経済・企業

「EVはどうせ化石燃料の電気で走っている」と笑う人が知らない、「テスラの蓄電池&再エネビジネス」について

    イーロン・マスク氏(左)と記者会見する前沢友作氏=米ロサンゼルス近郊で2018年9月17日、ルーベン・モナストラ撮影
    イーロン・マスク氏(左)と記者会見する前沢友作氏=米ロサンゼルス近郊で2018年9月17日、ルーベン・モナストラ撮影

    筆者は、脱炭素戦略推進のためには、EV、太陽光発電、蓄電池を3人4脚で普及させていくことが必須と考えている。

    それを地で行くのがテスラだ。

    テスラの創業は2003年だ。

    5年後の2008年には最初のEVである「ロードスター」を発売。

    それから2年後の2010年にはNASDAQに上場し、その後は快進撃を続けている。

    しかし、テスラはEVだけの会社ではない。

    テスラのオフィシャル・ミッションは「維持可能なエネルギーへのシフトを加速する」ことだ。

    テスラは実際、早期からエネルギー分野の取り組みを行っているし、CEOのイーロン・マスク氏は、エネルギー分野を将来の成長分野と見ている。

    テスラの蓄電池「パワーウオール」の快進撃

    テスラは2015年、家庭用蓄電システム「パワーウオール(PowerWall)」を発売し、EVと蓄電池を扱う会社となった。

    これは「ロードスター」搭載のバッテリーシステムと基本的に同じ構造で、小型円筒形のセルを独自の技術でくみ上げたものだ。

    筆者が「パワーウォール」を初めてみたのは、ドイツ・ミュンヘンで開催されたIntersolar Europe 2015の展示会だったが、ユニークなデザインとその低価格で参加者の注目を集めていた。

    出所:筆者撮影(@Intersolar Europe 2015)
    出所:筆者撮影(@Intersolar Europe 2015)

    ただし、初代「パワーウォール」は単に電池を集積しただけのパックで、インバーター(電池からの直流電気を交流に変える装置)が含まれてないなど、使い勝手の悪いものだった。

    テスラは、続いて2016年10月に、2代目となる「パワーウォール2」を発表。

    これは、インバーターを装備した本格的なシステムで、テスラによれば、2020年4月までに、10万台を設置したという。

    そして、この2代目は2020年春から日本でも発売されている。

    「パワーウォール」は主として家庭用で、使用法としては、①太陽光発電システムと併用して電力の供給を安定化させ自家消費をやり易くする、②単体で夜間電力を貯めて昼間使う、さらに、③停電などの非常時対策、などが挙げられている。

    容量は13.5kWhもあるので、日本の平均世帯なら、普通の使い方で1.3日分に相当する。非常時など、節約しながら使えば数日は凌げるという優れものだ。

    また、このシステムからの出力は連続使用で5kW(ピーク出力7kW)もある。

    5kWというのは、電圧100Vの日本の家庭の場合、50Aの契約電流に相当するので、電池であることを意識することなく、全く普通に電気製品を使うことができる。

    出所:テスラ
    出所:テスラ

    最大の注目ポイントはその低価格だ。

    以下、全て税抜きで、本体価格は82万5000円+系統連携のために必要な「Backup Gateway」が16万5000円=合計99万円である。

    これを、単純に1kWh当たりの価格に換算すると約7万3000円となる。

    現在、日本国内で市販されている家庭用蓄電池の価格は、実勢ベースで1kWh当たり15万円~20万円程度なので、「パワーウォール」は驚異的な低価格であることがわかる。

    実際に使うためには、システムの購入に消費税がかかり、さらに、工事費を別途支払う必要がある。

    まず、税込み本体価格は990,000円+消費税10%=1,089,000円。

    これに工事費が400,000~550,000円と言われているので、合計すると160万円前後となる。工事費込みでも1kWh当たり11万円程度だ。

    筆者は特に太陽光発電との併用に期待している。

    2019年11月から順次、家庭用太陽光発電の固定価格買い取り制度(FIT)の買い取り期間が終わっているので、発電した電気を売るより自家消費する方が有利になっている。

    従って、夜でも太陽光による電気を使うために、「パワーウォール」の購入を考えるユーザーが増えてくるだろう。

    「パワーウォール」は主として家庭用だが、業務用・学校用に、さらに大きな容量が必要な場合には、最大10台(合計蓄電容量135kWh)まで並列で拡張できる。

    「パワーウォール」の成功を受けて、業界では、後継機(「パワーウォール3」)を待ち望む声がある。

    2021年中にも発表されるのではないかという見方もあるようだ。

    「ソーラーシティ」買収で社名変更

    「パワーウォール」は日本でも販売され話題になっているので、テスラが蓄電池事業に参加していることを知る人は多い。それでは、太陽光発電の方はどうか。

    実は、テスラCEOのイーロン・マスク氏は、2006年以来、太陽光発電の会社にも関わってきた。それが、マスク氏の従兄達が創業したソーラーシティ(SolarCity)で、マスク氏自身も会長を務め支援していた。

    ソーラーシティ製太陽光パネルの中でも特に注目されているのが、「ソーラー・ルーフタイル」というもので、パネルが屋根材と一体になっており、外からは普通の屋根にしか見えないものだ。

    筆者も、「イーロン・マスク氏の太陽光発電会社」として早くから注目してきたのだが、こちらはテスラのようにはうまく行かず、創業から10年後の2016年、経営不振に陥り大量の人員整理を行うに至った。

    その時、マスク氏は、テスラによるソーラーシティ買収を決定した。

    この決定について、一部の株主達は、赤字のソーラーシティ救済のための買収はテスラにとってマイナスになる、として反対した。

    そのため、買収には予想以上の時間がかかってしまったが、2016年11月17日に開催されたテスラの株主総会においてようやく承認され、同月21日に買収を完了した。

    買収完了後は、ソーラーシティの製品は、全てテスラのウエブサイト経由で販売されるようになった。

    これにより、テスラはEV、蓄電池、太陽光発電を3者一体で推進する世界初の主要企業となり、2017年2月1日、社名をそれまでのテスラ・モーターズ(Tesla Motors, Inc.)からテスラ(Tesla, Inc.)に変更した。

    単なるEVメーカーとしてではなく、エネルギー企業として捉えると、テスラの全体像と今後の方向性が見えてくる。

    村沢義久(むらさわ・よしひさ)

    1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、米コンサルタント大手、べイン・アンド・カンパニーに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券バイス・プレジデント(M&A担当)、東京大学特任教授、立命館大学大学院客員教授などを歴任。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)など。

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