再エネ導入による「雇用減少」をアメリカが本気で心配している理由
米バイデン政権は2月19日、地球温暖化対策の国際的な枠組みのパリ協定へ正式に復帰した。
気候変動対応が国家安全保障の柱と位置付けられる中、クリーンエネルギー産業が創出する新規雇用と、トランプ前政権が保護してきた化石燃料産業における雇用の喪失のバランスが議論されている。
保守派サイト「デイリー・シグナル」は2月26日付の記事で、「バイデン大統領は、カナダの油田と米メキシコ湾岸の製油所を結ぶパイプラインであるキーストーンXLの建設認可を取り消した。
それに対し、サウスダコタ州のクリスティ・ノーム知事が『パイプラインが通過するわが州では、建設による税収をインフラ補修や教員の給与支払いに充てる予定で、数千の雇用増も見込んでいたが、すべておじゃんになった』と嘆いている」と伝えた。
米石油協会(API)は、国内総生産(GDP)に占める石油・天然ガス産業の比率を約8%、就業者は1000万人と推定。バイデン大統領は昨年の大統領選挙で、「クリーンエネルギー産業全体で1000万人の雇用を創出する」と打ち出している。
こうした中、米学術機関の集合体である全米アカデミーズは2月4日、環境専門家グループがまとめた報告書を発表。
執筆者たちは、「再生可能エネルギーは(バイデン大統領の公約よりもかなり少ない)ブルーカラー労働者100万~200万人分の雇用を創出する」と予測した。
民主党寄りの米CNNも2月1日付の解説記事で、「バイデン政権は発足後に発表した計画で、既存の340万人分のクリーンエネルギー雇用に加えて、新規雇用を1000万人分以上創出するとしたが、それは想定通りに進んだ場合で、目標達成に必要な期間さえ示していない」と指摘した。
CNNはさらに、「環境問題に取り組む超党派の財界グループであるエンバイアメンタル・アントレプレナーズによれば、バイデン大統領の4年の任期中に100万人分のクリーンエネルギー雇用を増やすには、その期間中に毎年、環境に優しい仕事を前年比6・4%増のペースで創出する必要がある。だが、前年比の伸びは2018年に4%、19年に2%と低調で、道のりは遠い」との見方を示した。
保守派シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所のベンジャミン・ゼッチャー研究員は同記事で、「コストの高い再生可能エネルギーの割合を増やすことは、雇用減少を意味する」と政権を批判した。
資源が豊富な共和党州
こうした中、リベラル派シンクタンクのブルッキングス研究所のエイディー・トーマー研究員らは2月23日に発表した報告で、「個人年収の中間値レベルを上回る賃金が支払われる化石燃料産業の仕事は、高卒以上の教育が要求されることも少なく、実地訓練で技術を習得できるなど、利点が多い。
そのため、化石燃料産業の地元がそうした雇用を失いたくないのは当然だ」と理解を示した。
その上で報告書は、「太陽光および風力発電の資源が豊富なサウスダコタ、テキサス、フロリダ、ノースカロライナ、ユタなどの州は共和党地域がほとんどで、温暖化ガス排出ゼロ目標の実現には最適地である」と指摘。さらに、「適切な技能訓練を行えば、共和党地域がクリーンエネルギーの中心地として繁栄できる」と主張した。
(岩田太郎・在米ジャーナリスト)
(本誌初出 石炭や石油産業の雇用を再エネが吸収できるのか=岩田太郎 20210323)