発売前に読める「週刊文春 電子版」の衝撃=永江朗
『週刊文春』のスクープ、いわゆる「文春砲」の勢いが止まらない。最近も菅義偉首相の長男も同席した総務省官僚接待問題や、東京オリンピック・パラリンピック開閉会式の演出の統括役による女性タレントの侮辱問題などを連発している。
国会では野党が『週刊文春』の記事を後追いして政府に質問する体たらくだ。ひと昔前の野党には「爆弾男」の異名をとる議員がいて、驚くような情報を元に政府を追及した。いま不正を告発する人は、野党よりも『週刊文春』を選ぶ。
かつて『噂(うわさ)の真相』という雑誌があり、政界やメディア業界のスキャンダル・ゴシップを得意としていた。編集長だった故・岡留安則氏に筆者が聞いた話によると、スクープの多くは当事者や新聞・雑誌記者が持ち込んだもの。自分が所属する組織では上部に握りつぶされ、やむにやまれず『噂の真相』で告発したというケースも少なくなかったという。同様に『週刊文春』がたれ込みの受け皿になっているのだ。
その『週刊文春』が月額2200円(税込み)で読み放題のサブスクリプション・サービス(利用期間に対して支払う方式)「週刊文春 電子版」を開始した。なんと『週刊文春』のすべての特集記事が雑誌発売日の1日前に読めるという。
書店は雑誌やコミックなどの発売日に敏感である。発売日前に売ることを規制し、違反する書店に圧力をかけることもある。書店の目には今回のサブスクリプション・サービスが、出版社みずから仕掛ける早売りのように映るかもしれない。
通常の『週刊文春』は1冊440円(税込み、電子書籍版は400円)だから、1号当たりでは電子版のほうが割高となる。電子書籍の価格を紙版と同額か1〜2割程度安く設定することが多い中、異例の価格設定だ。しかも電子版はグラビアや連載コラムなどを除くというから、かなり強気である。スクープを早く読めるということに、高い付加価値を認めているのだろう。
冒険的な試みだが『週刊文春』の電子版が成功すれば、追随する雑誌も現れるかもしれない。そうなると出版ビジネスはますますデジタルに傾斜していく。
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