中国養豚が急拡大 日本の生産量の4倍増へ 「豚ホテル」で大規模飼育=高橋寛
中国の養豚業が、2018年夏に発生したアフリカ豚熱(ASF)から回復して急拡大し、穀物価格の高騰を招いている。
米農務省(USDA)によると、中国では18年末に4億2800万頭だった養豚頭数が、アフリカ豚熱によって20年末には3億4000万頭まで激減。21年末までにはこれを4億500万頭規模にまで取り戻すと予想されている。これにより、20年に3800万トンだった豚肉(枝肉)の生産は、21年には4350万トンまで約550万トン増える見込みという。
550万トンといえば、日本の豚肉の生産量の4倍に相当する。これだけの量をどうやって増やすのか。中国では、これまで小さな零細農家が中心だった養豚産業を、大企業主導の大規模飼育に切り替えることで効率化を図ろうとしている。すでに山間部には近代的な設備を整えた巨大「豚ホテル」が建設され、多頭飼育が始まっている。
零細農家では、人間の残飯を豚のエサにするのが一般的だったが、大規模施設での飼育に代われば当然、トウモロコシや大豆などの良質な飼料の安定的な確保が必要になる。実際、中国国内の飼料代は、20年初には1キロ当たり2元(約30円)程度だったのが、足元では3元(約50円)程度まで上昇。これが国際価格の上昇を招いている。安価なモロコシ(ソルガム)や大麦、小麦の需要が増え、こうした穀物の価格まで連動して上がっている。
枝肉輸入量も増加
一方で中国は、豚の枝肉の輸入量も増やしている。
USDAによると、中国は繁殖用母豚の生産性の低さや多頭飼育による疫病の流行、飼料代高騰に悩まされ、施設規模を拡充しても生産が追いつかない状況にあるという。国内の豚の価格も高止まりしている。
21年の中国の豚肉・豚肉製品の推定輸入量は480万トン。特に、20年にまとまった米中貿易協議の第1段階合意を受け、米国からの輸入を拡大させている。巨大化する中国の胃袋は、豚の飼料となる穀物の国際価格をつり上げるとともに、豚肉の国際価格をもつり上げているのである。
牛肉も同様だ。中国の牛肉輸入量は急増している。穀物価格の高騰は、牧草肥育牛の肉ではさほどではないかもしれないが、穀物肥育牛の肉には影響する。
日本の畜産農家は、飼料代をなかなか価格に転嫁できないため、今後ますます苦しくなるだろう。経営が厳しくなった農家の廃業などで供給が減れば、国産牛肉はじわりじわりと価格がつり上がるだろう。
(高橋寛・ブリッジインターナショナル代表)