のところ弊社ではログ情報を確認することで予防策を立てています。が、社員がルールを守って働いているおかげでしかありません。今後もテレワークを続けるなら、働き方や管理体制の改善が必要だと思います」。
「自由な働き方」で効率アップ
自由な働き方を取り入れ、効率化につなげたケースもある。
村田大拓さんは、東証一部上場メーカーで人事を担当している。
昨年3月頃から「多くの従業員から、満員電車を使った通勤への不安について相談されるようになった」という。、
それ以降、テレワーク実施に向けたインフラの整備や、情報管理体制を他部門と連携しながら整えていったという。
「それまでは、『出社しない働き方』をする社員はほとんどいなかったため、経営層の中には、テレワークの導入を心配する声もありました。しかし、新たな規則を設けて勤務時間中の行動を縛るよりは、まずは個人の裁量に任せて働いてもらい、『アウトプットがどのように変化するかを見てみよう』という結論に至りました」と、村田さんは当時を振り返る。
緻密なコミュニケーションの重要性
テレワークの導入で、社員のパフォーマンスが低下したという声も多い。
村田さんのB社でもそうしたケースがあったというが、目標設定を高めにすることで、パフォーマンス低下を防ごうとしているという。
「『チームが全力で取り組めば達成できるかどうか』というレベルのチーム目標を設定し、自由な働き方をするなかでも緊張感が維持できるようにしました。まだまだ手探りの部分もありますが、どのような環境であっても、個々の力を最大限に発揮出来る方法をこれからも探っていきたい」と、村田さんは語る。
村田さんの会社では、仕事の進捗やモチベーションの維持などを目的に、週の初日と最終日には全体ミーティングを行うほか、個人面談も実施しており、いずれも対面、オンラインの両方に対応しているという。
B社のミーティング
・コミュニケーションと進捗を把握するために、週の初めと終わりにミーティングを実施(各30分程度)
・毎週1回、1対1で面談を実施(各30分程度)
・対面式、オンラインなど、形式は問わない
全体ミーティングで確認していること
・チームの目標の中で、各週に何を優先して取り組むべきか(週初めに実施)
・各週に取り組むべき優先事項に対する達成度(週終わりに実施)
・会社が何を目指しているか
・会社が目指す方向性に紐づいたチームの目標
個人面談で確認していること
・仕事の進捗
・具体的な仕事内容やスケジューリングについて
・不安や悩みの相談(予定通りに進んでいないことがないかなど)
・その他(雑談や世間話など、話題は自由)
「週始めの月曜日に、課題や優先事項の確認。週終わりの金曜日に達成したことを全員に報告する時間を設け、コミュニケーション不足やケアレスミスの回避に努めています」と村田さんは語る。
「報告の際は、前向きな気持ちで仕事が出来るように、それぞれが達成したことをみんなで褒め合い、『絶対に叱責はしない』と言うルールを設けました」。
一見すると、大したことではないように見えるかもしれない。
だが、「周囲から褒められて、自分が役に立っていると実感できる」「報告が楽しみになった」、「社員同士の距離が離れていても、共通認識を持って業務を進められる」、「相談や調整が円滑になった」などの声が聞かれ、会社での評判は上々だという。
当初は試験的に始めたというが、活発に意見が交わされるようになり、村田さんも「効果のほどに驚いた」そうだ。
「これまではデスクワークで疲れ果てていた」
新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの働き方にも大きな影響を与えた。だが、今回お話しをうかがった岡田さん、村田さんともに、テレワークの可能性や手応えを感じているようだ。
岡田さんは、テレワークのメリットとして、「人材獲得の可能性が広がった」点を挙げる。
「テレワークの浸透に伴い、これまでは難しかった遠方に住む人材も、積極的に受け入れられるようになりました。オンライン面接では、その人の人間性を感じ取りにくい部分などの懸念点もまだまだありますが、可能性が広がった点だと思います」。
また村田さんは、テレワークのメリットに「業務の効率化」をあげた。
「コロナ前は、ほとんどの社員は出社して真面目に仕事をしていましたが、その一方で、心身共に疲れているように見えることもありました。今思えば、『仕事中は席を離れてはいけない』という固定観念があったせいで、無駄に疲れてしまっていたように思います。
そもそも人間は、長時間にわたって集中力を保つことが難しい生き物。コロナ対策でテレワーク導入したことで、息抜きの時間を挟みながらも、集中力の高い状態で業務に取り組めるようになりました」。
新型コロナウイルスの影響により、ビジネスや会社のあり方について考えさせられることも多かった2020年度だが、今回の取材を通じて見えたのが、社員間のコミュニケーションや
マネジメントといった、ビジネスを支える仕組みの重要性である。これまでよりも社員の姿が見えにくくなった状況だからこそ、積極的にコミュニケーションを取り、企業や個人の目標や達成度の振り返りをする。マネジメントの原点を見つめれば、意外なところに新たな発見があり、会社の成長へとつなげられるかもしれない。
(白鳥純一)