経済・企業 コロナ禍の年末調整&確定申告
「特別定額給付金10万円を入れると扶養控除の枠を超える」「持続化給付金は課税?非課税?」コロナ対応が必要な「確定申告」で最低限注意すべきポイント
新型コロナウイルスが甚大な影響を及ぼした2020年もいよいよ終わり、年明け2月には確定申告を控え、各企業の経理担当者はいろいろと慌ただしい季節でもある。
今年度の年末調整と確定申告は新型コロナウイルスの影響で例年と違うさまざまな対応が必要になっている。
感染拡大への対策として各種の給付金や、休業補償金が支出され、その扱いをどうするかという問題も、経理担当者にとっては頭が痛いところだろう。
税理士の白石真敬氏(税理士法人リライト・東京都千代田区)に、書類の作成時の注意点をお伺いした。(白鳥純一)
意外と知らない?「毎年恒例の年末調整」の基本
年末調整では「例年以上に持続化給付金や家賃補助に関する相談が多かった」と白石氏。
そもそも「年末調整」とは、会社員やアルバイトなどのような給与所得者が、1年間の給与所得を申告し、所得税額の支払い額を決定させる手続きのことだ。
所得税は、毎月の給与のなかから「源泉徴収」として支払われている。
だが源泉徴収の金額は事前に見積もった「見込み額」に過ぎないため、実際の所得に基づく税額とずれが生じることがある。
そのため、1月1日から12月31日までの1年間における給与が決まった時点で、その誤差を修正するわけだがこれが年末調整と呼ばれる作業だ。
年末の時点で会社に勤務にしている人なら雇用形態を問わず年末調整の対象になる。
だが、給与総額が2,000万円を超える場合は例外だ。
■年末調整の対象
・1年間を通じて勤務している人
・年の途中で就職し、年末まで勤務している人
■年末調整の対象外の例
・給与収入の総額が2,000万円を超える人
・災害減免法の規定で、給与に対する所得税及び復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
・2カ所以上から給与の支払いを受けている人で、他の給与の支払者に申告書を提出している人
10万円の「特別定額給付金」は課税?非課税?
コロナ対策の目玉として大いに話題となった一律10万円の「特別定額給付金」。
「もう使っちゃったよ」という方もいれば、「使わずに貯金した」「資産運用に回した」という向きも多いだろう。
会社員として勤務されている方はあまり気にしなかったかもしれないが、この特別定額給付金については「非課税」が決まっている。
なので、年末調整において特別な処理は原則としては必要がない。
また、扶養控除の「103万円の枠※」からも除外されていると白石氏は語る。
「夫婦一方の収入が103万円以下なら扶養控除を受けられますが、10万円の特別定額給付金はこの103万円の枠に含まれません。扶養控除の申請時に給付金を収入に含めないように気をつけてください」
「ちなみに、扶養控除の103万円の内訳が2020年から以下の通り変更になっていますので、こちらもあわせて注意してください」
・基礎控除(誰もが一律で控除される金額) :38万円 → 48万円(現在)
・給与所得控除(給与所得者が一律で控除される金額) :65万円 → 55万円(現在)
給付金は「課税」「非課税」が混じっているので確定申告時に注意が必要!
主に会社員が行う「年末調整」に対して、事業者や個人事業主に課されるのが確定申告だ。
確定申告には、「青色申告」と「白色申告」の2通りの方法がある。
「青色申告」の主な特徴
・65万円の特別控除(収入から65万円を差し引きでき、納税額を抑えられる)
・10万円の特別控除(簡易簿記による取引記録の場合)
・赤字を3年間繰り越すことが可能
・家族への給与を必要経費換算出来る
・30万円未満の減価償却資産は一括経費として計上可能
「白色申告」の主な特徴
・記帳や申告手続きが簡単
・特別控除を受けられない(青色承認申請書の提出で、10万円の特別控除を目指せる)
・3年間の赤字繰り越しができない
一定の条件を満たせば最大65万円を控除にできるほか、家族の給与を経費扱いにできるなど、青色申告の方が通常メリットが大きい。
2020年(令和2年)分の書類提出期間は、2021年(令和3年)2月16日~3月15日と発表されているが、昨年は新型コロナウイルスの影響にともない延期措置が取られている。
「感染状況によっては同様の措置がとられる可能性もあるため、提出期間については注意が必要」と白石氏。
また、コロナ対策を目的として支給されたさまざまな『給付金』の扱いには注意が必要です」とも白石氏は指摘する。
「事業者が受け取る給付金には課税対象になるものと、非課税対象になるものがあるからです。たとえば個人事業主の方が持続化給付金を受け取った場合は、『雑収入』として課税対象になります」
課税対象となる給付金(雑収入扱い)
・定額給付金
・持続化給付金、
・各種助成金
非課税課税の給付金
・特別定額給付金(一律10万円)
在宅勤務手当を導入で税金が増えるケースも?
新型コロナウイルス感染拡大に伴う「テレワーク」の推進に伴い、一部には、これまで支払われていた「通勤交通費」の支払いを止め、「在宅勤務手当」としての支払いに変更したと言う事例も見られるようだ。
ただ、「通勤交通費」か「在宅勤務手当」かで、税金の処理には大きな違いが生じると白石氏は言う。
「『通勤交通費』と『在宅勤務手当』の一番の大きな違いは、所得税や住民税の課税対象になるかどうかという点です」
「定期券などを購入するための『通勤交通費』は、会計上は会社の『福利厚生費』該当しますが、これらは一定の基準まで非課税になっています」
「具体的には公共交通機関を使用している場合は、1人あたり1か月で最大15万円までが非課税となります。詳しくは国税庁のサイトを参照してください」
(参照:https://www.nta.go.jp/users/gensen/tsukin/index2.htm)
「そのためコロナ禍で在宅勤務手当を導入して通勤交通費を減らした場合などは、従業員の所得税や住民税の課税対象額が増える可能性があります」
「通勤交通費を減らしている場合、従業員の社会保険料の計算にも大きな影響があります。社会保険料は、年間所得や通勤手当を加えた額を元にして、実際の支払額が決められているからです」
PCR検査費用を会社で支出した場合の会計処理
自分の会社でもコロナ感染者が発生した場合、濃厚接触者には該当しなかったが、会社から費用は会社負担でPCR検査の受診を求められたケースはどうなるのだろうか。
「検査に要した費用は、会計上は『福利厚生費』として計上されます」と白石氏。
「ただ、『福利厚生費』として計上できるのは検査代のみになります。休暇日に検査を行った社員に検査代に加えて「休業手当」を支払っていたり、さまざまな事情により検査代よりも高額な費用を支払った場合には、それらは『給与手当』として処理するケースが多いようです。高額な支払いが必要になったケースは税理士などにぜひ相談してください」
「家賃減免交渉が成功」した場合に絶対忘れてはいけない処理
緊急事態宣言によって営業を自粛した店舗が、家主と家賃減額の交渉を行ったケースは、どのような会計処理が必要なのだろうか。
「通常、恣意的で理由のない家賃の値下げは、脱税に繋がる可能性もあるため認められていないのですが、今回のケースでは、家賃の減額分は『寄附金』や『損益』として扱い、法人税については値下げ前と変わらないケースがほとんどです」
白石氏によると家賃の減額について証明する必要もあるようだ。
「オーナーとして賃貸業を営む者と、テナント料を支払う者との間に減免の合意があった場合には、それを証明する書類が必要になります。契約書類を作り直すなどの対応が必要です」
コワーキングスペース使用料は使用時間別に3通りの処理がある
テレワークの導入で、社員に「コワーキングスペース」などの利用料を経費として支払う企業もある。
これは「利用時間や頻度によって計上項目が変わることがあるので注意が必要」と白石氏。
「利用費を経費として計上するには、コワーキングスペースを利用したことを証明する領収書なども必要ですので、忘れずに添付してください」
コワーキングスペースの計上項目例
・会議や作業などの短時間利用 会議費、または賃借料
・毎月一定額、または高い頻度での利用がある 賃借料、地代家賃
・毎月固定の家賃や賃借料を払っている 賃借料、地代家賃
白石真敬(しらいし・まさたか)
税理士法人リライト所属、税理士